珈琲いかがですか?

木葉風子

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調査結果①すれ違う思い

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空が茜色に染まる
静かな住宅街
そのなかでもひときわ目立つ
おおきな門構えに龍谷の表札
「ここだよ」
家の前に立つ男二人 
しばらく待っていると
「すいません
お待たせしました」
双葉が時と奏に声をかける
淡いピンクの
サマーセーター
エメラルドグリーンの
フレアスカート
髪を下ろしているので
以前会ったときより
女性らしい雰囲気だ

「こちらからどうぞ」
大きな門構えの横にある
通用門から中へと入った
しばらく歩くと日本家屋の
立派な玄関が目にはいる
「ここはおじいさんが
建てた家なのよ
私の母もここで育ったの
今は満弥くんの家よ」

双葉に案内され
応接間に来た二人
「どうぞ座ってください」
外国製のソファーに座る
「なんか、落ち着かない」
そう言ってげんこつで
ソファーを押しだした
「奏、なに子供みたいな
ことしてるんだよ」
小さな声で時に言われる
「だってさ
こんなフカフカのソファー
滅多に座ることないから」
その様子を見て笑う双葉
そのとき、ドアが開いた

「双葉ちゃん」
入って来た一人の女性
以前に双葉の家の前で
会った満弥の母、杏子
二人の前にお茶と和菓子
「どうぞ
召し上がってください」
そう言いながらじっと見る

「あの、あなたは
双葉ちゃんの…」
奏の顔を見て訊ねる
「すいません
双葉ちゃんの彼氏じゃ
ありません」
杏子に頭を下げる奏

「あの、じゃあ
お二人は一体…」
怪訝そうな顔で見た
「おばさん
この人達はね…」
双葉が話し始めたときに
ガチャリ、ドアが開いて
満弥が入って来た
彼の隣には一人の男性
年の頃は五十代前半
面長で切れ長の目
なんだか双葉に似た
感じがする

「おじさん」
双葉が彼を見て言った
彼が満弥の父親みたいだ
「満弥、この人達は?」
息子をじっと見る父、仁弥
少し考え込む満弥
「満弥」
彼の母親が優しく呼んだ
その声で母親を見る
憂いを含んだ瞳を向けて
息子を見る母親
静まりかえる室内

「私達がなぜここにいるか
話をしてもいいですか?」
時の一言が沈黙を裂く
「わかりました
お話ください」
仁弥の一言で全員が座る
そしてみんなの視線が
二人に注がれる 
満弥一人除いては…

時が自己紹介を始める
「捜しや?」
差し出された名刺を手に
取る満弥の両親

「僕が依頼したんだ
ほんとの親のことを
調べてくれって…」
両親から目を反らして話す
「どうして
そんなこと…」
哀しい目で満弥を見る母
「あなたは誰が
なんと言おうとこの家の
私達の子供よ!」
かすかに震える声で
でも力強く言った
「おかあさん…」
反らしていた目を
杏子に向けた

「誰かに何か
言われたのか?」
満弥に問いかける仁弥
「別に、そんなこと…」
少し迷ったような
表情の満弥

「兄…社長の言ったこと
気にしてるのか?」
切ない表情で
満弥を見る仁弥
「だとしたら
気にすることないよ
もともとおまえを社長に
する気はなかったからな」
意外な仁弥の言葉
「それって、やっばり僕が
龍谷家と関係ないから?」
泣きだしそうな様子の満弥
「それは違うよ
双葉の方がふさわしいと
社長に言ったんだよ」
双葉がおもわず仁弥を見た
「おじさん
どういうことですか?
それって、やっばり満弥が
この家と関係ないから?」
矢継ぎ早に仁弥に聞く双葉
満弥は父親をじっと見た

「それは違うよ
私自身も人の上に立てる
人間じゃない…
満弥は私以上に優しいから
でも、人の上に立つのは
ときとして厳しさや強さが
必要なときがあるから」
その言葉を聞いてじっと
考え込む満弥

一方、以外な所で名前を
出された双葉
「イヤだ、それじゃあ
私がまるで気が強いだけ
みたいじゃない!」
膨れっ面になって言った

「そんな意味で言ってない
それにまだまだ先の話だし
これから先の君達の行動で
満弥の方がふさわしいって
なるかもしれない…
でも、今のところでは
双葉が第一候補だよ」

「いいじゃないか!
確かに僕よりは双葉の方が
バリバリ仕事できそうだ」
すっきりした顔で双葉を見た
「なによ、それ!
じゃあ満弥は何する気よ?」
「まだわからないよ…」
「私だって他にやりたい
ことできるかもしれないわ」

若い二人のやりとりを
楽しげに聞く仁弥
そして、話しだした
「私は本当は
父親の会社に入るつもり
なかったんたけどな」
初めて聞く父親の思い

「じゃあ
とうさんは何が
やりたかったの?」
おもわず父親に聞く満弥
そんな息子の言葉に
少し寂しげな瞳を返す

「あの頃は会社が大変な
時期だったから…
親が築き上げた会社を
潰す訳にいかなかったから
兄弟三人、力合わせて倒産
せずに済んで良かったと
一安心してるよ」

「じゃあ、とうさんは
その為に自分のやりたい
ことを諦めたの?」
真剣な顔で聞く
「何がやりたいってこと
じゃないけど、ただ息子
だからって特別扱いは
嫌だっただけなんだ」
やりきれない表情の仁弥

「同じことを
おかあさんが言ってたわ」
双葉が仁弥を見つめ話す
「自分の実力でできた仕事
でも、やっばり社長の娘
だからって言われたのが
悔しいって言ってたわ」
まるで自分が言われたかの
ように悔しそうな顔をする
「確かにそうだったわ
どんなに頑張っても
認めてもらえないのが
悔しかったのよ、一実は」
「おばさん…」
「だから自分で店を始めた
まぁ、浩介くんが一緒だから
頑張れるんだよ」
仁弥が続けて言う


「もう答えは
出てるみたいですね」

「答え……」

双葉と満弥が時を見た





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