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第一章

卒業④

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 学校の前に、『御卒業おめでとうございます』と書かれた看板が立て掛けられている。

「ゆーちゃん後で写真撮ろうね」
「うん!」

 いつもの私服とは違うスーツ姿の同級生達。六年間を共にした同級生だが、今日は雰囲気が違う。

「おはよう、教室に入れー」

 お世話になった先生達が、校門で出迎えてくれる。先生達は目を細め感慨深い表情だ。

 教室の中は、いつも以上にザワついている。既に、瑞希の姿もあり、男子達に囲まれて談笑している。

 由奈にはいつも以上に瑞希の姿が輝いて見える。瑞希と話をするタイミングはあるのだろうか。

 友達と話をしていても、無意識に瑞希の姿を目で追ってしまう。

 少しでも瑞希の姿を目に焼きつけたい。


 いよいよ卒業式の会場である体育館に向かう時間がやって来た。この学校の卒業式では、卒業証書をもらった後に将来の夢を保護者席に向かって叫ぶのが恒例なのだ。

 本年度の卒業生161名が入場する。体育館には拍手が鳴り響いている。

 ムービーでわが子の晴れ姿を撮っている保護者や、すでにハンカチを目元にあてる保護者の姿も……。

「第八十回卒業証書授与式を始めます――」

 司会の先生の言葉が体育館に響き渡る。

 校長先生や来賓の挨拶が終わり、いよいよ緊張の瞬間を迎える。

「卒業証書授与されるもの、一組浅野拓人」
「はい」

 出席番号順に呼ばれ校長先生から授与された後――。

「僕は将来消防士になりたいです!」

 体育館は、大きな拍手で包まれる。

 スーツ姿で将来の夢を叫ぶ卒業生の姿は、いつもより大きく輝いて見える。

 もうすぐ、瑞希の番がやってくる。背筋を伸ばし凛々しい姿で座っている姿に、由奈は見惚れる。

「斎藤瑞希」
「はい」
「おめでとう」
「ありがとうございます」

 一連の動作を体育館中が見守る。そして――。

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