桜色の思いで

木葉風子

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太陽が西に傾き
茜色に染まっている
昼間はいくらか
暖かったが
日が沈むと風が
冷たく感じる
外来の人も少なくなり
静かだ
中庭のベンチに
ポツンと座る詩織
先ほど聞いた
副院長の言葉を
まだ理解できなかった

「神谷先生弟さんが
亡くなったんだよ」

「えっ…?弟って…」

何故か嫌な感じが
心をよぎる

「彼は長い間
病気と闘ってたんだ…」

切なそうに言う

「あの
その弟さんの名前は…?」

「洸くん、だよ」

暗くなり始めた
中庭には彼女一人
肩を震わせ
両手で顔を隠す
とめどなく涙が
溢れだした

「サンズイに光で洸」

その言葉を思いだす
最後に会ったときの
彼を思う
頬に触れた彼の手
彼の腕
繋いた指先の
温もり
そして優しい
笑顔

全てが悲しい
思いでになってしまう
ボロボロ溢れる涙
唇を噛みしめ
鳴き声を我慢する
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