下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ

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外伝 旅する母のラプソディ IX

「あっ! 言っておくけど私の村の周りには恐ろしい魔物がたっくさん居るから気を付けてね」

 私がおどけてそう言うとお婆さんの訳を聞いた周囲の子供達は少し脅えた様子を見せたが、当のラハラハは冷汗ダラダラで顔を引き攣りながらも精一杯の虚勢を張って『そんなものは怖くない』的な言葉を言う。
 態度と言葉の違いに私も含め皆が笑い出した。

 本当に人間の子供と変わらないわね。
 確かに強さへの信念が人間より強いかもしれない。
 まさに戦闘民族だわ。
 でも分かり合えない事なんてないと思う。
 だってそれを肯定してくれる者達がここに居るのだから。
 いつの日かオーガもエルフやドワーフみたいに亜人の一員として友好関係を築ければいいのだけど……なんてまぁ果ての無い夢の話ね。

「私もオーガ語を習っちゃおうかしら?」

 そんな言葉が口から零れるくらい周囲には穏やかな空気に包まれている。
 だが、私の後ろの兵士達は何かを思い詰めた様な顔で押し黙っていた。
 私達のやり取りに何か思うところが有るようだ。

「どうしたの兵士さん達? そんな顔して」

 隊長さんが何かを言いたそうな顔をしていたので口火を切ってあげるつもりで声を掛けた。
 すると一度隊長さんは兵士達の方を振り向き頷いたかと思うと私じゃなくお婆さんの方を見て口を開く。

「この度は私の国があなた達の大切な家族を奪ってしまい申し訳有りませんでした!」

 そう言って兵士達全員がお婆さん達に深く頭を下げる。

「ちょっ! あなた達急にどうしたって言うの?」

 思ってもみなかった隊長さん達の行動に驚いて声を上げたが、お婆さんは静かな顔でその謝罪を受け止めていた。

「あなた達は一般兵よね? それにその若さからするとあなた達も国の犠牲者なのでしょう? 謝る必要は無いわ。それに私達だってこの国の人達を手に掛けたのだから同じ事よ」

「いえ、謝らせて下さい。私達が兵士だろうが平民だろうが関係有りません! なぜならこの国は私達の祖国なのですから。大人しく暮らしていたあなた達が手を出さざるを得なくしたこの国が行った卑劣な蛮行は、今までそれを許して来た私達国民の責任でも有るのです」

 お婆さんの言葉を遮り、そう返す隊長さん。
 ご立派な意見だけどその謝罪には意味が無いと思う。
 だっていくらあなた達が謝罪しようと、この悲劇で亡くなった者達は帰って来ないのだから。

「隊長さん。あなた達の責任と言うけれど、それでどうするつもり? 悪い人達はまた同じ様な事を仕出かすかもしれないわよ?」

 冷たい言い方になるけど、あなた達がここで頭を下げようがこの国の情勢は何も変わらない。
 確かに今回の策は失敗するかもしれないが、軍閥貴族達は別の策を立てて自分達の栄華を求め弱者を食い物にしようとするだろう。
 その度に隊長さん達はこの空虚な謝罪を重ねて行くのだろうか?
 そんなのナンセンスだ。

「時間は掛かるかもしれませんが、私が……いえ私達が必ずこの国を変えて見せます」

 最初は冗談を言っているのかと思ったけど、彼やその後ろに居る兵士の皆もその目は真剣そのものだ。
 私は隊長さんの言葉に呆れて溜息を吐く。

「どうやって?」

「私達が強くなって貴族達も無視出来ない発言力を手に入れます」

「私より全然弱っちいのに?」

 私は少し苛立ちながら意地悪に言葉を投げ掛けた。
 普段だったらこんな青臭い子供の主張なんて大笑いをするか、それとも何かアドバイスをして背中を押していた事だろう。
 だけど今彼が訴えた事は身の程知らずも甚だしい戯言に過ぎない。
 私は隊長さんと同じ言葉を吐いた人を知っている。
 そしてその者の末路も……。

「いい? あなた達。私の父はかつてとある国の騎士だったの」

「あ、あなたの父上が騎士? ではあなたは貴族なのですか? え、でも『だった』とは?」

 突然の私の過去の告白に隊長さん達は驚いている。
 そう確かに私の父は騎士だった……でも。

「別に私も父も貴族なんかじゃないわ。元々は平民出の兵士だったの。でも大きな戦で多大な功績を挙げてね、その褒美として賜った騎士の地位ってわけ。そんな父は常日頃から言っていたの。『俺みたいな騎士が増えていけば弱者として搾取される人達を護る事が出来る様になる筈だ。俺はその先駆けなんだ』ってね」

 私の言葉を己に顧みて考え込む隊長さん達皆。
 同じ平民出の兵士として恐らくこの後に起こった事も想像が付くだろう。
 いつの世も貴族達は自分の既得権益を脅かす者を認めない。
 だから父も……。

「ご想像通り、まぁ出る杭は打たれるってやつよ。貴族達が平民出の騎士を快く歓迎する筈もない。数々の武功を重ねて地位を確かにして行く父を疎ましく思った貴族達が父にあらぬ汚職の嫌疑をかけ罪人としたの。有りもしない罪なんだから本来ならすぐに無罪となり釈放される筈だった。でも裁判は有罪、その場で死刑を宣告されたわ」

 当時の私はまだ幼かったが、今でもあの時の死刑を告げた裁判官の冷たい声が耳に残っている。
 そして罪人の手枷をされたまま法廷から連れ出される父。
 それが私が見た父の最後の姿だった。

「でも運が良い方よね? 私達母子は国外追放で済んだのだから。下手すりゃ家族諸共全員死刑、それか女奴隷として売られ変態の慰み者とされていたかもしれないのだもの。貴族様達の慈悲とでも言うのかしらね」

 貴族の慈悲なんて反吐が出そうになるが、実際その可能性も有ったのかもしれない。
 貴族達から疎まれていた父であったが、そんな父に戦場で助けられた貴族達は大勢居た。
 そんな彼らが残された私達を哀れに思って、父は無理でも私達だけでも助命してくれた……そう思いたい。

「それでお嬢さんは私の故郷に流れ着いたのね……」

「えぇそうよ。母さんの親戚筋へ身を寄せる道中にうっかり迷い込んだセーテルの森で魔物に襲われたところを村の人に助けられ隣人として迎え入れられたの」

 本当に幸いだった。
 母の親戚筋とは言うが罪人の妻子など快く受け入れてくれる筈も無く、身を寄せた先で更なる不幸が待ち構えていただろう事は想像に難くない。
 私は隊長さん達家族に同じ思いをさせたくないわ。

「……ねぇ、隊長さん? これで分かって貰えたかしら? どれだけ自分達が愚かな事を言ったかって。あなた達の話ではこの国の貴族共も相当腐っているようだけど、父の……私達家族の二の舞になるつもり?」

 少し言葉を和らげ諭す様に皆に言い聞かせた。
 あなた達の言う事は正しくて立派な事よ?
 でもそんな青臭い正しさによって不幸になる事も有る。
 だからそんな無茶はしないで欲しいの。

「……」

 私の言葉で諦めると思ったのだが、隊長さん達の目には更なる決意の炎が灯ったように見えた。
 ちょっとあんた達ちゃんと話は聞いていたの?
 あんた達の行動はあなた達だけじゃなくあなたの大切な人達も巻き添えにする事になるのよ?
 私は怒鳴り散らしてでも諦めさせようと口を開こうとした瞬間、誰かが私の手を掴んだ。
 驚いて振り返るとそこには深い慈愛を讃え私を見ているお婆さんの姿があった。
 いつの間に? しかも私の背後を取り動きを止めるなんて……。
 思わぬ不覚を取り混乱している私を余所にお婆さんはにっこり微笑んで私に語り掛けてきた。

「おやめなさい。彼らを想うあまり悪者になろうとするのはいけないわ。ほら、あの子達の目を見て。あなたの意思は彼らにしっかりと紡がれた。繋ぎ留めた彼等の想いを大切にしてあげて」

 お婆さんの言葉に村の掟を思い出す。
 『繋ぐ命』
 今訴えた私の想いは彼らの中に形を変え強き力として宿ったのだろうか?

「でも……」

 ……それでも未来ある若者達に果てなど無いかもしれない茨の道を歩む事を是としていいのだろうか?
 私は胸が締め付けられた。
 もう一度隊長さん達に目を向ける。
 すると私に向けて力強く頷いたかと思うと大きく叫んだ。

「確かに今の私達は弱いです。ですが今日貴女が見せてくれた動き、技をこの眼に焼き付けました。これを師として死ぬ気で鍛えます。それにただ当って砕けるつもりも有りません。少しづつ手の届く範囲からこの国を変えて行くつもりです。なぁ皆!」

「はいっ!!」

 兵士達全員が口を揃えて隊長さんの言葉に応え声を上げた。
 ……分かったわ、これ以上あなた達の想いを否定したりはしない。

「あなた達の決意が固いのは分かったわ。もう止める様な真似はしない。けれど無茶だけはしないでね?」

「ありがとうございます」

 私の言葉に隊長さん達は大きく頭を下げた。
 ふぅ……だけどこれで本当にいいのかしら?

「お婆さん達はそれで本当にいいの?」

「それで構わないわ。私もその方達の決意に掛けます」

 お婆さんは私の問い掛けに微笑み頷いた。
 だがすぐに腕を組み困った顔をする。

「だけど、どちらにせよこのままこの土地に居座る訳にも行かないわね。またどこか安住の地を見付けないと……」

「あぁ! それよそれ! それが聞きたかったの!」

 お婆さんの悩みの言葉に、隊長さん達が思ったより早く来てしまった所為で話しそびれたままの私の計画の事を思い出した。
 そうよ、なんか色々あって忘れてたわ。

「ねぇお婆さん。一体何に襲われてここまで逃げて来たの? 何なら私がサクッと退治してあげましょうか?」

 それが最初に考えていた私の計画。
 何者かに住処を追われたのなら取り戻せばいいじゃない。
 私の背後をあっさり取れるお婆さんが居ても逃げざるを得なかった相手と言えども、私が手を貸せば大抵の魔物は倒せるでしょ。
 なんだったらカナンにも手伝って貰えば完璧ね。
 『声無き者の代弁者』になると言って退けたのだから嫌とは言わせないわ。
 私は意気揚々とお婆さんの返事を待っていると、どうした事かお婆さんは身体を震わして押し黙っていた。

「ど、どうしたのお婆さん?」

 あまりものお婆さんの様子を心配して声を掛けると、振り絞るような声でお婆さんはその名を口にした。

「……リンドヴルム……」

 と――。
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