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第一章 始動
第3話 世界のルール
しおりを挟む「はいはい、今出ますよっと」
俺がベッドから扉に向かう最中にもノックする音と、俺を呼び出す声は続いていた。
そんなに広くないこの部屋でベッドから扉まで数歩と言う所だ。時間にすると数秒ぐらいだろう。
ダイス、お前が今この街に居る状況で、人里に現れる程度の魔物相手に何をそこまで焦っているんだ? わざわざ、俺のところに来るより現場に向かった方が解決が早いだろう。
ガチャッ。
「おいおい、あまり騒ぐなよ。ここは宿屋だぜ? あんまり騒いだら俺が追い出されちまうだろう」
「す、すみません……。って違います! 先生! 冒険者ギルドへの召集の鐘が鳴ったのに何を部屋で寛いでるんですか!」
そろそろ英雄に片足を突っ込んでいる俺の元教え子であるAクラス冒険者であるダイスが、俺に文句を言ってくる。
別に寛いでいた訳じゃないんだが……。まぁお前が居るの分かってたし、大抵の事なら昨日俺を馬鹿にしていた不肖の教え子でもなんとかなる筈だから、ゆっくりと物探しをさせて貰っていたがね。
しかし、この表情から滲み出て来る焦り様は何なんだ?
「鐘の意味は今さっき思い出したんだよ。それに鳴ってからまだ一時間も経ってないだろ。それより何を焦っている。お前のパーティーが行けばそれこそすぐに解決するだろう?」
「さっき思い出したって……、教導役なのに……。いや、そんな事より、住人に怪我人が多数出ています。警備隊が足止めしていますが、苦戦していると報告が有りました」
俺は耳を疑った。犠牲者が出た? 警備隊が苦戦している? どう言う事だ? Bクラス以上の冒険者程じゃないが、この街の警備隊はそこそこ精鋭が揃っている。
それも2ダース以上の人員を揃えていただろう? それが苦戦している? 一体どんな化け物が出やがったって言うんだ?
いや、それはどうでも良いだろう、こいつが居れば取りあえず現場は収まる筈だ。
それなのに俺の所に来たと言う事は、俺に何かをさせようと言う腹積りだろう。
「要点を話せ……俺に何をさせたい?」
俺の言葉に、ダイスの焦りで強張っていた表情がまるで少年の様にパァッと明るくなった。
全くAクラス冒険者がCクラスのおっさんに対してなんて顔してやがるんだ。
「はい! ありがとうございます! まず、怪我人が教会に運び込まれていますが、この街の治癒師では手に負えないのが数名出ています」
「おい、俺は剣士だぜ? それよりお前のパーティーに腕利きの治癒師の姉ちゃん居ただろ。あいつだったら死人以外は治せるだろ」
「警備隊にも既に怪我人が出ている報告も有り、彼女は他の仲間と一緒に既に現地に向かってます。それとも先生が現場に行って皆の前で治療しますか?」
ぐっ、こいつ言うようになったじゃねぇか。
「はいはい分かりましたよっと。で? その後は?」
「出来れば現場に来て頂きたいと思っています。敵はジャイアントエイプらしいとの事ですが、複数個所での目撃報告も有るので、少なくとも二頭かそれ以上が居るようです」
「はぁ? ジャイアントエイプ~? それが複数って間違いじゃないのか?」
ジャイアントエイプ。名前の通り、ただ単にでかい猿だ。
力だけは確かに強いが、Cクラス冒険者数人居れば簡単に討伐出来る程度の相手で、人里に現れて無差別に人を襲うなんて事は聞いた事が無い。
あいつらは基本森の奥で群れる事も無く、一人自分の縄張りの中で暮らしていて、その縄張りの中にさえ入らなければ襲っても来ない、ある意味人畜無害なモンスターだ。
それが、街の近隣に現れて住人を襲い、警備隊では苦戦する? しかも複数の居る なんだそりゃ?
「分かりません。私も被害の大きさからにわかに信じ難いんですが、ただ報告ではジャイアントエイプが、複数の場所でほぼ同時刻に現れて人々を襲ったと言う事だけで、後は現場に行ってみないと……。ただとても嫌な予感がするんです」
ダイスも通常有り得ない事態に少し困惑気味だ。
嫌な予感か……。確かに俺もそれはひしひしと感じている。
この世界の怪物共は、この世界の住民達が正確に理由を理解している訳では無いが、経験則として知っている事として、この世界の住人達の言葉で言うと、それぞれの生態系の中でしか行動しない。
言ってしまえば、怪物としての役割を演じており、生物としての気紛れが発生しないロボットの様な存在と言う事だ。
これが、いまだに俺が元からこの世界の住人だったと思い切れない理由の一つだな。
決まったルーチンで動き、強さに個体差が無く、外見も傷等の後天的影響を除けばコピーしたかの様にほぼ一緒。
ワンダリングモンスターとして、集団で移動して気に入った所に集落を築くゴブリンやオークと言った面々は居るが、それはそう言うルールに生きていると言えるだろう。
まぁそのお陰で、ただ単に長年放浪して来ただけの俺なんかが、それで知り得たこの世界の攻略法を解説するだけと言う簡単なお仕事に有り付けているんだが。
但し、今までは……だ。
ここ最近の警鐘騒ぎは、だんだんと世界の法則に歪みが来ているのではないか? そんな予感がぼんやりとだが、この街の住人の間でも広がっているようだ。
いや、過去にも一度だけ経験した事が有ったな、怪物共がルールを破って街を襲うと言う事態が。
俺があの国から逃亡する原因となった忌まわしい悲劇だ。
「……先生? どうしました?」
「あ、あぁ、ちょっと考え事だ」
いやいや、あの時とは違う。 あれは予兆など無かった。
突然の圧倒的理不尽な暴力による住人の虐殺。
今回の様にじわじわと段階的に被害が広がるなんて、緩い状況では無かったじゃないか。
「まぁ、取りあえず、お前は現場に走って怪物共を倒して来い。そんで、俺が現場に着いたら全部終わってる様にしといてくれ」
「分かりました! では、運ばれた怪我人達をお願いします!!」
ダイスは俺の言葉に安心したのか凄い勢いで部屋から出て行った。
俺もさすがに怪我人が居ると言うのを見過ごす程には捻くれちゃいない。
のんびり暮らすにゃ、後味が悪い悲劇は不要だ。
俺は扉を閉めて行くのも忘れる位、慌てて飛び出して行ったダイスの後から部屋を出て、教会に向かって走る。
ん? 鎧とか着なくて良いのかって?
良いんだよ。だって武装してる奴が怪物討伐に行きもせずに街の中をうろちょろしてたら、さぼっていると噂されるだろ?
そんな悪評、平和にのんびり暮らすにはノーサンキューだ。
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