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木葉風子

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時の秘密 奏の真実 前編⑤

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「ただいま帰りました」
酒屋の正面入り口から
双葉を連れて入る由季
「おかえり」
店の奥のカウンターから
直人の母親が言う
「すいません
暫く二階にいます」
「店の方は大丈夫だから」
由季から見ると母親
というより自分の祖母に
近い世代の直人の母親
「おじゃまします」
カウンターにいる母親に
頭を下げて由季の後を
ついて行く双葉
由季の新居となる部屋
段ボールが積まれている

「ごめんなさいね
まだ片付いてないの
どこでもいいから
座ってね」
部屋の入口に立つ双葉に
言ってから整理ダンスを
開け何かを探し始める
その様子を部屋の片隅に
座りボヤッと見る双葉
心ここにあらず
といった様子だった

「双葉ちゃん
少しは落ち着いた?」
ふいに声をかけられ
驚いて由季を見た
「まだ顔色、悪いわよ」
その言葉におもわず
両手で顔を覆う
「でも、無理ないわよね
なぜだかわからないけど
大変なことになってるん
だからね…」
「なぜだか
わからない…」
由季の顔を見る双葉

「奏さんの言うとおり
ドラゴンズカンパニーの
倉庫から見つかったから
疑われてもしかたない…
でも、誰の仕業かは
わからないんだから
双葉の叔父さんたちが
隠したんじゃないと
わかったら騒いでる人も
静かになるわよ」
沈んでる双葉を
元気づけるように言う
そして手に持っている
着替えを手渡した
「とりあえず着替えて」
手渡された長袖のTシャツ
格子柄の襟付きシャツ
スリムのジーンズに
「じゃあ、下にいってる
から、ドレスはそこの
ハンガーに掛けてね」

「あら、双葉さんは?」
上から下りてきた由季に
訊ねる義母
「今、着替えてます
ひとりの方がいいから」
心配気に答える由季
「まぁ、そうね
それでニュースで
言ってたことは?」
気にかけながら訊ねる

「まだ何もわからない
でも、きっと何かの
間違いだと思います
私、社長さんたちのこと
直接知らないけど、でも
双葉や満弥さん見てると
二人の近くにそんな悪い
ことする人がいるなんて
思えないんです…」

「でも、人は見かけに
依らないって、昔から
言うけどね…」
疑問を投げかける義母
「あっ、でも奏さんや
時さんもきっと誰かに
仕掛けられたんだって
言ってましたよ」
少し考えながら言う由季
「へぇー、あの二人がね
じゃあ、ほんとに
そうなのかもね…」
信頼の声を上げる義母
その様子を見ておもわず
訊ねる由季
「お義母さんは
あの二人のことは
よく知ってるんですか?」
そのとき二階から下りて
きた双葉が側に来た
「私も聞きたいわ!」
そう言って二人を見た
「時くんと奏くん…ね
よく知ってるってほど
じゃないけど…」

直人の母親の話しによると
時が中学生の頃あの場所に
両親が「古時計」を開店
元々あの洋館はかなり前に
イギリス人が建てたが
仕事の都合で国に帰り
長い間空き家になっていた
それを時の両親が喫茶店に
改装したのだった

「じゃあ、中学生の頃の
時さんを知ってるんだ」
双葉がそう訊ねる
「知ってるっていっても
引っ越してきたばかりの
頃は道で会ったら挨拶
するぐらいだったわね」
昔の記憶を思い返して
話してくれる
「ああ、なんとなく
わかります、時さんって
シャイな感じだものね」
由季が少し微笑んで言う

「寡黙でシャイなところは
おとうさんに似てるわね
顔立ちはおかあさんよね」
黙って話しを聞く二人
「オープンした頃はね
あまり人は入ってなかった
どちらかといえば
店主たちの休憩室だった
その頃はこの商店街も
こんなに閑散じゃなかった
それなりに賑わってたの
だから「古時計」にも
お客さんが増えていった」
懐かしい頃を思いだし
笑顔で話す義母

「まだ中学生だった
時くんは休みの日には
店の手伝いしてたわよ」
「わ~!その頃の
時さんに会いたかったわ」
二人が同時に声を上げた
「中学生の頃はあんなに
背も高くなかったし
どちらかといえば
可愛らしかったわよ」
その言葉に中学生の頃の
時を想像する二人だった
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