珈琲いかがですか?

木葉風子

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あなたは誰?

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「ねぇ奏、紹介するわね
この雑誌の巻頭ページの
衣装を提供してくれた
タケル社長よ」
奏を手招きしてタケルの前に
連れて来るヒロ
「あなたの仕事は
ファッション関係ですか?」
タケルの頭からつま先まで
目で追いながら聞く奏
「まぁ
そういえないこともないが
世界中の生地の輸入や輸出
が本来の仕事だよ」
「生地…?」
「彼が社長になってから
自社オリジナルの服を
制作するようになったの」
「へえー」

「ニ、三年前から、
少しずつ人気がでてきたの
それを聞きつけた雑誌の
編集長が新しく創刊される
本の巻頭にってことに
なったのよね」
「なるほど、新進気鋭の
社長ってこと…ね」
少し皮肉めいて言う奏
「でも、父親がいたら
反対されてますよ
うちの会社は生地を売る
のが仕事だからね」

「父親がいたらって?」
「彼のおとうさんね、
亡くなったのよ…
そのときお兄さんもね…
それで社長になったのよ」
ヒロが代わりに話した
「じゃあ、ほんとは
他にやりたいことが
あったんじゃあ?」
「あのときは、そんなこと
言ってられる状況じゃない
とにかく会社をなんとか
しなければって必死だった」
「じゃあ、やりたいことは
ファッションだったわけ?」
「さあ…何だったかな」
サラリと質問をかわす

「会社を継続させるって
大変だからね…」
二人の話を聞いていた
双葉がボソッと呟いた
その言葉に彼女を見るタケル
「双葉ちゃーん
こっち来て写真撮ろうよ」
「萌ちゃん、わかったー」
そう言って駆けて行く双葉

「もえ…?」
一瞬、タケルが驚いた様子
そのとき彼のポケットの
携帯が鳴った
「失礼するね」
その場を離れたタケル
奏の前を通り抜けたとき
彼の耳朶に目をやった

❨あれはピアスの跡…?❩

「なによ!
そんなに気になるの?」
ヒロが少し怖い顔で訊ねる
「別に、そうじゃないよ」
「ほんとに?」
ジロジロと奏を見たヒロ
「まぁ、奏はノーマル
だから気にしてないけど
でも彼、若い頃はけっこう
ヤンチャだったらしいわ」
「ふーん
今は真面目な若社長だな」
「会社を継いだときは
周りの反発が強くて大変
だったらしいわよ」

そんな話しをしていると
タケルが戻って来た
「ヒロさんも
食べてくださいね」
「ええ、社長
遠慮なくいただくわ
ほら、奏も食べてよ」
「じゃあ、いただきます」
じっとタケルを見て言った

「じゃあ、ヒロさん
僕はまだ仕事中なので
これで失礼します」
二人に頭を下げて歩きだす
萌達三人の前を通り過ぎる
ときにも会釈して去って行く
「萌…?」
タケルを何故か見つめる萌
「どうかしたの?」
由季が心配そうに訊ねる
「あの人…」
「えっ?」
「由季、あの人
どこかで会ったことない?」
彼女の言葉に出口を見る由季
「さぁ、わかんないなぁ」
首を傾げる由季
「二人とも、どうかした?」
双葉が不思議そうに聞く
「ううん、なんでもないわ」

休憩時間を終え
片付け始める
片付けが終わり
挨拶するヒロ
「今日はご苦労様でした」
「ありがとうございます」
スタッフやモデル達が
挨拶を返した
「奏もありがとうね
それからあなた達も
ほんとにありがとう」
ヒロが笑顔で言った

すべての仕事を終え
ビルの外に出てきた四人
外はすっかり夕暮れ時
「わぁ、もうこんなに
時間が経ったんだ」
双葉が空を見上げ言う
「あの中にいたら時間が
過ぎるのわからないわね」
由季がため息をついて言う
「でもね、今日はすごく
いい勉強になったわ
ありがとうございます」
深々と頭を下げた萌
そして大勢の人波の中を
歩いていく四人

「朝よりもすごい人だわ」
改札口に流れ込む人達を
啞然と見る由季
「まぁ、仕方ないわね
ちょうど帰宅時間だから」
ため息をつきながら言う双葉
「私もだいぶ慣れたけど
この時間の人には疲れるわ」
憂鬱そうに萌が続ける
「じゃあ、少し休もうか?」
三人に訊ねる奏
「休む?」
奏を見上げる三人
「そう、丁度いい場所が
あるんだよね」
ニヤリと笑う奏
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