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第八章
嫉妬が向けられる⑤
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「どうやって片桐部長に近づいたの? クールで女性の影もなかったのに……」
「……」
今は何を言っても、梨乃ちゃんの神経を逆なでしかねない。一方的な言い分に返す言葉もないが、とにかくこのままでは埒が明かない。
「ねえ、別れてよ」
「私が別れたとしても、何も変わらないと思うけど……」
「別にすぐにつき合いたいと思っているわけではないから、邪魔者さえいなければいいの。今まで通り、クールで誰のものでもない片桐部長に戻ってくれるなら」
「嫌だって言ったら?」
「いなくなってもらうだけ」
雲行きが怪しくなってきた。何をするつもりなのだろうか。梨乃ちゃんが、一歩一歩とこちらに近づいてくるけれど、あまりの険しい表情に恐怖で足が動かない。
頭が真っ白になり立ち尽くす――
そこへ――
「凛花!!」
「吉瀬さん!!」
会社の方向から、蒼空さんと轟課長が走ってくる姿が見えた。
「蒼空さん……」
「チッ」
蒼空さんを見て安堵した私の耳に梨乃ちゃんから舌打ちが聞こえた。
そして――
『ドンッ』と音と同時に衝撃が走った。
「へ⁉」
驚きの声を上げた瞬間に、力強く押され地面に叩きつけられたのだと理解するも、突然のことに踏ん張ることもできずに、そのまま身体と頭が地面に打ちつけられる。
そして、そのまま私は意識を失った――
――カチャカチャ
金属のぶつかり合う音と消毒液の匂いがする。
「うーん」
「凛花!」
「蒼空さん?」
大好きな人の声が聞こえてゆっくりと目を開くも、まだぼんやりとしている。節々が痛んで思うように身体が動かせないのだ。
「凛花、良かった……」
目の前には、私の手を取り切なげな表情の蒼空さんの姿がある。
「ここは?」
「病院」
「えーっと」
目覚める前の記憶を辿る。朝、いつもより早くにマンションを出たはずが、梨乃ちゃんに会って……
「梨乃ちゃんは?」
「その話はあとだ。凛花は、頭を打って軽い脳震盪でここに運ばれた。検査の結果は問題なかったけど、大きなたん瘤ができている。あとは、身体も地面に打ちつけて、打撲しているんだ。骨が折れているわけではないが、しばらく痛みがあるはずだぞ」
「……」
今は何を言っても、梨乃ちゃんの神経を逆なでしかねない。一方的な言い分に返す言葉もないが、とにかくこのままでは埒が明かない。
「ねえ、別れてよ」
「私が別れたとしても、何も変わらないと思うけど……」
「別にすぐにつき合いたいと思っているわけではないから、邪魔者さえいなければいいの。今まで通り、クールで誰のものでもない片桐部長に戻ってくれるなら」
「嫌だって言ったら?」
「いなくなってもらうだけ」
雲行きが怪しくなってきた。何をするつもりなのだろうか。梨乃ちゃんが、一歩一歩とこちらに近づいてくるけれど、あまりの険しい表情に恐怖で足が動かない。
頭が真っ白になり立ち尽くす――
そこへ――
「凛花!!」
「吉瀬さん!!」
会社の方向から、蒼空さんと轟課長が走ってくる姿が見えた。
「蒼空さん……」
「チッ」
蒼空さんを見て安堵した私の耳に梨乃ちゃんから舌打ちが聞こえた。
そして――
『ドンッ』と音と同時に衝撃が走った。
「へ⁉」
驚きの声を上げた瞬間に、力強く押され地面に叩きつけられたのだと理解するも、突然のことに踏ん張ることもできずに、そのまま身体と頭が地面に打ちつけられる。
そして、そのまま私は意識を失った――
――カチャカチャ
金属のぶつかり合う音と消毒液の匂いがする。
「うーん」
「凛花!」
「蒼空さん?」
大好きな人の声が聞こえてゆっくりと目を開くも、まだぼんやりとしている。節々が痛んで思うように身体が動かせないのだ。
「凛花、良かった……」
目の前には、私の手を取り切なげな表情の蒼空さんの姿がある。
「ここは?」
「病院」
「えーっと」
目覚める前の記憶を辿る。朝、いつもより早くにマンションを出たはずが、梨乃ちゃんに会って……
「梨乃ちゃんは?」
「その話はあとだ。凛花は、頭を打って軽い脳震盪でここに運ばれた。検査の結果は問題なかったけど、大きなたん瘤ができている。あとは、身体も地面に打ちつけて、打撲しているんだ。骨が折れているわけではないが、しばらく痛みがあるはずだぞ」
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