珈琲いかがですか?

木葉風子

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ドラゴンズカンパニー 龍谷仁弥

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「奏さん、こちらです」
改札口を出た彼に手を振る
「ずいぶん待たせたね」
と言って近づいていく奏
彼を待っていたのは龍谷満弥
「いえ
さっき来たばかりですから」
笑顔で答える満弥
「じゃあ行きましょうか」
二人揃って歩きだす
そして着いた先は…
おもわずニヤリとする奏
「何が可笑しいんですか?」
「何がって…ほら、この間も
来たばかりたなって…」
そう言ってビルを見上げた

「この間って
僕のことでだよね」
気まずそうに訊ねる満弥
「大丈夫だよ
あのときは別人だったから」
「別人…?」
「そう、
一応サラリーマンだったよ」
茶目っ気たっぷりに言う
「受付のお嬢さん達には
バレないと思うけど、でもさ
遠野朝美さんは俺のことを
知ってるからなぁ…」
ため息をついた奏

エレベーターから降りる二人
「ドラゴンズカンパニー」の
受付があり、この前会った
彼女達がいる
「おはようございます」
満弥を見て挨拶する
「父…専務は来てますか?」
「はい。お待ちください
確認させていただきます」
電話をかけているのは先輩の
受付孃、若い受付孃が仕事を
しながらこちらを見る
「彼女、奏さん見てるね」
「みたいだな
でも、まぁ、バレてないよ」
そう言って満弥の方を見た
❨こんなにカッコいいんだ
そりゃ、じっと見るよ…❩
奏の横顔を見ながら思う

「お待たせしました
専務は部屋でお待ちです」
二人を見送る受付孃
二人の姿が見えなくなった
「あの人、どこかで
見たことあるような…」
「でも、あんなカッコいい人
一度見たら忘れないわよ」
目をハートにしている

「でも、奏さんの彼女に

なる人は大変でしょうね…」
ため息をついて言う満弥
「大変って、何がだ?」
❨まったく自覚ないの?❩
少し呆れて奏を見る

「どこの色男かしら?」
専務の部屋がある階に来た
ときに後ろから声がした
おもわず後ろを振り返る
そこに立っている一人の女性
「おはようございます
朝美さん」
頭を下げて挨拶する満弥
「専務に何か用ですか?」
笑顔で満弥に訊ねる
「用があるのは、俺!」
そう言って右手を掲げる奏
朝美がじっと奏を見た
「私服のあなたも素敵だけど
制服姿は一段と色っぽいね」
ウインクと投げキスをした

制服姿の遠野朝美
白いリボンタイのブラウス
チェックのベスト
膝頭までのタイトスカート
黒のピンヒール
紺の毛糸のカーディガン
「いかにもできりOLだな!」
「あら、ここの女性達は
みんな同じ服装ですよ」
「受付の二人も
似合ってたよ」
満面の笑みで言った奏
「なるほどね
その笑顔で女性を虜に
するわけね…」
意味有りげに言う朝美

コンコン
専務の部屋をノックする
「どうぞ、開いてますよ」
その声でドアを開ける朝美
「お客様です」
そう言って二人を招く
朝美の手招きで部屋に入る
それを確認すると静かに
ドアを閉めた
部屋の机から立ち上がり
二人の前に出てくる
満弥の父 龍谷仁弥

「お久しぶりです」
仁弥に会釈する奏
「君はあのときの探偵…」
「奏さんだよ、おとうさん」
「ああ、そうだったね」
満弥の顔を見る仁弥
「おとうさんに聞きたい
ことがあるんだって…」
「聞きたいこと?」
おもわず奏を見た

「時、ごちそうさま」
カウンターにいる彼に声を
かける常連客
「今日は美人ばかりで
嬉しいだろ!」
もう一人の常連客が時に言う
「別にいつもと一緒だよ」
平然と答える時
「あなたはいつもと
変わらないですね
彼だったら絶対何か言いそう
だけどなぁ」
「まぁ、あいつならね」
いつものトーンで答える
「時は時 奏は奏
ってことか!
すいませーん
会計おねがいします」
萌がやって来た
「ありがとうございました」
「今日は最後に美味しかった
ごちそうさま」
そう言って出ていく二人

「今日は最高って、なんだか
皮肉に聞こえるんだけど」
カウンターの奥から来て
時に聞く双葉
「そうかな、彼らは常連
だから嘘は言わないよ」
「でも奏さんには
かなわないわよ」
ホッとため息をついた双葉

「あいつと変わらないよ」
そう言って店の奥から来る
「おやじさん」
「奏は仕事なのか?」
時に訊ねる彼
「多分…ね」
「ふーん、なるほどね」
それだけ言って会計をして
帰って行くおやじさん
「じゃあ、奏によろしく」
その言葉を残して…

「来栖(くるす)商会?」
「そこの社長はどんな人
なのか気になってね…
専務さんはその会社のこと
知ってると聞きましたので」
真剣な顔で仁弥に訊ねる奏
「ああ、タケルくんだね
でも、どうして彼のことを?」
「いえ、この間
仕事先でお会いしたので」
「仕事って、探偵の?」
「いえ、別口
雑誌の仕事なんです」

「そういえば双葉が言ってた
奏さんがカッコいいって…」
「俺がいいってわけじゃない
あそこにいた全員がいい仕事
した結果だよ。俺が着た衣装
デザインも良かったし
なにより着心地が最高だ
肌に馴染む感じで梅雨時には
いいんじゃないかなぁ」

「来栖商会は四代続く
生地問屋だからね」
「じゃあ、彼は四代目か」
「でも、タケルくんは
不本意かもしれないよ…」
「不本意?」
意味がわからず仁弥を見た
「彼は本来、社長になる
はずじゃなかったからさ」

  「彼のおとうさんね
  亡くなったのよ
  そのときおにいさんも
  それで社長になったの」

ヒロが言ったことを思いだす

「でも、四代も続いてると
取引先もそれなりにあった
はずだよなぁ」
「確かにね、三代目の社長は
長男と一緒に取引先に行く
途中で事故で亡くなったんだ
急なことだったから、本当に
大変だった、実際うちにも
何社かの取引先の引き継ぎを
頼みに来たから…」
「頼みって?」
「国内はなんとか自分の所で
なんとかなっても外国側との
取り引きが大変だったみたい
我社は仕事がらいろいろな国
とやり取りがあるからね」
険しい様子で話す仁弥

「もう駄目だと思ってたけど
次男のタケルくんが会社を
引き継いたんだよ」
父親の話しを真剣に聞く満弥
ドラゴンズカンパニーの一員
になるかもしれない彼には
決して人ごとではない話しだ

「来栖商会の社長とは
祖父同士が同じ大学だった」
「じゃあ、個人的な繋がりは
あるんですか?」
仁弥を見ながら訊ねる
「祖父の代は交流があったな
でも、今は仕事絡みでしか
関わることはないかな…」
少し考えながら答える
「私個人は亡くなった社長の
ことはよく知らないんだ
まぁ、あちらの営業部長とは
仕事絡みではあるけど話しは
したことがあるよ」
「営業部長…その人のこと
教えていただけませんか?」

一通り話しを聞き終え
部屋から出る奏と満弥
部屋の外に立っていた朝美に
挨拶をして会社を後にした


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