珈琲いかがですか?

木葉風子

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ひと休み、そして何かが動く

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店の外に出てきた女性三人
時刻は九時を過ぎていた
街はすっかり夜の顔だが
昼かと思うようなネオンの光
そう、ここ新宿は眠らない街

「あたしの町じゃあ
とっくに明かりは
消えてるわよ」
なんだか異次元に来たような
感覚になる由季
「フフ、そうね
特にこの街はね!
何年いても慣れないわ!」
周りを見渡しながら
ため息をつく萌
そんな二人の話しも耳に
入らない様子の双葉
やがて駅に着いた

「じゃあ、私達
こっちの電車だから」
萌が改札口を指した
「双葉ちゃん?
どうしたの…」
「あっ、萌ちゃん
なんでもないよ」
なんだか気のない返事
「そう?おかしいよ」
心配そうに双葉を見る萌
「ほんとになんでもないの
ただね…」
少し口ごもる双葉
「ただ…?」
二人が同時に訊ねた
「奏さんの様子がね…
ひょっとして何かある
かもって思って」
「何かって?」
「わからないけど
何かヒントを見つけた
のかなって…」
「ヒントって、何の?」
由季が不思議そうに聞いた
「もちろん
ケン兄ちゃんのことよ」
「えっ…」
おもわず萌が目を見開いた

「双葉ちゃん
それってどういうこと?」
声を詰まらせながら聞く萌
その瞳は今にも泣きそうだ
「ねぇ、二人とも
今日は私の家に来ない?」
双葉が二人に言う
そんな双葉の提案に乗った
そして仲良く改札口へ行った

Bar「來夢」
個室からカウンターへと
移動して飲む時と奏
一枚の名刺を手渡した
「これは…?」
時がそれを見つめ奏に聞く
「今日来てたカメラマンの
陽くんの写真学校の先生
なんだけど昔、戦場で写真を
撮ってたらしいんだよ」
「へぇ…」
そう言って名刺を見る
「サンタのおじさんの
知り合いが見つかるかも
しれないと思ってさ」
チラッと時を見て言う
「僕に調べろってことか
じゃあ、おまえは?」
「他に調べたいことが
できたからさ」
肩肘をつきウイスキーを飲む

「いらっしゃいませ」
扉の鈴が鳴り男性が来る
「おはよう、双葉ちゃん」
彼女に声をかけ、席に座る
「おじさん、今日のオムレツ
私が作るんですけど
いいですか?」
申し訳無さそうに聞く双葉
「奏はいないのか?」
店の中を見回したが姿がない
「今日はおでかけ!
だから私が料理担当なの
でも、大丈夫よ
奏さんのお墨付きだからね」
照れながら言う双葉
「そんな心配してないよ
むしろ楽しみたなぁ~
それより見かけない娘が
二人いるけど彼女達は?」
萌と由季の姿を見て聞いた
「うん。二人とも私の友達
ほら、私が作ってる間は
時さん一人でしょ?
だからお手伝いなのよ」
「そうなんだ…」
「じゃあ私、作ってきます」
そう言ってカウンターへ行く
そんな双葉を優しく見つめた

「おやじさん」
聞き慣れた声だ
「奏、おまえ出かけたんじゃ
ないのか?」
テーブルの前に立つ奏
「今から出かけるよ
朝の挨拶だけでもと
思ってさ」
「…仕事か?…」
心配そうに彼を見た
「まあね…」
笑顔で答える奏
「気をつけてな」
笑顔を返す彼
「じゃあ、行ってきます」
そう言ってテーブルを離れた

「時、出かけるね!」
「あぁ、気をつけてな」
「双葉ちゃん、今日は頼むね」
奥のキッチンにいる双葉に
声をかけていく奏
やがて何人かの客が来る
慌ただしい時間が始まった
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