上 下
133 / 137
第十七章

未来へ⑧

しおりを挟む
 小春から言われて初めて気づいた。ゆくゆくはお父様の跡を継ぐなら本社勤務になるはずが、私のことを考えてくれたのだろう。今日まで知らされていなかったことよりも、ここに辿り着くまでに最善の策を検討してくれたのだと思う。

 プロポーズも、仕事をこのまま続けられるのも、全部が私のためなのだと実感した。小春のお陰で大切なことに気づけたのだ。

「小春、ありがとう」
「ん?なにが?」
「これからも仲良くしてね」
「もちろん」

 私達の友情を再確認したタイミングで、蒼空さんからメッセージが入った。

『昌磨とそっちに行っていいか?』

 先程、小春とお茶をすると連絡をしておいたのだ。目の前の親友にも幸せになってほしい。きっと、蒼空さんも同じことを轟課長に思っているのだろう。了承の返事を送って二人が現れるのを待つ。

「凛花」
「蒼空さん、お疲れ様」
「えっ、轟課長⁈」

 小春が驚きの声を上げているが嬉しそうだ。

「俺達は先に帰るから」
「佐田さん、時間あるなら少し話をしない?」
「はい」
「じゃあ、小春また明日ね」
「うん」

 親友の幸せを祈り、蒼空さんとカフェを出た。

「今日の夕食は何にする?」
「凛花」
「ん?」
「何が食べたいか聞かれたから凛花って答えたんだ」
「もう、何それ。私は食べ物じゃないでしょ!」
「甘くて一度食べると中毒性がある危険な食べ物だよ」
 
 耳元で囁かれて、腰が抜けそうになる。蒼空さんには翻弄されっ放しだ。このままだと、マンションに帰ったらすぐに食べられそうだ。なんとか話題を変えてみる。

「それよりも、こっちで働くっていつ決まったの?」
「ああ、色々と考えて調整していたんだ」
「先に教えてくれていたら驚かずに済んだのに」
「昨日も今日も全部、凛花に喜んでもらうためのサプライズだ」
 
 満面の笑みで私を見つめながら言われると文句も言えなくなる。

「近々、俺の実家と凛花の実家へ挨拶に行こう」
「うん」

 避けては通れない道だとわかっていても、美和ちゃんのことがあって若干不安にはなる。

「うちの実家も驚きそう」
「ああ、大丈夫だ」

 まさか、プロポーズの前に報告済みとは知らない私は、後日驚くことになる。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:240

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

BL / 連載中 24h.ポイント:52,633pt お気に入り:5,020

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:660pt お気に入り:1,956

旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:180

夜の帝王の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:85

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:120

二番目の夏 ー愛妻と子供たちとの日々— 続「寝取り寝取られ家内円満」

kei
大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:26

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14,881pt お気に入り:259

やり直し聖女は裏切りの勇者の愛から逃げ切りたい

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:154

処理中です...