桜色の思いで

木葉風子

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「詩織、どうかしたの?」
「あっ、ううん
何でもない…」

心配して訊ねた母親に
そう答えた

「病室はこっちよ」

母親と一緒に廊下を歩く
ふと、中庭に目をやると
彼はまだベンチに座って
桜の蕾を見ていた

❨あの人
ここに入院してるのかな?
でも、普通の服装だった
そっか、誰かのお見舞いに
来たのかもね…❩

足を止め彼をじっと見つめた

桜を愛でる姿は
映画のワンシーンみたい

廊下を突き当たり
右に曲がると
エレベーターがある

「詩織、行くわよ」

母親に促され
エレベーターに乗る

「病室は三階よ」

“3”の数字を押す
静かに動きだすエレベーター
三階に着き静かに止まる

「部屋は301号よ」

病棟の一番奥の二人部屋
さっそく入る
ベッド側の窓からは
中庭が見渡せる

窓の外を見る
中庭には誰もいない

❨あの人
帰ってたのかな…❩
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