俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜

第三章

完璧な上司で先輩との関係③

　私の部署の先輩で、林佐知はやしさちという一見仕事ができる風・の女性がいるのだ。そう言葉の通り風・であって、実際には仕事は全くできないのだ。ところが、男性社員に対しては人当たりがよく、そして要領がいい。

　蒼空さんは以前から林先輩の本質を見抜いていて、注意をしてくれているのだ。けれど他の男性社員は、気づいてはいるのだが林先輩に頼むと何でも引き受けてくれて、完璧な状態で返ってくるので、ついつい頼んでしまっている。

　林先輩本人が完璧な仕事をしていれば何の問題もないのだ。

　完璧な状態に仕上げるのは、私をはじめとした仕事のできる後輩であって、決して林先輩ではない。引き受けた仕事を後輩に振り分け、さも自分がしたように返しているのだ。

　そして何より問題なのが、林先輩は蒼空さんに好意があり、隙を見つけては迫っている。さらに蒼空さんに好意のある女性には、裏で嫌がらせをしているという噂まである。

「林の件は任せておけ」
「えっ？」
「何とかしなくてはと思っていた。ところで、遅くまでかかる程の仕事はどこのだ？」
「……」

　更に言いよどむ私に、勘のよい蒼空さんは気づいたようだ。

「はっきり言ってくれ。今後のためだ」
「……。田中さんの」
「あいつ」

　田中さんは蒼空さんの直属の部下に当たる男性だ。蒼空さんの所属する開発部1課は、企業からの依頼を受けて一般ユーザーに向けたアプリをメインに開発している。

　クラウドフラップでは、開発部といっても市場リサーチから完成までの全ての工程を部署内で行っているのだ。部署内で行うことによって、時間を短縮し情報漏洩を防いでいる。

　私は開発部2課の所属なのだが、開発部全体の状況を把握しサポートする立場でもある。だから1課の仕事をしても何の問題もないのだが、2課の仕事以外で残業をするほどの仕事を請け負う必要もないのだ。

　現に、仕事を押しつけた林先輩の姿もなければ、田中さんの姿もないのだから……。

「月曜の午前中には必要な資料だと聞いていたので、今日中に完成させないとと思って」
「それで、仕事を頼んだ林と田中は？」