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第八章

嫉妬が向けられる⑥

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「蒼空さん、助けてくれてありがとう」
「何を言ってるんだ。俺は凛花を守れなかった……」
「あの時、蒼空さんが来てくれていなかったら、どうなっていたことか。蒼空さんの姿が見えて安心したの」
「ケガをする前に助けられなくてすまない」

 握った拳に力が入って、わなわなと震えている。ゆっくりと手を動かして、今度は私が蒼空さんの手を握った。

「謝らないで。蒼空さんは悪くない」
「でも」
「蒼空さんが哀しい顔をすると、私まで哀しくなっちゃう」
「凛花」

 ベッドに寝ている私に、覆いかぶさるように抱きしめてくれるので、温もりが伝わってきて安心する。

「あの、梨乃ちゃんは……」
「俺達が着くより前に、凛花と橋本の様子がおかしいと思った人がいたようで、警察に通報してくれていたんだ」
「え……」
「だから、凛花が橋本に押されたタイミングで、俺達だけじゃなく警察も到着していた」
「じゃあ……」
「ああ……。傷害罪の現行犯で逮捕された」
「そんな」
「他にも余罪がありそうだから、凛花が気に病むことはない」
「でも……」
「昨日、凛花に橋本の話を聞いてから、警備室に依頼して社内の防犯カメラの映像を見せてもらった。あと、マンションの方も外の防犯カメラの映像を調べてもらったんだ」
「……」
「会社に着いて昌磨と話をしている時に、マンションのコンシェルジュから連絡が来たんだ。毎朝、俺の出勤時間に映っている女がいると連絡をもらった。その女が、凛花と同棲を始めた頃から、俺が出勤してもマンションから離れずに、凛花が出勤するまで映っていたそうだ。俺の出勤時間から凛花がマンションを出るまでいるってことは、三十分早く出ても間違いなく遭遇するだろう? だから、慌ててマンションに戻ったんだ。一足遅くてケガをさせてしまったが……」
「梨乃ちゃんは、蒼空さん目当てであそこに引っ越してきたんだってね」
「完全にストーカーだな」

 蒼空さんに憧れている人は今までたくさん見てきたが、ストーカーと言われる行為はニュースの中でしか見たことがなかった。


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