【R18】黒猫は月を愛でる

夢乃 空大

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第一章 黒猫の恋

第20話 彼女と俺の接点※

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「うぅ…さみ……」

 日も落ちて当たりが暗くなってきた夕方、俺はひとり屋上でタバコを吸っていた。

 12月ももう半ばを過ぎ、世間では恋人達が色めき立つ季節がやってきた。
 屋上から見る景色は壮観だ。街は街灯の灯りだけでなく、この時期ならではのイルミネーションで飾り立てられ、いよいよクリスマスムードも高まって、街中がキラキラと輝いて見える。

 そういえば、ここ最近は…といっても、もう4年程になるが…クリスマスを一人で過ごしていたな、という事をふと思い出した。
 改めて意識すると流石に人恋しくなる。

 俺は人よりも少々特殊な家庭環境で育ったため、愛情に飢えている節があり、人肌の温もりと安心感は、そんな俺の精神を保つためにも、正直必要不可欠だった。

 そんな俺が長期に渡り禁欲生活をしているとは……

 4 彼女を愛しく想う気持ちでどうにか保てていたが、年の歳月の禁欲は若い健康な男性にとってはかなりの苦行だ。
 それにしても、愛の力は偉大という訳か。よく耐えてこられたな、と自分で自分を絶賛するが、それも限界を迎えようとしている。

 彼女だけを求める心と、誰でもいいから繋がりたい身体の欲求との狭間で無様にも揺れ動いて、今にも心と身体がバラバラになってしまいそうだった。


「はぁ…抱きたいな…もうそろそろ限界…」


 俺はどうにもならない切ない気持ちを、タバコの煙にのせて思いっきり吐き出した。



 ◇◇◇



 屋上から自席に戻ると、ノー残業デーの為かフロアには誰も残って居らず、俺の机の上には部下達が帰り際に提出した日報書類の束が見えた。毎度の事ながら、日報チェックが一番時間がかかる。
 時間は定時を少し過ぎたところ。この日報の量だと今日も残業だな、と軽い溜息を吐くと、日課の締め作業と日報チェックを始める。暫く作業に没頭していると、この時間には珍しく内線が鳴った。
 作業をしながら受話器を取ると、首と肩の間に挟みそのまま俺は流れるように応対する。


「はい、三営猫実です。」

「お疲れ様です。一営2課の仲原です。まだいらっしゃって良かった!お忙しいところすみません、ただいま少しお時間よろしいでしょうか。」


 受話器から聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきて、吃驚して危うく受話器を落としそうになった。
 電話越しではあるが、久しぶりの彼女の声に顔に熱が篭もり、心臓がドクンと跳ね上がる。

 案件専属になってもらってから数ヶ月経つのに、内線は初めてだった。メールではもう既に何度もやり取りをしているし、付箋やメモ書きのやり取りもした。だけど、今の今まで直接電話で話したことがなかったという事実に今更ながら気が付く。
 何故?と思ったが、メールにはいつも、

 "内線しましたが、タイミングが合わなかったようなので、メールにて失礼します"

 と言う文言が、添えられていたので、互いに多忙で本当にタイミングが合わなかったのだろう。
 俺も彼女も所謂売れっ子営業なので、致し方ないとはいえ、こうもすれ違うものなのか、と苦笑するしかない。

 久しぶりに聞いた彼女の声に俺は逸る心を鎮め、出来るだけ落ち着いた声で話をする。


「…はい、仲原さんお疲れ様です。うん、大丈夫ですよ。案件の件かな?」

「はい、新商品のプロモーションの件で、クライアントから相談を受けていて、先程メールも送らせて頂いたんですが…」

「あ、あぁ…メールね。今確認するので、少し待って。」


 仕事の件だとは分かっているが、ドキドキが止まらない。緊張で手には脂汗が滲み、呼吸も心做しか荒くなっていた。
 受話器越しの彼女の息遣いを感じてクラクラしてきた。気を抜くと今にも、好きだ、とか抱きたい、とか口走ってしまいそうになり、メール確認の間だけでも保留にすればよかった、と少し後悔する。
 膨大な未読メールに軽く焦りながらも、何とか該当のメールを見つけ内容を確認し、彼女に指示を与えた。


「…………という感じで大丈夫かな?」

「あ、はい!ありがとうございます!早速明日、クライアントにアポ取って行ってきます。また何かあったら、メールか内線いれますね。」

「うん、よろしくお願いします。では頑張って。」

「はい、ありがとうございました。」

 ガチャ


 俺は受話器を置いた後、感極まって両手で顔を覆い天井を見上げる。たったこれだけの会話だったのに、胸が高鳴り動悸が止まらない。
 完全に仕事の話のみで、プライベートな会話や色気のある会話等は一切ない。それなのに、一瞬にして俺の感情全てを持っていかれ、頭の中は彼女一色に染まっていた。

 それと同時に、先程燻っていた劣情と熱が戻ってきて、俺の下半身は彼女に反応して痛いくらいにガチガチに昂り熱を持っている。
 いい大人が、思春期の子供ガキかと思うくらい身体は欲望に正直で、自分でも嫌になる。

 俺はベルトを外し、スラックスの前を寛げると、先程の内線電話の彼女の息遣いと声音を思い出しながら、固く聳り立つ自らの分身に触れた。
 この4年間、何度彼女の事を想い慰めてきたか……
 人恋しくなっていた今日、このタイミングで声を聞いてしまってはもう我慢が出来るはずがなかった。

 彼女の事を考え、熱く猛った自身を手で強く扱くと、凄まじい快感が背筋に走る。


「っく……はぁ…名月…名月…」


 名前を呼びながら手を上下に動かすだけの行為なのに、彼女の息遣いを思い出すと酷く興奮した。抗えない程の快感が襲い、本能の儘に手を動かす。
 肉棒の先から滴る透明の先走りの露が指を濡らし、扱く手の動きを滑らかにする。
 手を動かす度にぐちぐちと卑猥な音が鳴り、それが耳を刺激して更に興奮を高めて行った。
 俺の頭の中は、以前会議でみた婀娜やかな彼女の姿に支配されている。


 名月……
 その唇で俺の名前を呼んで
 その瞳に俺を映して
 俺に笑いかけて


 彼女の事を考えるだけで、胸が締め付けられ、どうしようもない程の切ない想いが溢れ出した。一心不乱に彼女を想い手を動かす。切ない想いと凄まじい快感に支配され頭の芯が痺れた。そろそろ限界が近づく。俺は更に手の動きを速めた。


「……名月、お願いだ…俺を受け入れて……っうっ。」


 俺の手の中で俺自身が絶頂を迎え熱く膨張し、そして大量の精を放つ。勢いのあるそれは、一度では吐ききれず、何度も何度も手の中に吐精した。
 そして全て吐き出した後、訪れる甘い気だるさとオフィスでやってしまったという罪悪感。

 俺は短く嘆息すると、手早く引き出しを開けウエットティッシュを出す。
 自身を清めながら、情けなさと淋しさに涙が出そうになった。

 俺は彼女が好きだ。彼女しか欲しくない。だけど、時折頭を擡げる、どうしようもない淋しさを消すことは出来ない。
 誰でもいいからと適当な女を抱いた事もあったが、抱いた後に訪れる虚無感と狂おしい程の渇きの方が辛くて、それ以来誰ともセックスはしていなかった。
 人肌を意識したことによって、余計に彼女が欲しくなるのが苦しかった。


「俺はどうしたらいいんだよ……」


 苦しさと切なさと淋しさが入り混じった消化出来ない思いを抱えて、俺はデスクに突っ伏した。



 ◇◇◇



 彼女から内線のあったあの日から、俺の身体がおかしい。
 どうしようもない火照りと疼きに襲われ、今まではごくたまにしかしていなかった自慰が再燃してしまったのだ。
 仕事が終わり、自宅に帰ると即寝室へ直行しては自尉に耽ける毎日。何回抜いても火照りが治まらず、身体が疼き手が止まらなかった。気持ち良さに溺れ本能の赴くままに手を動かす。何も考えられず、ただ快感を追うだけの動物みたいな自分に嫌気がさすが、辞めることが出来なかった。

 そして、俺はこの日も頭の中で何度も何度も彼女をドロドロに汚した。

 理性などかなぐり捨ててしまえたら楽になれるのに……
 それを手放せない俺は、また今日も罪悪感と淋しさに苛まれる。

 火照りと疼きが治まると、手早くシャワーを浴びてベッドに潜り込む。そうしないと、また身体が疼き始めて眠れなくなるから……
 広いキングサイズのベッドでの独り寝は、孤独感だけが募り、余計に淋しさが増す。


 君が傍にいてくれたら、俺は他には何も望まないのに……
 どうして君は人の物なんだろうか。
 ねぇ、名月。そんなやつ辞めて俺の手を取ってよ。
 俺が何よりも誰よりも大切にするから。


 気がつくと涙が頬を伝って枕を濡らしていた。
 吐精した後の気だるさからくる眠気に、俺は自然と身を任せた。
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