珈琲いかがですか?

木葉風子

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写真展 二日目①

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開場時間までは一時間ある
掃除を始める二人
村の写真の前に立ち子供達が
写る写真をじっと見る双葉

「由季ちゃんて、小学生の頃
から大人っぽいよね」
一通り掃除を終えた萌も
写真の前に来る
「うん、そうなんだ
いつも年より上に見られてた」

「もしもね、自分の親ぐらい
の歳の人に好きになられたら
萌ちゃんなら、どうする?」
「それって…
あの会長さんのこと?」
双葉の方を向き、聞く萌
「あっ、でも由季ちゃんの
気持ちは知らないけどね」
そう言って萌を見る双葉
「でも、あの人は本気かな?」
心配そうに聞く萌
「たぶん、本気だと思う…」
「でも、何回か会っただけ
だよ、それなのに?」
おもわず黙ってしまう二人
難しい顔で椅子に座る萌
「でもね、由季は自分が
生まれた所を離れないって
言ってたけどね」
「あら、そうなの、それじゃ
話にならないわね」

本人達の気持ちを無視して
勝手に話しが広がっていく
なんてことは世間にはよく
有ること
二人の恋愛話しも
そんな風に萌や双葉
「古時計」の常連客の間で
勝手に盛り上がっていた

「あ~あ!」
客もいなく時間を持て余し
おもいっきり背伸びする満弥
「奏さん、いつも
こんな感じなの?」
カウンターに座っている
彼に訊ねた
「まぁ、そうだな」
しれっと言う奏
「でも、双葉は忙しいって
言ってたんだけど」
そう言って店内を見渡す
「まぁ、おまえもいままで
バイト忙しかったんだろ
だったら丁度いいだろ
ゆっくりしてろよ」

「でも、これで商売
成り立ってるの?」
不安気な顔で時に言った
「へぇー、さすが
未来の社長さんは
言うことが違うねー」
カウンターに片肘ついて
言う奏
「社長だなんて
皮肉言わないでよね」
困った顔で言い返した
「別に皮肉で言ってるわけ
じゃないよ、いつかは
そうなる日が来るかもね」

「だから、それはない…
と思うけどな」
自信なさげに答える満弥
「ずいぶん弱気だね
それじゃあ、双葉ちゃんに
そっぽ向かれるよ」
「それは嫌だな!
でも、やっばり双葉の方が
相応しいって思ってるよ
僕は表に出るのは苦手だから」
「そうか、まぁ人それぞれの
領分あるよな…それでおまえが
自分らしくやれるのなら
いいのかもな」

「それぞれの領分…」

「そうだ、たとえば
この店では、時が社長で
俺は社員かな…」
何気に時を見ながら言う

「ここは時さんの
持ち家なんですか?」
カウンターの中の時に聞く
「ここは両親が経営してた」
淡々と答える時
「だから、二人の立場は
同じだよ。家賃を払わなくて
いいからラッキーかもね」

「ラッキー?」
時の言葉に彼を見つめる
「必要最低限の経費で済む
でも、一番ラッキーなのは
奏という相棒がいてくれる
ことだよ」

いつもと同じく平然とした
様子で言う時
逆にその言葉を聞いた奏は
照れた顔をした

写真展会場、店内には
双葉と萌の二人だけ
張り詰めた空気を破り
双葉が言う

「誰かを好きになるのに
理由なんてないからね…
気がついたら好きになってた
たとえ気持ちが通じなくても
好きだって思いは
変えられないからね」
「双葉ちゃん…」
切なそうな表情になる萌

「私ね、大好きな人がいたの
中学のときからの片思い
その人、私より一回り年上
だったのよ」
おもわぬ双葉の告白に驚く萌
話しを続ける双葉
「それがね、高校入学した
ときにね、付きあってくれ
って言われたの
すごく嬉しくて、楽しかった」

「えっ、知らなかったわ
だって双葉ちゃん
そんな素振り見せたこと
なかったじゃない」
「そうね、彼がね周りには
内緒にしたいって…」
「内緒って…どうして?」
不安な顔で聞く萌
「うん、その人ね
ドラゴンズカンパニーの人
だったから…周りにばれると
大変だからって言われたわ」
遠い目をして話す双葉
「その頃にね、両親の店に
出入りしてたのよ
私も子供だったからね
彼の言葉を間に受けて
誰にも言わなかったのよ」

「双葉ちゃん…」

「フフ、ほんと子供だったわ
今なら誰に何を言われても
大丈夫って、堂々と
付き合うけどね!」
真正面を見つめ
きっぱりと言う双葉

「あの、じゃあその人は?」
不安気に聞く萌
「今も勤めてるわよ
といっても地方に行ってる
どこかは知らないけど」
平然とした様子で言う双葉

「やだ、ほんと全然
気がつかなかったわ…
こんなに近くにいたのに
わからないんだから
離れて住んでる由季のこと
わからなくても当たり前か」

「この話しはこれで終わり」
明るい声で言った双葉」

そのとき入口が開いて
満弥が入って来る
おもわず二人を交互に見る萌
「何…?萌ちゃん
びっくりしたような顔して」
萌の顔を見て訊ねる満弥
すると椅子から立ち上がり
満弥の腕にしがみつく双葉
そして満面の笑みで言った
「なんでもないわよ!
ちょっと昔話してただけ」
そう言ってしがみついた腕に
力を入れる、そして彼を見る

「そう、昔話…」
小さく呟く満弥
彼をじっと見つめる双葉
そんな双葉を見つめ返す
そして話しだした
「この気持ちが通じなかった
としても、それでも僕は双葉
の側に居ようと思ってたよ
たとえ彼女が他の誰かと一緒
になったとしても…
双葉の力になるつもりだった
双葉が幸せなことが一番だよ」

「やだ、満弥
萌ちゃんの前で
そんなこと言わなくても…」
おもわず顔を赤らめる双葉
「うん、そうだね
今までの僕なら人に
言えなかったよ

でも今はね、わずかだけど
自分に自信が持てるように
なったんだ
これも奏さん達の
おかげかもしれないね」

そう言って双葉の手を
ギュッと握った
「えっ、そんなに
自信なかったの?」
改めて彼の顔を見た双葉
握った手を離し
一枚の写真の前に立つ彼

「この頃の双葉は
キラキラしてたからね」
高校の制服姿で写る
双葉と萌、クラスメート達
「それに少し大人の顔に
なってたし…
まぁ、そうだろうな
あの頃、双葉は恋してたから
僕なんかにはかなわない相手
だったしね」
寂しそうな瞳で写真を見る
「だから、どんな形でもいい
から双葉の側にいられる男に
なろうと必死だったよ」

「あの、双葉ちゃんに彼が
いたこと知ってたんですか?
双葉ちゃん、内緒だって
言ってたから…」
真っ直ぐに満弥を見てきいた
「なんだか恥ずかしいなぁ
双葉のことばかりを見てた
みたいにおもわれるよ…」
照れて頭を掻く満弥
「ほんと、そうよ!」
口もとに笑みを浮かべながら
言った双葉
「あ~あ、お熱いこと!」
萌がからかうように言う
「でも、羨ましいなぁ」
二人を見て言った

「あっ、でもさ
どうしてそんな話しに
なったわけ?」
気になり訊ねる満弥
「あら、気になる?でも
私の話しはついでにしただけ
好きになったら歳の差なんか
気にならないって話しをね」
少し機嫌の悪い様子の満弥に
笑顔で話す双葉

「歳の差が気にならない?」
「うん、由季ちゃんのこと」
「えっ、その子って確か
萌ちゃんの友達だよね
でも、それと双葉の話しとが
どう繋がるんだ?」
そう言いながら萌と由季の
写真の前に来る満弥

「誰かを好きになるのって
素敵なことだから
由季ちゃんにもそんな人が
現れると良いなって
話してたのよね」
写真を見ながら話す双葉

「ほんと、そう思う
由季にも早くそんな人が
見つかれば嬉しいわ」
双葉達を見て話す萌

「そうね…
そして萌ちゃん
早くケン兄ちゃんに
会えるといいわね」


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