珈琲いかがですか?

木葉風子

文字の大きさ
上 下
73 / 80

時の秘密 奏の真実 前編⑥

しおりを挟む
「クシュン!」
「時、大丈夫か~?
風邪じゃないだろうなぁ」
カウンターの中にいる
時に声をかける奏
「風邪ひいてないよ」
平然として答える時
「じゃあさ、むこうに
行った女性陣がグダグダ
行ってるのかな」
そう言うと直人を見た奏
「それって、由季と
双葉ちゃんのこと?」
奏を見つめて問い返す
「ふ~ん、いつの間に
“さん”が抜けてる」
「いいだろが!
俺の奥さんなんだから」
少し照れながら言った

「まあね!でもさ
家族になるってどんな
気持ちになるわけ?」
真面目な顔で聞く奏
「どんな気持ちって…
まだ実感わかないよ
たださ…母親と二人
キッチンにいるのを
見るとなんだか
不思議なかんじだな」
幸せそうな笑顔の直人

「そうだろうね
まだ時間が経って
ないからね…
でも少しずつ実感が
でてくると思いますよ」
いつもと変わらぬ様子で
そういう時
その言葉に時と奏の顔を
見つめ直人が言う
「確かにまだ実感が
わかないかなぁ…
じゃあ、おまえらは
どうなんだよ?」
そう言って二人を見る直人
「えっ?何…
それってどういう意味?」
直人の言葉の意味を
問いただす奏

「奏、おまえ“新”を
名のってるだろ
昔からおまえらのこと
知ってる奴はおまえらが
赤の他人だって知ってる
でも、それ以外の人間は
おまえらのことを兄弟か
近い身内だって思ってる
みたいだけどな」

「だから…?」
なぜか怖い顔をして
直人を見る奏

「おまえら自身も
いまじゃあ、ほんとに
身内みたいな気持ち
なんじゃないのか?」

「迷惑だよ…」
直人から目を逸し
遠くを見つめて言った
「俺みたいな人間が
身内にいたら時や
時の両親にさ…」

「そんなことないよ」
カウンターの中にいる
時が力強く言った
その言葉におもわず
時を見つめる奏

「誰にも必要と
されてない人なんて
いないよ…
そう言ったのはさ
おまえ自身だろ」

「あれはね
そうでも思わなきゃあ
自分の居場所がないと
思えたから…もっとも
自分の居場所なんか
初めからどこにも
なかったんだけどさ!」

哀しげな表情で
遠くを見る奏
「ここがおまえの
居場所だよ
それはあの頃から
変ってないからさ」
奏の瞳をじっと見つめ
優しく言った時






しおりを挟む

処理中です...