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第三章

完璧な上司で先輩との関係②

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 社員の平均年齢も三十代前半と若手が活躍し、完全に成果主義で優秀な人材は年齢に関係なくどんどん昇進昇給できるところも、若手のやる気を引き出し成長してきている要因だ。

 蒼空さんのように優秀な人材が多数ヘッドハンティングされて入社するほど、魅力的な会社なのだ。

 先日、株式市場にも上場を果たし、今やこの業界では最も注目されている。

 きっと蒼空さんも今回の成果が評価され、課長から更に昇進すること間違いなしだ。

 私にとってはずっと憧れていた初恋の先輩は、憧れの上司としてすでに遠い存在になっていた。それが、どうしてこんな状況になっているのだろうか。私は夢でも見ているのだろうか。

 蒼空さんに腰を抱かれて歩いている姿を、会社の人に見られたら大変な騒ぎになってしまう……。考えただけでも恐ろしい。

 私がここまで遅くなるまで残業していることが珍しい。一人での残業が危ないと言われたが、今まで一人になるまで残ったことはない。なぜなら、いつも蒼空さんが私より遅くまで残っているからだ。


 そんな私達が偶然にも二人きりになった――。

 しかも蒼空さんにとっては大口の仕事に一区切りついたお祝いの日にだ。

 私にとって『運命の日』なのかも知れない。

 驚き以外のなにものでもない状況だが、何かが変わろうとしている……。

 遅い時間にビル全体が閑散としていて、昼間の活気が嘘のようだ。シンッと静まり返るフロアは少し怖く感じるほどだ。蒼空さんがいてくれて良かった。

 エレベーターも日中は混みあい、来るまでにも時間がかかるのが、嘘のようにすぐに到着した。エレベーターの中は二人きりで、ドキドキと胸の高鳴りが止まらない。視線を感じ、蒼空さんに視線を向けると熱い視線と交わった。

「残業するほどの急ぐ仕事があったか?」
「えっと……」

 視線とは異なり冷静な言葉が降ってくる。咄嗟に言葉の出ない私を見て何かを察したようだ。

「また林か」
「……」

 無言の返事が肯定してしまっているが、どう説明していいのかわからない。実際に、今日の残業の原因なのだ。

 
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