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第二章 黒猫の恋人
【閑話】クライアントとの会食の後
しおりを挟む予定していたクライアントとのランチミーティングが無事に終わったのは16時。
俺は帰社して早々に屋上へ行き、タバコをふかしていた。
そもそも、今日はクライアントの担当替えの挨拶を兼ねての軽い会食のはずだったので、予定では14時半には終えているはずなのに、食事の後お茶でも、と新担当者(女)からのベタな誘い文句でこの時間だ。
しかも旧担当者(男)は、後は担当同士で宜しく、とさっさと帰ってしまうし。
新担当者 相楽さんは、俺よりも少し年上のバリバリのキャリアウーマンで、旧担当者 佐藤さんの異動を機に交代となるとの事だった。役職は佐藤さんよりもひとつ上の課長なので、俺と同列だ。その分色々と決裁も早そうなので、良かったと言えば良かったのだが……先程から、ボディタッチが多いのが些か気になるところだ。
しかも、触り方が……
うん、エロいな。
あからさまな好意を向けられても、取引先の担当だから無碍には出来ないし、でも好意を受ける気はないしで、どうしたものかと頭を悩ませている時に、ちょうど名月から折り返しの電話がきて事なきを得たが……
何度アプローチされても靡くことはないし、少し前の俺なら、相手の下心を利用するだけ利用しての会社に有利になるように取り計らったのだろうが、名月がいる以上、不誠実な事はしたくないし、誤解を与える様な事もしたくない。
それに何より、名月以外の女に割くリソースが惜しい。
1%……いや0.1%ですら惜しい、勿体ない、嫌だ。
そうなると……
「このまま俺が担当のままって訳にもいかないよなぁ……だぁーっ!面倒くせ!」
タバコの煙を吐き出すと、ガシガシと頭を搔いた。
ああいう妖艶な年上女は、俺には荷が重い……寧ろ継母がそういうタイプだったので、若干トラウマでもある。
誰か適任者は居ないか……と考えていると、ひとり思い浮かんだ。年上のお姉様に可愛がられるタイプのアイツ"松本瑛太"だ。
俺は即座に社用携帯から松本に内線をすると、松本は教えられた通りに3コール以内で受電した。
「はい、三営松本です。」
内線は3コール以内で取る、営業マンの基本だ。
松本は書類のミスこそ多いが、営業としての基礎や心得についてはきちんと抑えていて、そこがクライアントのウケがよく…特に女性担当にたいそう可愛がられている。
そして何より…あの可愛らしい見た目に反して、かなりの肉食で無類の年上好きなのだ。
俺の勝手な推測だが、相楽さんも肉食系なタイプなので、松本が相手にはピッタリなのではないだろうか。そんな訳で、担当は松本に振ろうと決めた。
「あ、松本?ちょっと出てこれる?屋上。」
「えっ、大丈夫ですけど……俺また何かし」
ブチッ
俺は、松本の例の「俺、また何かしました?クビですかぁ~左遷ですかぁ?」が始まる前に通話を切り、真っ青になって慌てて飛び出してくる松本を想像して、思わず忍び笑いを漏らす。
さて、松本はどのくらいでここまでくるかな。
◇◇◇
「ま、マネージャー!!!!お、遅く…なり…ましたぁ……俺、何…か……しまし…たか……はぁー!苦しい!!!」
俺の予想よりも随分と早く、松本はぜーはーぜーはー息を切らせながら、屋上のドアに飛び込んできた。
「お、早いじゃん。」
「だって、いきなり電話切るんですもん!何事かと思って階段ダッシュしてきますよ!!!」
松本はジャケットを脱いでネクタイを緩めると、パタパタと顔を手で扇ぎながらこちらにやってくる。
「おー、凄いね。7階分ダッシュ?若いなぁー。」
「猫実さん!揶揄わないでください!」
7階もダッシュしてきたからか、汗だくでぜーぜーしながら、上目遣いで俺を睨みつけてくるが、小動物に睨まれているようで全く迫力はなく、寧ろ可笑しくて笑いが出てしまった。
「はははは、ごめんごめん。それでさ、松本って、今彼女いたっけ?」
俺はズバリ核心を伝えた。
回りくどい事を言う必要はなかったし、それに……じゃれあうのは面倒くさい。
松本はきょとんとして言った。
「へ?か、彼女ですか?うぅ~ん……彼女はいません…ね。」
なるほどね、彼女は居ないんだな。
俺は言い方を変えてもう一度訊ねた。
「あー、じゃあセフレ?今いんの?」
セフレの単語を出した途端、松本の表情ががらりと変わる。
いつもの頼りないナヨナヨっとした松本からは想像も出来ない程、扇情的な表情でペロリと唇を舐めると艶然と笑んだ。
「いますよ。セフレなら何人いてもいいですよね。あ、もちろん、みんな綺麗なお姉様方ですよ。みんな素敵過ぎてひとりだけに絞るなんて無理で、選べないんですよねぇ。」
「うわぁ…ゲスい発言だな。そんなにいいのか?」
「もう、最高ですよ。普段は強気なのにベッドでは素直で甘えてきて…エロくて堪んないですよね。」
「ははは、お前、相変わらずオフィスにいる時とキャラ違いすぎだな。」
呆れ気味に俺が言うと、松本は悪びれる様子もなく言った。
「そうですね。あのキャラの方がお姉様ウケが良いいんですよね。」
「あざといなぁ。でさ、お前、綺麗なお姉様に興味ない?」
俺の言葉に、松本は一瞬吃驚したように目を見開いた後、少し考えるような仕草をしたかと思うと意味ありげにニヤリと口の端を上げながら笑った。
「ありますよ。どんな方ですか?」
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