珈琲いかがですか?

木葉風子

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恋人たちのバレンタイン③

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二月十四日
バレンタイン当日
夜更けから冷え込み
朝がたには雪が降り始め
うっすらと道が白くなる

「寒いとおもったら道が
白くなってるよ」
朝食をテーブルに並べ
時に話す奏

おにぎりに味噌汁
キャベツの浅漬け
「やっぱり朝はごはんだね」
なぜかご機嫌で話す奏
「いただきます」
おにぎりをひとつ頬張る時
「それは鮭だよ
俺は梅食べよ」
奏もおにぎりを頬張る
味噌汁を飲む時
具はわかめと玉葱
梅のおにぎりに手を伸ばす時 
おにぎり二個に味噌汁
浅漬けまで残さずに食べた時 
「どう、美味しかった?」
時の様子を伺う奏
「ごちそうさま」
満足そうに言った時
その顔を見て笑顔になる

「さあ、今日は最終日
暫くはチョコもケーキも
作りたくないや!」
そう言って煙草に火をつけた

「いらっしゃいませ」
開店時間になり
二人の客が入って来る
テーブルについた客の元へ
注文を取りにいく

「サンドイッチセット
オムレツセット」
カウンターの奥のキッチンの
奏に声をかける
「珈琲ひとつ
カフェ・オレひとつ」
目の前の時に言う萌

「最初のお客さんから
カップルだね」
小声で話す萌と由季
「やっぱりバレンタイン
だからかしら?」
そう言って自分達とそれほど
歳の違わないカップルを見る

「平日のこんな時間から
一緒にいられるなんて
大学生なのかしら」
「この時期だと
もう春休みになるのかしら」
「そうだろうね、社会人だと
年度末近くで忙しいからね」
他に客もいないので
カップルが気になる二人
「なんだか不安だわ」
「なにが?」
「あまり上手く
出来なかったもの…」
「私だって、そうよ」
仲良く話すカップルを
見ながら話す

「はい、サンドイッチと
オムレツ出来上がり」
キッチンから双葉が出て来た
「私が持って行きます」
萌がトレーに二皿乗せる
「じゃあ、珈琲頼むよ」
珈琲カップに注ぐ
トレーにミルクと砂糖
そしてカフェ・オレ
「伝票も頼むよ」
キッチンから出て来た奏が
伝票を由季に渡した

「こんな天気だから
お客さんこないのかしら?」
キッチンから出てきた双葉
「まあ、確かにね
東京の人間は雪道
苦手だからな!」
奏が時を見て言う
「でも、大丈夫だろ
昼までには雪は溶けるよ」
時が双葉を見てそう言った

「じゃあ、朝の間は
ゆっくりできるわね
昨日までは忙しかったから
たまにはこんな日があっても
いいわよね…」
二人を見て言う双葉
「まあ、それも今日までだ
明日からはまたいつも通り
そうだろ時」
そして大きくため息をついた
「まぁ、そうだろうね」

「ほんと、商売っ気
ないんだから!」
呆れた様子でカウンターの
外に出ていく双葉

喫茶「古時計」
普段は常連客で賑わう
時の珈琲と奏の料理に満足し
気持ちが安らげたらいい
そんな考えだからこそ
忙しくなくても気にもしない

「でも普通は違うだろうなぁ
ここが時の両親の持ち物じゃ
なかったらやってけないよ」
双葉の言葉に賛同する時
そして何も答えずに奏を見る
「まぁ、そのおかげで
俺は寝る場所に困らない
おまけに働く所まで提供
してもらってるしさ」
口もとに笑みを浮かべ
時を見返す奏
「だから今回は
時へのプレゼント」
そう言うとウインクをして
時に笑顔を向けた

時の言葉通り昼頃までは
ちらほらとしか来ない客
女性三人はキッチンで
何か作業をしている
カウンターの前に腰かけ
奥から聞こえる楽しそうな
彼女達の声を聞く奏

「バレンタイン…か
彼女達にとっては
一生忘れられない日に
なるといいね」
珍しく営業中の店内で
煙草を吸う奏
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