上 下
11 / 66
第二章

春休み④

しおりを挟む
 母が自分のことのように喜んでくれている。

 まさか、こんなに早く返事をくれるとは思っていなかった。手紙をもらうとこんなに嬉しい気持ちになるのだと初めて知った。

 初めて手紙を出したのも、初めてもらった手紙も、相手は瑞希だ。

 一週間という時間が尊い時間に感じた。

 手紙を握りしめ、自分の部屋に戻り目を閉じて深呼吸をする。手紙を持つ手が少し震えている。ハサミで綺麗に封を切り、中の便箋を取り出した。

『由奈ちゃんへ

 早速手紙を送ってくれてありがとう。
 まだ卒業して数日なのに、小学校が懐かしい気がするね。別れの寂しさと新しい生活への期待と緊張でいっぱいです。僕の行く学校には、同じ小学校の子がいないから、またみんなの様子を気が向いた時に教えてくれると嬉しいです。由奈ちゃんも新しい学校生活頑張ってね。ひとつお願いが……。もし、卒業式の日の写真をプリントすることがあれば、僕にももらえないかな?では、また。
 瑞希』

 手紙を何度も読み返した。丁寧な字で書かれた手紙は、瑞希そのものだと思う。

 卒業式の日の写真は、由奈のスマホに保存された宝物だ。

 手紙を封筒に戻し、大切な物を入れる缶にしまった。

 そして、リビングに戻る。

「お母さん、スマホの中の写真って印刷出来るの?」
「アプリがあったら出来るわよ。お母さんに送ってくれたら印刷してあげる」
「う、うん。二枚ほしい」

 母に写真を見られるのは恥ずかしいが、他の方法がわからない。

「まあ、いい写真ね。みーくんイケメンだわ」
「うん」

 すぐに母がプリントしてくれた。

「この写真みーくんママにスマホで送っていい?」
「みーくんにプリントした写真を送るんだけど」
「じゃあ、みーくん本人には内緒にしておいてもらうわ」
「うん」

 スマホだと瞬時に届く写真も、プリントして渡そうと思うと時間がかかる。少しでも早く写真を瑞希の元へ届けたくて、部屋に戻り便箋を広げる。

 瑞希のことを想い一生懸命手紙を書き、写真と共に封をした。

 前回は三日かかった手紙も、すらすらと進みあっという間に書き上げた。

 明日、瑞希の家のポストへ入れに行こうと思う。

 この間にも手のひらサイズの世界では、ピコピコとメッセージが入り続ける……。

 
 
しおりを挟む

処理中です...