2 / 106
第一章 黒猫の恋
第2話 知らない天井
しおりを挟む目覚めは最悪だった。
突然頭を鈍器で叩かれたような衝撃と共に、襲い来る酷い頭痛に、頭がグラグラする。
昨夜、5年近く付き合って結婚間近だと思っていた恋人に、一方的に別れを告げられてからの記憶がほとんどない。
途切れ途切れだが、最後の記憶は黒猫を撫でていたような?ないような?…全く思い出せない。
いかん、完全に二日酔いだ。
お水飲も…
朦朧としながらうっすらと目をあけると、お酒の飲みすぎと泣きすぎでショボショボしている目では良く見えないが、雰囲気からしていつもの見慣れた天井ではないことは確かだった。
だがしかし、二日酔いで思考が完全におかしくなっている私はそんな事お構い無しだった。
ん?ここはどこ?うちってこんな天井高かったっけ?
てかベッド広っ!ふっかふかでリネンいい匂い!
夢か?夢だな?ふっふー♪夢サイコー!
横になってるベッドのリネンが冷たくてサラサラで心地よい。
あまりの気持ちよさにコロコロと転がってみる。
そして気がつく。
あれ?もしかして……
もしかしなくても私は服を着ていない?何故?
うーん、でも頭も痛いし、リネンも気持ちいい。
なんか意味わかんないけど、どうせ夢だしとりあえずもう1回寝るか!
酔いのためか、完全に思考回路が破綻していた。
何故服を着ていないのか考えようと思ったが、素肌にサラサラのリネンがあたる感覚が気持ち良すぎるので、深く考えることはやめた。
もう一度布団に潜り込むと、不意に後ろから伸びてきた暖かい何物かに抱き込められる。
くるりと寝返りを打ってみると、目前に自分ではない人の気配。
恐る恐る顔をあげて見てみる。
えーと、隣のイケメン殿方はどなたでしょうか?
ふわふわした黒髪猫っ毛のまつ毛の長いイケメン…私は存じ上げませんが…
二日酔いでガンガンする頭を光速でフル回転する。
営業部でエースと言われる私の武器、それは、人の顔と名前の覚えがいいことだ。
その私の頭の人物ファイルにマッチングして行く……が、該当する人がいない。と、なると自ずと答えがでる。
初見さん、初めましてこんにちは♡(てへぺろ)、という事だ。
途端に血の気が引いていく。
うわぁ…やっちまった…
思わずガバッと起き上がると…胸に散らばる無数の鬱血の痕…
それが情事の痕であるキスマークだと気がついた時にはすっかり酔いが醒めていた。
慌てて飛び起き、足元に散らばった服を手早く身に着け、ダッシュで逃げるように部屋を後にした。
廊下が長い!エレベーター遅い!
てか、景色いーなぁー……っておい!
ちょ……このタワマン、会社の近くではないですか!?
何階建ての何階なのか、考える余裕もなく、とにかく下行きのボタンをバンバンと連打する。
到着したエレベーターに乗り込み、またもや閉ボタンを連打する。
エレベーターが下降し始めたところで、ほっとしたのか力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。
時計を見ると朝の7時。今日ほど休日で良かったと思った日はない。
朝の冷たい空気で、騒がしかった頭に漸く冷静さを取り戻し、短く嘆息する。
とりあえず、帰ろ。
大通りでタクシーを拾い、帰宅する。
酔いは覚めたが、二日酔いの頭は変わらず痛い…
◇◇◇
酷い目にあった…もしくは酷いことをしてしまった?
この年でまさかのワンナイトラブをやらかしてしまうとは夢にも思わず、タクシーの中で大大大反省&自己嫌悪に陥ってしまった…。
ヘロヘロになりながら帰宅し、よろよろとシャワーを浴びるために洗面所に直行する。
鏡に映る私はメイクもボロボロで髪もぐちゃぐちゃ…酷い有様だ。
お風呂に入りたい…
恐らく…いや、間違いなくやらかしてるであろう情事の痕跡を少しでも消したかった。
浴槽の給湯スイッチを押し、メイクを落とそうと洗面台前に立つと、嫌でも目に入る…2人分の歯ブラシや男性用の整髪料、コロンやスキンケア用品…全て誠治のものだ。
やらかしたことで頭の中がパニック状態だったおかげで、泣き崩れることはなかったが、やはり目に入ると胸が痛いほどに締め付けられるわけで、それらを勢いに任せて手当り次第にゴミ箱に放り込んだ。
ついでだからと、洗面台だけでなく、キッチンのペアカップやリビングに飾ってあった写真、クローゼットの中の替えの下着と部屋着も全てゴミ袋に詰めた。
そうして気が付く。
約5年もの長い交際だったのにも関わらず、誠治の私物は最低限で私服は1枚も置いてなかった。
そういえば、会うのは大体会社帰りに飲んでから私の部屋に来ることがほとんどで休日一緒に過ごすことは稀だった。忙しかったしあんまり気にしたことは無かったが、金曜日泊まったら必ず土曜日の朝には帰宅していた事を思い出す。
きっと、本命がいたから。
休みの日は本命と過ごすために、土曜日は朝方に帰ってたのだろう。
二股…それも私はキープの方。
認識してしまうと結構ダメージが大きくて、不覚にも泣きそうになり鼻の奥がツンとした。
でも、こんなことで泣くのは癪に障るので、何クソと上を向いて耐える。
そこには先程とは違い、見慣れた部屋の天井があった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる