珈琲いかがですか?

木葉風子

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双葉の友達 それぞれの人生②

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「向こうの席は
随分と賑やかだな」
いつもの席が塞がってるため
カウンター席のおやじさん
「それで、何しに来たの?」
「もちろん時の
珈琲を飲みにだよ!」
「ふ~ん!」
鋭い眼差しで彼を見る奏
「珈琲は口実でほんとは
双葉ちゃんの振り袖姿を
見に来たんだろう」
「ああ、そうだよ
双葉ちゃんとの約束だから
でもさ、時の珈琲を飲みに
来たのはほんとだから!」
時を見て話すおやじさん
そんな話しをしていると
彼の前に来た双葉

「こんにちは、おじさん
振り袖似合ってますか?」

両手を大きく広げ彼に見せる
黒地に二羽の鶴が
仲良く並んで飛んでいる
金糸、銀糸で織られた帯
これで角隠しを被れば
花嫁さんのようだ

「この振り袖、もしかして
花嫁衣装だったんじゃあ…」
「あら、おじさま
どうしておわかりに
なったんですか?
これ、元々はおばあさんの
花嫁衣装だったんですよ
うちの母がね気に入ってね
振り袖に仕立て直したのよ」
自分が着ている振り袖を
優しく抱きしめる双葉

「でも花嫁衣装って
白なんじゃないの?」
双葉の振り袖を見ながら
訊ねる由季
「何色にでも染まる
ようにって意味なんだろう」
双葉をじっと見て言う奏
「でも、そんなのって
おかしいよね
どうして女性だけが
そんなふうに言われるのよ
お互いに協力していくのが
普通なのに不公平だわ」

「やっぱり現在っ子だな
昔はね一度家を出ると簡単に
家には戻れなかったからさ」
若い女性三人に話す
「それに白無垢は花嫁衣装
の中でも格が高いんだよ
親としては最高の愛情の表れ
自分の娘は何の汚れもない
って意味も含まれてるから」
「へえ~さすが年の功だ」
おやじさんを見ながら
皮肉っぽく言う奏

「でも双葉ちゃんのは黑
黑じゃ、どの色にも
染まらないわよね」
何故?という疑問を
投げかける由季
他の人もおやじさんを見た
「そう言われてもなぁ…」
暫く考え込むおやじさん

「黑の花嫁衣装は
江戸時代後期から
着られてたみたいね」
そのとき声をかけたのは
グレーのパンツ姿の彼女
「昭和の始め頃は
よく着ていたみたいよ
だから双葉のおばあさんが
着ていても不思議なこと
じゃないわよね」
「へえ、よく知ってるわね」
後の五人が彼女を見た
「まぁね、仕事柄
いろいろと勉強したからね」
「あっ、そうか確か
ブライダルコンサルタント
だったっけ…」
「見習いよ、見習い
いろいろ聞かれるから
けっけう大変なのよ」

「ねぇ、由季
彼女に相談したら?」
「あ、うん、でも…」
戸惑った様子で萌を見た由季

「ねぇ、萌、彼女は?」
由季と話しをする萌に訊ねる
「うん、小学校の同級生
まだも少し後だけど
東京で結婚式する予定なの
話を聞いてあげてよ」
「萌、まだはっきり
きまっわけじゃないから…」
思わず萌を見て言った
「まぁ、そうなの!
じゃあ、お話し聞かせてね」
そう言って由季の側に行き
名刺を出し由季に手渡した
その名刺を見つめる由季

「まぁ、その話はここまで
とにかく、ご馳走食べましょ
萌も双葉も一緒にどう?
ねぇ、かまわないでしょ?」
時と奏に訊ねる
「そうだな!
客はおやじさんだけだし
お祝いはみんなで祝うのが
楽しいからな!」
笑顔で言う奏
時も優しく頷く
二人の許可を貰い
三人で席に戻ってきた

「それで
おまえはどうなんだ?」
「えっ…」
時の方を向いていた奏が
カウンターの椅子を回し
満弥に訊ねる
思わず奏を見返す満弥
「双葉ちゃんと
結婚するんだろう?」
彼をじっと見て聞き返す
「そうなればいいけど
でも、まだわからない…
卒業してからのことは
正直、まだ考え中…かな」
双葉がいる席を見つめる

「慌てて答えを出さなくても
いいと思うよ、卒業までは
時間はあるんだからな
それに満弥くんは
ひとりじゃないだろう
双葉ちゃんと一緒に考えて
いけばいいよ。双葉ちゃんも
そう言ってただろう」
カウンターの中から言う時

「満弥は一人で抱え込む
ところがあるからな
まぁ、心配しなくても彼女は
おまえの性分を理解してる
でもさ、それでも口に出して
ちゃんと言わないと
わかりあえないからな!」
真剣な口調で話す奏

「そうそうどんな関係でも
話し合うことは大事だよ」
遠い目で話すおやじさん
「それは奥さんに対しての
反省の言葉なんだね」
奏が彼を見て
聞きにくそうに訊ねた
「確かにそうかもしれない…
仕事に託つけて彼女の言葉を
聞こうとしなかったからな」
寂しげな顔のおやじさん

「君達はこれからだから
いろんなことがあるだろう
でも、お互いに思いあって
歩いて行くことだな」
優しい瞳で見つめる時

そんなみんなの言葉を
心に留め友達と楽しそうに
話す双葉を愛しそうに見る
「僕の理想は両親なんだ」
そう言った満弥

「最後にみんなの幸せを
願って、カンパーイ」
双葉のかけ声でグラスを
一斉に持ち上げた
「今度会うのは五月の結婚式
そのときが楽しみだわ」
そう言葉を重ねる双葉

「いいなぁ、私、結婚式
挙げてないのよね…」
「子供が出来て慌てて
入籍したんだっけ」
「そうよ
妊娠わかったときは
五ヶ月過ぎてたからね」
「でもね、普通二ヶ月位で
気がつくんじゃないの?」
「もともと生理不順だから
気にしてなかったのよ」
「でも、あっさり大学
辞めるなんて…
休学もできたのに」
「そうね…でも、何が一番
大切なのか考えて決めた
ことだから後悔してないわ」
力強い瞳で言う

「一大決心なんですね」
由季が彼女を真っ直ぐ
見て訊ねた
「あら、そんな大げさな
ことじゃないわよ
ただ自分の気持ちに正直に
なっただけだからよ」

「正直に…」
由季が彼女を見続けた
「由季…
どうかしたの?」
心配そうに聞く萌
「あっ、ううん
なんでもないわよ
あの、あたし、みなさんと
友達になりたいわ」
そう言ってみんなを
見つめる由季

「あら、私達
もう友達でしょ!
ねぇ、双葉、萌…」
「そうよ
みんな友達よ!」
双葉が由季にそう言った

「今日はこれで解散ね!」

それぞれに自分の居場所に
帰っていった
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