珈琲いかがですか?

木葉風子

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双葉の友達 それぞれの人生③

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「嵐の後の静けさだな」
そう言いながら後片付けする
「どういう意味ですか?」
満弥が不思議そうに訊ねる
「女はうるさいって
言いたいんでしょ?」
ムッとした顔で奏に言う双葉
「うるさいだなんて
賑やかで楽しそうだなって
俺の個人的な感想」
ニヤリと笑って言う奏

「そんなこと言ってないで
早く片付けちゃいましょう」
睨み合う二人に言って
片付け始める萌
「確かにそうだな」
満弥と由季も片付けだす
奏も汚れた食器を抱え
キッチンへと歩きだした

「双葉はいいわよ
せっかくの着物が
汚れたら大変だわ」
「そうそう、暇持て余してる
おやじさんの話し相手
してればいいからさ!」
キッチンの奥から言った奏
片付け終わったテーブルに
戻った彼の前に座る双葉
「二人とも
珈琲でいいかな?」
カウンターの中の時が訊ねる
「はい、時さん
お願いします」
「さぁ、片付けましょ」
閉店した店の中でそれぞれに
自分の仕事を始める

その日の夜、静かな店内
カウンターに座り
煙草を燻らし煙を見る奏
「どうしたんだ?奏
珍しく煙草吸って…」
コーヒーカップを
磨きながら訊ねる時

「いや、たださ
俺があの歳の頃は
何してたかなと思ってさ」

「今と変わらないだろ」
「そうだったかな…
まぁ、おまえも
変わらないけどさ!」

「彼女達の十年後は
どうなってるんだろうね」
コーヒーカップを戸棚に
片付けながら話す時

「そうだな、彼女達なら
何が起こっていたとしても
自分らしく過ごしてる
そう思うけどね」
口もとに笑みを浮かべ煙草の
火を消しながら言う奏

「おまえの十年後は
どうなってるんだろうな」
ボソッと呟く
「来年のことも
わからないのにさ
そんな先のことなんか…」
時の呟きに
投げやりに答える奏

「一日一日精一杯
生きてるだけでやっとだよ
それでおまえは?」
「そうだな
変わらずこの店をやって
いけてたらいいかな…」

「おまえの珈琲なら
大丈夫だよ
そのときには隣には
可愛いパートナーが
いるんじゃないか」

「おまえこそ、そんな相手
見つける気ないのか?」
口もとに笑みを浮かべる奏に
無愛想な口調で訊ねる

「冗談じゃないよ
俺はひとりが気楽だからさ
誰も信用できないよ」

かなしけな瞳で
遠くを見つめ言った

「奏、おまえは
ひとりじゃないよ」

「時…」

「おまえの周りには
おまえを好きな人達が
おまえのことをちゃんと
見守っているよ」

時の言葉にも哀しげな瞳の
まま何も答えずにいる奏

「少しはみんなに心を
開いたらどうだ?」

「時…俺は
誰も愛さないよ」

そう言うと時から目を背け
足早に自分の部屋へと続く
通路を歩きだした
そんな彼の後ろ姿を寂しげに
見つめ続ける時


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