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第二章 幼女モンスターな娘達
第55話 始祖の目指した世界
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「マーシャル! 大丈夫? 一体どうしたって言うの?」
僕の涙を見た母さんが慌てて声を掛けてくる。
振り返えると息子が大粒の涙を流しているんだからそりゃ心配にもなるだろう。
「もしかして、何処か痛むの? やはり無茶な魔法だったって事かしら……」
どうやら母さんは魔力マシマシのキャッチを使った事によって身体に無理をした所為で何処かを痛めたから泣いたと思ったのだろう。
僕の目から涙が出る理由。
確かに魔力マシマシキャッチの所為では有るけど、身体が痛いから泣いているんじゃない。
痛いのは……。
「違うんだよ。母さん。スライムが……死んじゃった事が悲しいんだ」
「……はぁ?」
僕の言葉に母さんは間の抜けた声を上げる。
そして呆れた様な溜息を吐き片手を額に当てた。
「こら! 冒険者! なに甘えた事言ってるのよ」
母さんはそう言いながら腕を組む。
確かにその通り。
僕は冒険者だ。
「あんたはこの一年。魔物相手に戦って来たんでしょ? トドメを刺す刺さないは置いておいたとしてもよ。それが冒険者ってもんでしょうに。解体だって得意だったじゃない。特に魔石が硬化する瞬間が好きって言ってたでしょ」
「確かにそうだけど。そうじゃないんだ」
僕の言葉に母さんは何も言わず、その後に続く言葉を待っていた。
この一年間僕は冒険者として魔物と戦って来たのも母さんの言う通り。
それに僕は弱かったけど魔物を倒した事が無い訳じゃない。
テイマーとしては落ち零れだけど魔術師の基本である初歩魔術は一通り使えるし、一対一なら僕より弱い魔物だって居るんだ。
それこそスライムだって天井から降って来るなんて奇襲さえ受けなければ負ける筈もないよ。
魔物の素材を採取するのにも習い始めた頃はいざ知らず今では躊躇なんてしない。
特に魔石を取り出す瞬間は大好きだ。
けど、だけど……。
「戦う時は僕も命を賭けるさ。けど、今のはそうじゃない。キャッチは……キャッチの魔法は魔物と契約する為の……ううん、繋がる為の魔法なんだよ!」
僕はそう言ってその場で崩れ落ち地面に涙を落とす。
そうなんだ。
キャッチは魔物を隷属させる魔法じゃない。
心と心を繋ぐ魔法なんだ。
今まで魔物と契約が出来なかった僕だからそんな風に神聖視しているだけだと言う事は分かっている。
他のテイマーの様に自由に契約出来たのならこんな事は思わなかっただろう事も分かってるさ。
だけど、僕の魔力マシマシのキャッチで死んだスライムを見た時、胸が締め付けられた。
それは多分魔石を掴んだあの瞬間、僕とスライムの心が繋がったからなんだと思う。
今思うと岩石ウサギの魔石が半分傷だらけだった理由は僕のが掛けた魔力マシマシキャッチの所為だったんだろう。
あの時は跳んで逃げたのかと思っていたけど、そうじゃなくて魔力のチューブが岩石ウサギを締め付けながら押し出しただけだったんだ。
もしかすると叔母さんとサンドさんが中級冒険者なら全滅必須の20匹相手に無傷で無双出来たのはそのお陰かもしれない。
そして死神に操られたロックベアの魔石が砕けたのはダンテさんの剣が届く前に僕自身が砕いてしまったんだ。
僕は知らずに知らずの内にキャッチの魔法で友達になろうとしている魔物達を傷付けてしまっていた。
「……マーシャル。それは詭弁だし偽善だって事は分かってる?」
母さんは冷めた声でそう言った。
僕は俯いたままその言葉を聞いていたので、どんな表情をしているのか分からない。
呆れているのだろうか? 軽蔑しているのだろうか?
母さんの言葉は尤もだ。
冒険者でありながら魔物の死を悲しんでいるなんて矛盾している。
「……分かってる。だけど僕の中でどうしても割り切れないんだ。あのキャッチは友達を殺す事と一緒なんだって……」
小さい頃から母さんに聞かされていたテイマーの心得。
『従魔に感情移入し過ぎるな』
口酸っぱく言われてきたっけ。
感情移入し過ぎるテイマーはやがて魔物本位で物事を考える様になるらしい。
まさに今の僕じゃないか。
僕はテイマー失格だ。
それに僕にはそんな事を嘆く資格は無いかもしれない。
繋がる魔法だと言いながら、魔力マシマシキャッチを魔物を退散させる為や隙を作る為に使ったじゃないか。
何が僕の必殺技だよ。
「はぁ……」
母さんの溜息が聞こえて来た。
どうやら母さんは僕のバカさ加減に呆れ果てたようだ。
そら仕方無いよ。
従魔術の始祖の弟子と言う家系なのにテイマーとして出来損ないの僕なんかが生まれたんだもの。
このまま勘当されても仕方無いだろう。
「……そりゃ私が選ばれない訳だわ」
とても残念そうな声だった。
「え?」
母さんの口から出た言葉は僕が想定していないもので、聞き返そうと思って顔を上げた。
すると母さんは困った顔をしながら首を傾げている。
「あなたの言っている事はテイマーとして失格だわ」
「うっ……」
聞き返した僕に母さんは想定していた通りの言葉を投げ掛けて来た。
まるでフェイントの様なその言動が僕の胸に突き刺さる。
酷いや母さん。
「クスッ」
「か、母さん?」
ショックを受けた僕を見て母さんが笑った。
その意図が分からず思わず僕は母さんに声を掛ける。
すると母さんは優しい顔をして微笑んだ。
「でもね、それが始祖が目指した従魔術師の姿なのだと思うの」
「始祖の目指した……従魔術師……?」
「そうよ、さっきも言ったじゃない。始祖は魔物と共存する世界を夢見ていたの。 その為に従魔術を開発し……そして絆魔術の完成を目指した。それこそ自分の命を賭けてね。禁書にも書かれていたわ。始祖の契約紋……今マーシャルの左手に浮かぶ赤い契約紋の事ね。それを宿す為に始祖は血の滲む様な努力をした。そして恐らくその過程でマーシャルが今流した涙と同じ涙を何度も流したんだと思うの」
少し寂しそうな顔をしながら母さんはそう言った。
母さんの言う通り僕のこの想いは始祖も感じていたんだろうか?
けど、僕と始祖では決定的に違う事が有る。
「僕はそんな努力なんて事していないよ」
そりゃ僕だって今まで一人前のテイマーになる努力はして来たけど、始祖が歩んだ道に比べたら何もしていないのと一緒だろう。
始祖が生きていたのは魔王による血と暴力に脅かされていた暗黒時代。
死が隣り合わせ、人々が魔物に対して恐怖と憎しみの感情を抱いているのが日常だったんだ。
そんな世論が渦巻く中、魔物と友達になろうとした始祖は何を思って従魔術の開発を目指したんだろうか?
恐らく始祖は周囲から変わり者として腫れ物に触るように扱われていたかもしれない。
下手したら異端者として断罪されていてもおかしくなかったと思う。
そんな環境の中、始祖は従魔術を完成させ魔王を倒したんだ。
僕なんかの努力と比べる事自体間違っている。
「何言ってるの、マーシャル。あなたの人生はまだ始まったばかりじゃない。これから血の滲む努力ってのをしていけばいいのよ」
「え?」
自己批判の塊となって嘆いている僕に呆れた声で母さんはそう言った。
「過去の偉人を語る際、その人が成した結果が最初に有る訳だから、つい今の自分と比べたくもなるでしょうけど、そんなのナンセンスだわ。彼らの功績は一朝一夕で出来た訳じゃない。努力したと言う言葉で簡単に語られたりするけど、それこそ日々の積み重ねの結果よ。だから、今の自分と比べるんじゃないの。自分が目指す先として、どうすれば自分がそこに辿り着けるかと言う事を日々考えて、自分で考えて行動する事が大事なのよ」
「僕が目指す先……」
「あぁ、言っておくけど、無理に始祖の様になろうとする必要は無いわ。自分の人生の終着点はこれからの人生の中で自分で見付けなさいな」
「……うん、分かった。ありがとう母さん。僕頑張るよ」
母さんの言葉によって僕の心を埋め尽くしていたネガティブな感情が薄れて少しだけ前向きになれた気がした。
そうだ、出来ない事を嘆くよりも出来るようになれば嘆く事もない。
「良い顔になって来たわね。それじゃご褒美って訳じゃないけど、良いモノをプレゼントするわ」
「良いモノ? 良いモノって何?」
「ほら、そこのスライム。魔石は砕けちゃったけど……これをこうして……ああして……」
母さんは僕が殺したスライムが入った水槽に近付くと、突然蓋を開けて手を突っ込んだ。
そして何やらグルグルと中身を混ぜている。
さっきも思ったけど、あんな事して手は大丈夫なのかな?
スライムはその不定形な粘液状の身体に対象物を取り込み胎内で酸を精製してゆっくりと溶かしながら吸収すると言う生態なんだけど、いくら死んでいるからと言って素手で手を突っ込んじゃうと溶けちゃわない?
「何しているの母さん? 素手のままそんな所に手を突っ込んじゃ危ないよ」
「大丈夫大丈夫。それより見てなさいって。もうちょっと……多分こうすれば……よし出来た! ほら、マーシャル。これがプレゼントよ」
母さんはそう言って僕の方を振り向き水槽から何かを取り出して僕の方に見せて来た。
なんだろう? さっき僕が砕いた魔石かな?
え~と、それがご褒美って事?
…………いやいやいやいや。
僕が泣いたのはキャッチの魔法でそのスライムを殺しちゃった事が悲しかったって、今さっき言ったよね?
そのスライムから魔石取り出してプレゼントてのは、普段空気をあまり読まない母さんでもさすがにそれはないよ。
「ちょっと、母さん! ……あれ? それ動いてる?」
母さんの手の上に乗っている小さな不定形な塊は、死んだスライムから取り出した筈なのに何やらプルプルと揺れているような……?
「あっ……れ? あれれ? 目の錯覚……じゃないよね?」
「ふふふ、そうよ。ちょっと小さくなったけど見ての通り生きてるわ。相手がスライムで良かったわね」
母さんの言う通りプルプルと揺れているのは目の錯覚ではなく、スライムが警戒時に取る蠕動運動だったようだ。
と言う事はそのスライムは生きていたって事?
「いや、そんな馬鹿な? さっき僕が魔石を砕いちゃったじゃないか。それなのになんで生きてるの?」
魔石が無ければ魔物は生きられない。
これは魔物の不文律。
どんな魔物でも、例え頭や心臓と言った重要な臓器が無事だとしても魔石が無ければ活動は停止する……要するに死んじゃうんだ。
まぁ、だからと言って魔石が無事なら頭や心臓が無くても大丈夫なのかと言えばそれはそれで普通に死ぬんだけど。
なら魔石を破壊したら簡単に魔物を倒せるじゃないかと思うけど、それがなかなか簡単じゃない。
魔石は魔物の胎内では通常衝撃を吸収するゴムの様な状態な訳だし、それに併せて魔石の位置は岩石ウサギなら堅い額の裏側って感じで守られた位置に有るもんだから、魔石破壊を狙うくらいなら普通に倒した方が楽なんだよ。
なんと言っても傷の無い魔石は高く買い取ってくれるしね。
そして僕のキャッチはそんな常識を無視するかのように、さっきスライムの魔石だけを破壊した筈なんだ。
生きている訳がない……んだけどなぁ?
「普通はこうはいかないけどね。破壊されたのが魔石だけなのが幸いしたわ。スライムは分裂で増えるでしょ。だからコアが無事なら魔石の欠片をこねくり回すと、もしかして?って思ったのよ」
「良かった!」
母さんの言う通り、いくらスライムの身体が透明で魔石の位置が一目瞭然だからと言って、その魔石だけを破壊するのは不可能な事だ。
斬るにしても突くにしても押し潰すにしても、通常スライムの身体に大きなダメージを与えてしまう。
けれど不幸中の幸いだろう。
僕のキャッチはそれを可能にしたんだ。
だからスライムは助かったんだ。
僕はその事が嬉しくて母さんが差し出すスライムの所まで駆け寄って触ろうとした。
しかし、スライムは僕の手から逃れるようにぴょんっと跳ねて地面に飛び降り、そしてじりじりと僕から遠ざかって行く。
「あれれ。どうしたんだこいつ?」
「う~ん、どうやらマーシャルを怖がってるみたいね。魔石を砕かれた相手って分かるのかしら? スライムにもそんな本能が有るのね。驚いたわ」
母さんの言う通り、僕が近付くとプルプルと震えるように身体を動かして逃げようとしているみたいだ。
そう言えば岩石ウサギも逃げていったけど、魔力マシマシのキャッチを受けて死に掛けた魔物は僕に対して恐怖を抱くようになるって事?
ううう……なんだか悲しいけど、殺されそうになった相手だもん仕方無いか。
スライムは実際殺された様なものだしね。
「でも良かった、生きててくれて。……そりゃ僕だっておかしいとは思うよ。勿論今までも依頼中にスライムを倒した事だってあるんだ。その時は達成感だって有ったんだよ」
それだけじゃない。
キャッチが失敗した魔物を倒した事だってある。
結局倒すのなら、そこに違いなんてあるのだろうか?
僕はこの矛盾する想いを言葉に出来ない。
「いいじゃない、それで」
「そうなのかな? でも、やっぱり母さんが言ったように詭弁だし偽善な思いで勝手に悩んでるだけなんじゃ」
「だから、それでいいのよ。まだ若いんだから色々悩んだらいいの。それにね、そう言うのは立場によって思いは変るものよ? 依頼中に魔物を倒したのは仲間を守るって思いが有ったのでしょう? そして今のは魔物と仲間になりたいと思っていたから悲しかった。根幹は一緒なのよ。仲間の為って言うね」
「……仲間の為……」
母さんの言葉が僕の胸に染み渡った。
魔物との共存を願ったと言う始祖も、人魔大戦を終わらせる為にカイザーファングと共に魔物と戦ったと言う。
始祖も自分の矛盾する感情に悩んだのだろうか?
そして始祖はこの悩みに対して答えを出せたのかな?
僕はそんな事を考えながら、ふと浮かんだ疑問の言葉を母さんに尋ねてみた。
「でも、なんで始祖は魔物との共存を望んだんだろうね。だって始祖が生きていたのって魔物に対して憎しみしかなかった時代なのに」
「そうねぇ~。でも、それ少しだけお母さん分かる気がするな~」
「え? 本当? 教えて教えて」
さすが現代で一二を争うテイマーの母さんだ。
始祖と同じ世界が見えてるんだろうな。
もしかして僕の悩みの答えも分かるのかもしれない。
僕はワクワクして母さんの回答を待つ。
「それはね……」
「それは……?」ゴクリ。
勿体付ける様に喋る母さんと唾を飲む僕。
「多分始祖はね、重度のケモナーよ。間違いないわ」
母さんは凄く満足げなドヤ顔でそう言った。
………?
ケモナー? 何それ?
「母さん? ケモナーって言うのは何? また母さんの造語?」
「あぁ~そっか~。通じないか~。要するに獣大好き人間って事よ」
獣大好き人間? え? 始祖が共存を目指したのってそんな理由なの?
それだけの理由で命を掛けたって言うの?
「まっさか~! そんな訳無いってば」
「いやぁ~そんな事ないわよ~? ケモナーの闇は深いわ。ケモナー初心者の私でもモフモフやフワフワには抗えないもの。正直な所お母さんがテイマーを目指したのは少なからずそれが影響してると言っても過言じゃないわ」
ケモナーの闇って何?
と言うか始祖がそんな人だったかと思うとちょっとショックなんだけど。
それより高名なテイマーの家系に生まれておきながら、テイマーを目指した理由がケモナーだからとか母さんってば自由人過ぎる!
僕はとんでもない事を自慢気に言い切った母さんに絶句した。
「申し訳有りませんマスター。私はモフモフやフワフワとは程遠い存在。まことに恐縮の至りでございます」
母さんの言葉にぶーちんが申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
ビシッとしたバトラースーツの身を固めているぶーちんだけど、種族はゴブリンなので正直頭髪どころか体毛さえあまり生えていない。
母さんがモフモフとか言うもんだから、フワフワじゃないぶーちんが謝っちゃったじゃないか。
ぶーちんが可哀想だよ。
「ごめんごめんぶーちん。何もケモナーはモコモコだけが全てじゃないのよ? インテリジェンス溢れるゴブリンが執事をしていると言うのも高萌えポイントなの。だから安心して、あなたも十分私のケモナー心を満足してくれる存在よ」
「おぉ! お褒めに預かり恐悦至極です」
母さんのフォローなのだろうか? 僕には理解出来ない様な言葉の数々を理解したぶーちんはとても嬉しそうだ。
理解出来ないと言うか理解したくないと言うのが本音だけど、ぶーちん褒められて良かったね。
「さっき、私が選ばれない筈だって言ってたけど、なんだか母さんの方が始祖と気が合うんじゃない?」
いや、始祖が本当にケモナーだったらって話だけどね。
違うと思いたいなぁ。
「話は合うでしょうけど、やはり選ばれなかったと思うわ。だって私と始祖には大きな隔たりがあると思うの」
「隔たり?」
「えぇ、私はどうしても従魔をペット……主従関係として認識してしまうわ。但し、これ自体はこれはテイマーとして普通の思想だわ。けれど力の強いお母さんはその傾向は特に強いのよ。現在の従魔術では契約出来ないレベルの魔物でも倒せるんだから。けれど、禁書から読み取れる始祖の姿は、私以上の力を持っていたのにあくまで魔物と対等になろうとしていたのよ。まるで種族の垣根なんてないみたいにね」
「種族の垣根……」
「お母さんはね。小さい頃からマーシャルを見て思っていたの。私の従魔達とまるで人間の友達の様に接しているマーシャルの姿に禁書の始祖が重なった。そして、あぁこれが始祖の目指した世界なのねって思ったのよ。その時この子はやがてテイマーの枠を超える存在になる……そう確信したの」
始祖の目指した世界……。
けれど、僕が小さい頃から学校の友達みたいに母さんの従魔達と接していたのは、ある意味母さんの教育のお陰だと思う。
テイマーとしての心得を日々教えられていたけど、なんだかんだ言って僕が従魔と遊ぶのを止めようとはしなかった。
他のテイマー家系の友達に聞いたら、従魔と遊ぶなんて事を許してくれなかったって言っていた。
もしかしたら母さんはその頃から僕がこうなる事が分かっていたんだろうか?
僕は自分の目に狂いは無かったとでも言いたげに腕を組んで頷いている母さんを見ながら、そんな事を考えていた。
「だからね、マーシャルも真のケモナー心に開眼する時がいずれ訪れるわ。いえ、既にその大いなる片鱗は伺えるわね。本当に末恐ろしい限りよ」
「え? そんな訳の分からない心に開眼とかしないよ? それに大いなる片鱗って何? 僕そんなの見せた覚えが無いんだけど」
母さんが言う片鱗って、今言ってた従魔と仲が良い事って事?
いや、言い方的に別の事を言ってるみたいだけど、一体なんだろう?
「あら~、ライアちゃんの姿がその証拠じゃない。モフモフを美幼女化させるなんて闇が深いわ~」
「ちょっ! ちょっと待ってよ! そんなんじゃないって! 僕にそんな趣味は無いからね!」
とんでもない濡れ衣を否定する僕の声が実験場に響き渡った。
僕の涙を見た母さんが慌てて声を掛けてくる。
振り返えると息子が大粒の涙を流しているんだからそりゃ心配にもなるだろう。
「もしかして、何処か痛むの? やはり無茶な魔法だったって事かしら……」
どうやら母さんは魔力マシマシのキャッチを使った事によって身体に無理をした所為で何処かを痛めたから泣いたと思ったのだろう。
僕の目から涙が出る理由。
確かに魔力マシマシキャッチの所為では有るけど、身体が痛いから泣いているんじゃない。
痛いのは……。
「違うんだよ。母さん。スライムが……死んじゃった事が悲しいんだ」
「……はぁ?」
僕の言葉に母さんは間の抜けた声を上げる。
そして呆れた様な溜息を吐き片手を額に当てた。
「こら! 冒険者! なに甘えた事言ってるのよ」
母さんはそう言いながら腕を組む。
確かにその通り。
僕は冒険者だ。
「あんたはこの一年。魔物相手に戦って来たんでしょ? トドメを刺す刺さないは置いておいたとしてもよ。それが冒険者ってもんでしょうに。解体だって得意だったじゃない。特に魔石が硬化する瞬間が好きって言ってたでしょ」
「確かにそうだけど。そうじゃないんだ」
僕の言葉に母さんは何も言わず、その後に続く言葉を待っていた。
この一年間僕は冒険者として魔物と戦って来たのも母さんの言う通り。
それに僕は弱かったけど魔物を倒した事が無い訳じゃない。
テイマーとしては落ち零れだけど魔術師の基本である初歩魔術は一通り使えるし、一対一なら僕より弱い魔物だって居るんだ。
それこそスライムだって天井から降って来るなんて奇襲さえ受けなければ負ける筈もないよ。
魔物の素材を採取するのにも習い始めた頃はいざ知らず今では躊躇なんてしない。
特に魔石を取り出す瞬間は大好きだ。
けど、だけど……。
「戦う時は僕も命を賭けるさ。けど、今のはそうじゃない。キャッチは……キャッチの魔法は魔物と契約する為の……ううん、繋がる為の魔法なんだよ!」
僕はそう言ってその場で崩れ落ち地面に涙を落とす。
そうなんだ。
キャッチは魔物を隷属させる魔法じゃない。
心と心を繋ぐ魔法なんだ。
今まで魔物と契約が出来なかった僕だからそんな風に神聖視しているだけだと言う事は分かっている。
他のテイマーの様に自由に契約出来たのならこんな事は思わなかっただろう事も分かってるさ。
だけど、僕の魔力マシマシのキャッチで死んだスライムを見た時、胸が締め付けられた。
それは多分魔石を掴んだあの瞬間、僕とスライムの心が繋がったからなんだと思う。
今思うと岩石ウサギの魔石が半分傷だらけだった理由は僕のが掛けた魔力マシマシキャッチの所為だったんだろう。
あの時は跳んで逃げたのかと思っていたけど、そうじゃなくて魔力のチューブが岩石ウサギを締め付けながら押し出しただけだったんだ。
もしかすると叔母さんとサンドさんが中級冒険者なら全滅必須の20匹相手に無傷で無双出来たのはそのお陰かもしれない。
そして死神に操られたロックベアの魔石が砕けたのはダンテさんの剣が届く前に僕自身が砕いてしまったんだ。
僕は知らずに知らずの内にキャッチの魔法で友達になろうとしている魔物達を傷付けてしまっていた。
「……マーシャル。それは詭弁だし偽善だって事は分かってる?」
母さんは冷めた声でそう言った。
僕は俯いたままその言葉を聞いていたので、どんな表情をしているのか分からない。
呆れているのだろうか? 軽蔑しているのだろうか?
母さんの言葉は尤もだ。
冒険者でありながら魔物の死を悲しんでいるなんて矛盾している。
「……分かってる。だけど僕の中でどうしても割り切れないんだ。あのキャッチは友達を殺す事と一緒なんだって……」
小さい頃から母さんに聞かされていたテイマーの心得。
『従魔に感情移入し過ぎるな』
口酸っぱく言われてきたっけ。
感情移入し過ぎるテイマーはやがて魔物本位で物事を考える様になるらしい。
まさに今の僕じゃないか。
僕はテイマー失格だ。
それに僕にはそんな事を嘆く資格は無いかもしれない。
繋がる魔法だと言いながら、魔力マシマシキャッチを魔物を退散させる為や隙を作る為に使ったじゃないか。
何が僕の必殺技だよ。
「はぁ……」
母さんの溜息が聞こえて来た。
どうやら母さんは僕のバカさ加減に呆れ果てたようだ。
そら仕方無いよ。
従魔術の始祖の弟子と言う家系なのにテイマーとして出来損ないの僕なんかが生まれたんだもの。
このまま勘当されても仕方無いだろう。
「……そりゃ私が選ばれない訳だわ」
とても残念そうな声だった。
「え?」
母さんの口から出た言葉は僕が想定していないもので、聞き返そうと思って顔を上げた。
すると母さんは困った顔をしながら首を傾げている。
「あなたの言っている事はテイマーとして失格だわ」
「うっ……」
聞き返した僕に母さんは想定していた通りの言葉を投げ掛けて来た。
まるでフェイントの様なその言動が僕の胸に突き刺さる。
酷いや母さん。
「クスッ」
「か、母さん?」
ショックを受けた僕を見て母さんが笑った。
その意図が分からず思わず僕は母さんに声を掛ける。
すると母さんは優しい顔をして微笑んだ。
「でもね、それが始祖が目指した従魔術師の姿なのだと思うの」
「始祖の目指した……従魔術師……?」
「そうよ、さっきも言ったじゃない。始祖は魔物と共存する世界を夢見ていたの。 その為に従魔術を開発し……そして絆魔術の完成を目指した。それこそ自分の命を賭けてね。禁書にも書かれていたわ。始祖の契約紋……今マーシャルの左手に浮かぶ赤い契約紋の事ね。それを宿す為に始祖は血の滲む様な努力をした。そして恐らくその過程でマーシャルが今流した涙と同じ涙を何度も流したんだと思うの」
少し寂しそうな顔をしながら母さんはそう言った。
母さんの言う通り僕のこの想いは始祖も感じていたんだろうか?
けど、僕と始祖では決定的に違う事が有る。
「僕はそんな努力なんて事していないよ」
そりゃ僕だって今まで一人前のテイマーになる努力はして来たけど、始祖が歩んだ道に比べたら何もしていないのと一緒だろう。
始祖が生きていたのは魔王による血と暴力に脅かされていた暗黒時代。
死が隣り合わせ、人々が魔物に対して恐怖と憎しみの感情を抱いているのが日常だったんだ。
そんな世論が渦巻く中、魔物と友達になろうとした始祖は何を思って従魔術の開発を目指したんだろうか?
恐らく始祖は周囲から変わり者として腫れ物に触るように扱われていたかもしれない。
下手したら異端者として断罪されていてもおかしくなかったと思う。
そんな環境の中、始祖は従魔術を完成させ魔王を倒したんだ。
僕なんかの努力と比べる事自体間違っている。
「何言ってるの、マーシャル。あなたの人生はまだ始まったばかりじゃない。これから血の滲む努力ってのをしていけばいいのよ」
「え?」
自己批判の塊となって嘆いている僕に呆れた声で母さんはそう言った。
「過去の偉人を語る際、その人が成した結果が最初に有る訳だから、つい今の自分と比べたくもなるでしょうけど、そんなのナンセンスだわ。彼らの功績は一朝一夕で出来た訳じゃない。努力したと言う言葉で簡単に語られたりするけど、それこそ日々の積み重ねの結果よ。だから、今の自分と比べるんじゃないの。自分が目指す先として、どうすれば自分がそこに辿り着けるかと言う事を日々考えて、自分で考えて行動する事が大事なのよ」
「僕が目指す先……」
「あぁ、言っておくけど、無理に始祖の様になろうとする必要は無いわ。自分の人生の終着点はこれからの人生の中で自分で見付けなさいな」
「……うん、分かった。ありがとう母さん。僕頑張るよ」
母さんの言葉によって僕の心を埋め尽くしていたネガティブな感情が薄れて少しだけ前向きになれた気がした。
そうだ、出来ない事を嘆くよりも出来るようになれば嘆く事もない。
「良い顔になって来たわね。それじゃご褒美って訳じゃないけど、良いモノをプレゼントするわ」
「良いモノ? 良いモノって何?」
「ほら、そこのスライム。魔石は砕けちゃったけど……これをこうして……ああして……」
母さんは僕が殺したスライムが入った水槽に近付くと、突然蓋を開けて手を突っ込んだ。
そして何やらグルグルと中身を混ぜている。
さっきも思ったけど、あんな事して手は大丈夫なのかな?
スライムはその不定形な粘液状の身体に対象物を取り込み胎内で酸を精製してゆっくりと溶かしながら吸収すると言う生態なんだけど、いくら死んでいるからと言って素手で手を突っ込んじゃうと溶けちゃわない?
「何しているの母さん? 素手のままそんな所に手を突っ込んじゃ危ないよ」
「大丈夫大丈夫。それより見てなさいって。もうちょっと……多分こうすれば……よし出来た! ほら、マーシャル。これがプレゼントよ」
母さんはそう言って僕の方を振り向き水槽から何かを取り出して僕の方に見せて来た。
なんだろう? さっき僕が砕いた魔石かな?
え~と、それがご褒美って事?
…………いやいやいやいや。
僕が泣いたのはキャッチの魔法でそのスライムを殺しちゃった事が悲しかったって、今さっき言ったよね?
そのスライムから魔石取り出してプレゼントてのは、普段空気をあまり読まない母さんでもさすがにそれはないよ。
「ちょっと、母さん! ……あれ? それ動いてる?」
母さんの手の上に乗っている小さな不定形な塊は、死んだスライムから取り出した筈なのに何やらプルプルと揺れているような……?
「あっ……れ? あれれ? 目の錯覚……じゃないよね?」
「ふふふ、そうよ。ちょっと小さくなったけど見ての通り生きてるわ。相手がスライムで良かったわね」
母さんの言う通りプルプルと揺れているのは目の錯覚ではなく、スライムが警戒時に取る蠕動運動だったようだ。
と言う事はそのスライムは生きていたって事?
「いや、そんな馬鹿な? さっき僕が魔石を砕いちゃったじゃないか。それなのになんで生きてるの?」
魔石が無ければ魔物は生きられない。
これは魔物の不文律。
どんな魔物でも、例え頭や心臓と言った重要な臓器が無事だとしても魔石が無ければ活動は停止する……要するに死んじゃうんだ。
まぁ、だからと言って魔石が無事なら頭や心臓が無くても大丈夫なのかと言えばそれはそれで普通に死ぬんだけど。
なら魔石を破壊したら簡単に魔物を倒せるじゃないかと思うけど、それがなかなか簡単じゃない。
魔石は魔物の胎内では通常衝撃を吸収するゴムの様な状態な訳だし、それに併せて魔石の位置は岩石ウサギなら堅い額の裏側って感じで守られた位置に有るもんだから、魔石破壊を狙うくらいなら普通に倒した方が楽なんだよ。
なんと言っても傷の無い魔石は高く買い取ってくれるしね。
そして僕のキャッチはそんな常識を無視するかのように、さっきスライムの魔石だけを破壊した筈なんだ。
生きている訳がない……んだけどなぁ?
「普通はこうはいかないけどね。破壊されたのが魔石だけなのが幸いしたわ。スライムは分裂で増えるでしょ。だからコアが無事なら魔石の欠片をこねくり回すと、もしかして?って思ったのよ」
「良かった!」
母さんの言う通り、いくらスライムの身体が透明で魔石の位置が一目瞭然だからと言って、その魔石だけを破壊するのは不可能な事だ。
斬るにしても突くにしても押し潰すにしても、通常スライムの身体に大きなダメージを与えてしまう。
けれど不幸中の幸いだろう。
僕のキャッチはそれを可能にしたんだ。
だからスライムは助かったんだ。
僕はその事が嬉しくて母さんが差し出すスライムの所まで駆け寄って触ろうとした。
しかし、スライムは僕の手から逃れるようにぴょんっと跳ねて地面に飛び降り、そしてじりじりと僕から遠ざかって行く。
「あれれ。どうしたんだこいつ?」
「う~ん、どうやらマーシャルを怖がってるみたいね。魔石を砕かれた相手って分かるのかしら? スライムにもそんな本能が有るのね。驚いたわ」
母さんの言う通り、僕が近付くとプルプルと震えるように身体を動かして逃げようとしているみたいだ。
そう言えば岩石ウサギも逃げていったけど、魔力マシマシのキャッチを受けて死に掛けた魔物は僕に対して恐怖を抱くようになるって事?
ううう……なんだか悲しいけど、殺されそうになった相手だもん仕方無いか。
スライムは実際殺された様なものだしね。
「でも良かった、生きててくれて。……そりゃ僕だっておかしいとは思うよ。勿論今までも依頼中にスライムを倒した事だってあるんだ。その時は達成感だって有ったんだよ」
それだけじゃない。
キャッチが失敗した魔物を倒した事だってある。
結局倒すのなら、そこに違いなんてあるのだろうか?
僕はこの矛盾する想いを言葉に出来ない。
「いいじゃない、それで」
「そうなのかな? でも、やっぱり母さんが言ったように詭弁だし偽善な思いで勝手に悩んでるだけなんじゃ」
「だから、それでいいのよ。まだ若いんだから色々悩んだらいいの。それにね、そう言うのは立場によって思いは変るものよ? 依頼中に魔物を倒したのは仲間を守るって思いが有ったのでしょう? そして今のは魔物と仲間になりたいと思っていたから悲しかった。根幹は一緒なのよ。仲間の為って言うね」
「……仲間の為……」
母さんの言葉が僕の胸に染み渡った。
魔物との共存を願ったと言う始祖も、人魔大戦を終わらせる為にカイザーファングと共に魔物と戦ったと言う。
始祖も自分の矛盾する感情に悩んだのだろうか?
そして始祖はこの悩みに対して答えを出せたのかな?
僕はそんな事を考えながら、ふと浮かんだ疑問の言葉を母さんに尋ねてみた。
「でも、なんで始祖は魔物との共存を望んだんだろうね。だって始祖が生きていたのって魔物に対して憎しみしかなかった時代なのに」
「そうねぇ~。でも、それ少しだけお母さん分かる気がするな~」
「え? 本当? 教えて教えて」
さすが現代で一二を争うテイマーの母さんだ。
始祖と同じ世界が見えてるんだろうな。
もしかして僕の悩みの答えも分かるのかもしれない。
僕はワクワクして母さんの回答を待つ。
「それはね……」
「それは……?」ゴクリ。
勿体付ける様に喋る母さんと唾を飲む僕。
「多分始祖はね、重度のケモナーよ。間違いないわ」
母さんは凄く満足げなドヤ顔でそう言った。
………?
ケモナー? 何それ?
「母さん? ケモナーって言うのは何? また母さんの造語?」
「あぁ~そっか~。通じないか~。要するに獣大好き人間って事よ」
獣大好き人間? え? 始祖が共存を目指したのってそんな理由なの?
それだけの理由で命を掛けたって言うの?
「まっさか~! そんな訳無いってば」
「いやぁ~そんな事ないわよ~? ケモナーの闇は深いわ。ケモナー初心者の私でもモフモフやフワフワには抗えないもの。正直な所お母さんがテイマーを目指したのは少なからずそれが影響してると言っても過言じゃないわ」
ケモナーの闇って何?
と言うか始祖がそんな人だったかと思うとちょっとショックなんだけど。
それより高名なテイマーの家系に生まれておきながら、テイマーを目指した理由がケモナーだからとか母さんってば自由人過ぎる!
僕はとんでもない事を自慢気に言い切った母さんに絶句した。
「申し訳有りませんマスター。私はモフモフやフワフワとは程遠い存在。まことに恐縮の至りでございます」
母さんの言葉にぶーちんが申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
ビシッとしたバトラースーツの身を固めているぶーちんだけど、種族はゴブリンなので正直頭髪どころか体毛さえあまり生えていない。
母さんがモフモフとか言うもんだから、フワフワじゃないぶーちんが謝っちゃったじゃないか。
ぶーちんが可哀想だよ。
「ごめんごめんぶーちん。何もケモナーはモコモコだけが全てじゃないのよ? インテリジェンス溢れるゴブリンが執事をしていると言うのも高萌えポイントなの。だから安心して、あなたも十分私のケモナー心を満足してくれる存在よ」
「おぉ! お褒めに預かり恐悦至極です」
母さんのフォローなのだろうか? 僕には理解出来ない様な言葉の数々を理解したぶーちんはとても嬉しそうだ。
理解出来ないと言うか理解したくないと言うのが本音だけど、ぶーちん褒められて良かったね。
「さっき、私が選ばれない筈だって言ってたけど、なんだか母さんの方が始祖と気が合うんじゃない?」
いや、始祖が本当にケモナーだったらって話だけどね。
違うと思いたいなぁ。
「話は合うでしょうけど、やはり選ばれなかったと思うわ。だって私と始祖には大きな隔たりがあると思うの」
「隔たり?」
「えぇ、私はどうしても従魔をペット……主従関係として認識してしまうわ。但し、これ自体はこれはテイマーとして普通の思想だわ。けれど力の強いお母さんはその傾向は特に強いのよ。現在の従魔術では契約出来ないレベルの魔物でも倒せるんだから。けれど、禁書から読み取れる始祖の姿は、私以上の力を持っていたのにあくまで魔物と対等になろうとしていたのよ。まるで種族の垣根なんてないみたいにね」
「種族の垣根……」
「お母さんはね。小さい頃からマーシャルを見て思っていたの。私の従魔達とまるで人間の友達の様に接しているマーシャルの姿に禁書の始祖が重なった。そして、あぁこれが始祖の目指した世界なのねって思ったのよ。その時この子はやがてテイマーの枠を超える存在になる……そう確信したの」
始祖の目指した世界……。
けれど、僕が小さい頃から学校の友達みたいに母さんの従魔達と接していたのは、ある意味母さんの教育のお陰だと思う。
テイマーとしての心得を日々教えられていたけど、なんだかんだ言って僕が従魔と遊ぶのを止めようとはしなかった。
他のテイマー家系の友達に聞いたら、従魔と遊ぶなんて事を許してくれなかったって言っていた。
もしかしたら母さんはその頃から僕がこうなる事が分かっていたんだろうか?
僕は自分の目に狂いは無かったとでも言いたげに腕を組んで頷いている母さんを見ながら、そんな事を考えていた。
「だからね、マーシャルも真のケモナー心に開眼する時がいずれ訪れるわ。いえ、既にその大いなる片鱗は伺えるわね。本当に末恐ろしい限りよ」
「え? そんな訳の分からない心に開眼とかしないよ? それに大いなる片鱗って何? 僕そんなの見せた覚えが無いんだけど」
母さんが言う片鱗って、今言ってた従魔と仲が良い事って事?
いや、言い方的に別の事を言ってるみたいだけど、一体なんだろう?
「あら~、ライアちゃんの姿がその証拠じゃない。モフモフを美幼女化させるなんて闇が深いわ~」
「ちょっ! ちょっと待ってよ! そんなんじゃないって! 僕にそんな趣味は無いからね!」
とんでもない濡れ衣を否定する僕の声が実験場に響き渡った。
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