珈琲いかがですか?

木葉風子

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誰がモデル?

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「ねぇ、奏さんは?」
「ほんとねぇ
確かモデルだって
言ってたのにね」
双葉と由季が話をしている
「ご心配なく
彼、今から出てくるから
お楽しみにね」
二人の側に来たヒロが言う
「もう最高に
カッコいいからね!」
彼の瞳がハートに
変わっているみたいだ
「ヒロさん
いいですか?」
一人の女性が話してきた
「あら
チーフ、どうしたの?」
どうやら彼女はスタイリスト
を纏めるチーフのようだ
何やら真剣に話す二人
そして、なぜだか由季を
じっと見た

「ほんとね、確かに
イメージピッタリかもね」
「じゃあ、彼女借りるわ」
由季を連れ出そうとする
「あっ、あの…」
「あなたにね
モデルをしてほしいの」
チーフが由季に言う
「えっ…?」
意味がわからない由季
「次の衣装があなたの
イメージに合うのよ!」
「モデル?」
「そうよ。心配しなくても
素敵に仕上げてあげるわ」
それだけ言うと由季を
連れ出した

「あの…
どういうことですか?」
ヒロの顔を見た双葉
「次の衣装ね
彼女に似合うわよ」
「でも、急にモデルなんて
彼女大丈夫かしら?」
「大丈夫よ
奏さんが一緒だからね」
「えっ?奏さん…」

やがてステージの
ライトが光る
先ほどの真夏のような
光と違い少し暗い感じだ
「なんだか雰囲気違う…」
じっとステージを見る双葉
そこに傘を差したモデル達
レインコートや
レインシューズを
お洒落に着こなす彼女達

「へぇ、可愛いー!
これなら雨でも
出かけたくなるかもね」
「そうでしょ
雨の日でも
楽しく出かけましょ
がコンセプトだからね」
わかりやすく言うヒロ
「爽やかな初夏と
眩しい真夏に挟まれて
地味な梅雨のイメージを
払拭したいからね」

少し暗いライトの中を
明るく歩くモデル達
その彼女達をカメラに
収めるカメラマンの陽

「撮影は無事に
進んでるかい?」
ヒロの隣に誰かが来て
声をかけた
「社長さん
どうしたんですか?」
「是非、現場を
みたくてね」
ヒロに「社長」と
呼ばれた男性
ブランド品のスーツを
身に纏っている
生真面目そうな感じだ

「これが最後の撮影です」
ヒロが彼に話しかけている
社長と呼ばれた彼は
カメラマンの陽の動きを
見ていた、まるで自分自身が
撮影しているかのような
真剣な表情になっている
「さあ
いよいよ奏さんの出番よ」
双葉にそう言うヒロ
おもわずステージを見る

そのとき、和傘を広げて
ステージを歩いて来る奏
着物風の和柄のシャツ
生成色の麻の生地のパンツ
足元は藁のサンダル
顔は傘で隠したままだ

「奏さん、顔見せてー」
撮影が終わったモデル達が
彼に声をかける
「イヤだよー」
傘の中から答える奏
「男前がもったいないわよ」
笑いながら言う彼女達
「いいんだよ
俺の笑顔は大切な人にしか
見せないからさ」
「キャ~!!」
女の子が喜びそうな言葉を
サラッと言う奏
周りの女の子達が大騒ぎ
その間もカメラを撮る陽
そしてもう一人
奏の動きを目で追っている
社長と呼ばれた彼

❨この人
カメラマンなの?❩
彼の様子を見て思う双葉

ステージでは
奏が振り返り戻って行く
そして女性の手を取り
こちらへ向かって来た
和傘で隠れて顔が見えない
ステージの前まで来ると
彼女の手を取り自分の
前に立たせた

「由季ちゃん、綺麗!」
萌と双葉が同時に言った
「ほんとイメージ通りね」
ヒロが感心して由季を見た
ステージに立っている由季
紫陽花の柄をあしらった
ワンピースは着物を表した
ようなデザイン
紫色のグラデーションが
由季の黒髪と力強い瞳を
引き立てている
足元は草履をイメージした
ようなミュール
頭の飾りは簪(かんざし)を
思わせるようだ

「彼女は新人モデルかな?」
ステージに立つ由季を
見ながら訊ねた
「社長、あの娘はね
今、一緒にステージにいる
奏の知り合いよ」
「奏って、前に言ってた
あなたの想い人かい?」
「素敵でしょ!
アプローチかけてるけど
相手にされないのよ」
「それは残念だね」
苦笑いを浮かべながら
ヒロをみる彼
「あら、もちろん
タケル社長もいい男よ」
「いいよ
気をつかわなくても…」

二人の会話を呆れ気味に
聞いていた双葉
❨あの社長さん
“タケル”っていうんだ…
でも、まだ若いよね
奏さんや時さんとそんなに
変わらないみたいよね❩

カシャ、カシャと
シャッターの音が響く
眩く光るライトの下を
照れながら立つ由季
「もっと、こっち見て!」
カメラマンの陽が言う
「後ろの彼
彼女と手を繋いで!」
陽の言葉で由季の隣に立ち
彼女の手を握る
おもわず顔を赤らめる由季
「普通にしてていいよ」
彼女に小声で言う奏
「傘を閉じて」
手を握ったまま傘を閉じて
由季と背中合わせになった

「こちらを向いて!」
陽が奏に要求する
「顔は見せないよ
そういう約束だからね」
「約束?」
「そう!じゃなきゃ
今撮った写真全部ナシだよ
ヒロとそういう約束だから」
陽がヒロを見る
「確かに顔は出さないと
いうことで引き受けて
もらったわよ」
「そうか…
じゃあ仕方ないか」
残念そうだが背中合わせに
立っている二人を撮る

「彼ほどのいい男が
なぜ顔を見せないんだ?」
タケルがヒロに訊ねる
「さぁ、どうしてかしら
ひょっとして悪い事でも
してるのかしら…?」
何故か物騒なことを言うヒロ

「撮影終了しましたー!」
陽がかけ声をかける
「お疲れさま」
ヒロがスタッフやモデル達に
労いの言葉をかけた
「タケル社長から差し入れが
あるから食べてね!」
「ありがとうございます」
「遠慮なくいただきます」
そこにいる人達が礼を言う

「由季、ご苦労さま」
まだステージにいる彼女を
呼ぶ萌と双葉
「萌ー!」
由季が走りだし
萌に抱きついた
「緊張して身体痛いよー」
おもわず泣きごとを呟く由季
「すっごく素敵だったわよ
ねぇ、私にも撮らせてよ」
「えっ…」
「だって
こんなに素敵なんだもん
私なら緊張しないでしょ」
由季が萌をじっと見る
満面の笑みの萌
「すいません、ヒロさん
もう少し衣装着替えなくて
いいですか?」
萌がヒロを見て言った
「そうね
今から食事にしましょう
だから、まだいいわよ
ステージもまだ片付けない
から自由に使っていいわ」
「ありがとうございます」
ヒロに頭を下げる萌
そして頭を上げたときに
隣にいたタケルと目が合う

❨この人
どこかで会った…?❩
そう思ったがすぐに由季と
二人その場を離れる

「ヒロさん、あの娘は?」
「彼女はねカメラマン志望
なんだって、だから今日は
手伝ってもらったのよ」
「カメラマン志望?」
ヒロの言葉で萌を見つめた





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