珈琲いかがですか?

木葉風子

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サンタのおじさんの仕事①

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「時、ご苦労さま」
ここはBar「來夢」の個室
扉が開き彼が入って来る
「わざわざ悪かったな」
ウインクを投げかける奏
部屋の中には双葉、萌、
由季の三人もいる
テーブルの上には三人分の
オレンジジュースがある
奏はミネラルウォーターを
飲みながらノートパソコンと
にらめっこしている
「時さん、いつものね」
バーテンダーの彼女が聞く
「ありがとう」
「俺にも同じもの頼むね」
その声を聞いて部屋を出た

「奏、何を調べてるんだ?」
「うん、ちょっとね…」
珍しく真面目な顔の奏
テーブルに書類を広げる時
「サンタのおじさんの
ことわかったから」
時の言葉に萌と由季が
おもわず反応した

[三田健九郎 戦場写真家
世界中の戦場を渡り歩く
数々の賞に輝くも引退宣言
忽然と姿を消した]

「戦場写真家?」
その書類を手に取り見る
「それって戦争中の写真
を撮るんでしょ?」
時に訊ねる萌
「そうだね、世界中の戦場に
行って写真を撮る…
そんな仕事かな」
時がそれなりに説明する
「それって命がけだよね」
由季がそう呟いた
「まぁ、一歩間違えば
自分も命を落とすかも
しれないよな」
奏が厳しい顔で言った

「でもね、私が知ってる
サンタのおじさんは
すごく優しい人だったよ」
萌が懐かしそうに話す
「うん、確かにね
ほんとにサンタクロース
みたいな人だったもんね」
由季が思いだすように言う

「だからこそ
辛かったんじゃないかな」
ミネラルウォーターを
飲みながらボソッと言う奏
「辛い…?」
双葉が不思議そうに聞いた

「戦場はまさに地獄だよ
目の前でそれを見続けるのは
やりきれないと思うよ」
切なそうな表情の時

そのとき扉が開いた
「あれ
奥さんじゃないんだ」
テーブルにウイスキーを
置く彼に訊ねる奏
「彼女は仕事中」
「ふ~ん、この店は彼女で
成り立ってんだね」
彼をからかうように言う奏
「ハハ、確かにそうだよ」
苦笑いを浮かべながら言う
そして部屋を出ていった

「おじさん、どんな写真を
撮ってたんだろう?」
萌が伏し目がちで言った
「写真…ねぇ」
時がテーブルの上の
パソコンを開き検索する
それを覗き込む奏
「でもさ
彼がプロだったのは
かなり前の事だよ」
「そうだけどさ
何か賞をもらってるなら
絶対残ってるよ」
カチヤカチヤと検索する時
画面をじっと見る四人
時の手が止まり写真が表れる

銃を構えた軍人達に見守られ
何人かの子供達が遊んでいる
向かいの建物は壊れている
砂埃で全体がぼやけていた

「この子達、笑顔なんだね」
すごく悲しい気持ちになる
「みんなで遊べるってことは
戦闘が収まってるってことだ
子供達にとってはつかの間の
平和な時間なんだろうな」

「つかの間の平和な時間」
「なんだか、そんなこと
想像できないわ」
「日本は平和だからね
でも、世界中のどこかで
辛い思いをしている子供達が
いるんだよな」

「サンタのおじさん
村の人達の笑顔の写真
たくさん撮ってくれたよ」
萌が哀しそうに言う
「みんな楽しそうに笑ってる
それが当たり前だと思ってた
でも、それは当たり前じゃ
ないんだよね…」
「萌…」
心配そうに彼女を見る由季

「だからこそ
そのときを残そうと
思ったんじゃないかな」
時が真っ直ぐに二人を見た
「うん、そうかもしれない」
時の言葉に素直に頷く萌
「それでケン兄ちゃんの
ことは何かわかったの?」
萌が時に訊ねる
「今のところは彼に
結びつくようなことは
まだ見つかってないんだ
でも、きっとどこかで
関わってるはずだから
もっと詳しく調べるよ」
パソコンのスイッチを
OFFにした時
「よろしくおねがいします」
改めて時に頼む萌

「それで、おまえは
何が気になるんだ?」
何か思案している奏に聞く
「何かって…もちろん
ケン兄ちゃんの正体!
どうして急に村から
いなくなったのかが
彼を探す鍵だろうな…」
「そうなのよね
ある日突然いなくなって
サンタのおじさんも
心配してたのよ」
由季が思いだすように話す

「へえー
それはいつ頃の話し?」
彼女の顔を覗き込みながら
訊ねる奏と目が合いおもわず
顔を赤らめる由季
「確か萌が東京に行ってから
一年ちょっと過ぎた頃だわ」
頬に手をあてながら言う由季
「確か由季からケン兄ちゃん
がいなくなったって電話
もらったのは中二の夏休み
の少し前のことよ」
その頃のことを話す萌
「夏休みに写真館に行って
サンタのおじさんに会ったの
それが最後だったわ」
悲しげな表情で奏を見た萌

「急にいなくなった…
彼に何かあったんだろか?」
少し考える時
「それって、今から六年前
ぐらいだね?」
奏が何かを確かめるように
二人に聞いた
「そうよ」
由季がはっきりと答えた
「何?奏さん
気になることでもあるの?」
「ちょっとね」
意味有りげな笑顔で双葉の
問に答えた



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