珈琲いかがですか?

木葉風子

文字の大きさ
上 下
13 / 80

Bar「來夢」③

しおりを挟む
「会社の後継ぎっていえば
彼女の所、いろいろ大変
みたいなのよ…」
黙り込む二人に話しかける
バーテンダーの女性
「彼女って…」
「朝美さんよ」
「ドラゴンズカンパニー
何かあるのか?」
奏が彼女に訊ねた

「何ヶ月か前にね
あそこの社員達が
話してたのよ」
小声になり話しだす
「へえー、客の話を
盗み聞きしてるんだぁ」
同じように小声で言う奏
「人ぎき悪いわね
自然に耳に入ってくるの
それに人に話さないわ
あなたたちだからよ!」
「守秘義務だね」
「お互いさま、でしょ」
なぜか睨み合う二人
「それって、
春頃のことだよな」
隣に立つ妻に聞く
夫の言葉に軽く頷く

「その話し
聞かせてもらえるかな?」
時が話しに入ってくる

============
あれは四月の下旬頃
新入歓迎会の二次会中
新入社員や若い社員は帰り
中堅社員やベテラン社員
幹部クラスと秘書室の人間
それぞれ楽しく飲んでいた

ベテラン社員の中の一人が
酔った勢いで大声で言う
「でも、社長は
何を考えてるんだ?
次の社長はどうやら…」
そして小声で近くにいる
社員に何か言っている

「ちょっと、いい加減な
ことは言わないで下さい」
その話を聞いていた朝美が
厳しい様子で注意する
「本当かどうか
わからないことでしょ?
それに、こんな場所で
する話じゃないわよ」

「君は社長の見方
だからな!」
朝美に対して嫌味を言う男
「会社の将来のことだから
我々社員にも大切な話だと
思うけど!」
それを聞いて周りがザワつく

「何もわからないのに
簡単に口にすること
じゃないでしょ!」
そう言って睨みつける朝美

「君はくやしいんだろ?
社長のこと狙ってたのに
女として見られなかった
まぁ、いくら優秀な社員
でも女として見られて…」

ーパシャ~ンー
男が話してる途中で水の
入ったグラスを手に取り
おもいっきりかけた
「何するんだー!」
「最低の発言ね!
仕事に男も女も関係ないわ
他人の粗探ししている暇が
あるならもっと仕事で結果
出しなさいよ!」

周りにいた女性社員達が
朝美の発言に拍手喝采する
「私たちだって必死に
仕事してるわよ!」
「あなたみたいな考え
誰にも受け入れられないわ」
一斉に反撃する女性社員

「あなたは何も
わかってないわよ」
そう言って話しを続ける
「先代の社長の頃から
秘書していたから龍谷家の
ことはよくわかってるわ」
びしょ濡れになった彼に
タオルを差し出す朝美

「君の負けだな」
一人の年配の社員が言った
「人の上に立つ人間にとって
必要なのは思いやる心
人を見極める厳しい目
この会社が成長したのは
人を大切にしてきたからだ
君の考えが間違っているとは
言わないけど…」
 
============
「なんか、生々しいなぁ」
奏がため息をついて言った
「サラリーマンもいろいろ
大変なんだよなぁ…」
「君達もそうだった?」
カウンターのなかの二人に
問いかける奏
「まぁ、どこでも
そんなもんだと思うけど」
今では夫婦でバーテンダーを
しているけれど以前は
大手会社のトップ営業マン
その頃を思いだしている
「よく「古時計」に
来てくれてたよね」
時が笑いながら言った
「そうそう「古時計」の珈琲
飲むと落ち着いたんだよ」
懐かしそうに笑みを浮かべる

❨でも、人の思いを考える
そんな人なら満弥くんの
気持ちを考えないんだ…?
それとも他にも何か訳が
あるというんだろうか❩

バーテンダーと昔話をする
時を見つめながら思う

「ところで時
今は何を捜してるんだ?」
真面目な口調で時に訊ねる
「…内緒だよ」
「なるほど
守秘義務ってことか」
「わかってるなら
聞かなくていいだろ」
そんなことを話す

「ねぇ、奏くん
朝美さんと関係あるの?」
「それも、ヒ、ミ、ツ…」
口もとに指を当て言った奏















しおりを挟む

処理中です...