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トラヴェエ王太子の責務と恋
■王太子の義務
しおりを挟む「……王命承知しました。陛下、謹んでお受けいたします。」
◇◇◇
気がつくと王城の私室にいた。
先程まで国王と謁見をしていたはず……
何故ここにいるのか、どうやってここまで帰ってきたのか。
今にも叫び出しそうな程、こんなにも心が引き裂かれそうなのは何故なのか。
何も考えられない、わからない、いや、わかりたくない。
ぐるぐると混乱する頭を落ち着かせようと、ジャケットを脱ぎ捨て、ベッドサイドの水差しを一気に煽った。
よく冷えた水が濁流の如く勢いよく流れ込み、カラカラの喉を潤していく。
飲み込むのに追いつかない程の大量の水は行き場を失い、唇の端から溢れ頬を伝いクラヴァットとシャツをしとどに濡らした。
濡れたシャツが肌に張り付く感じが気持ち悪い。
しかし、そんな事に構っている余裕はなかった。
勢いよくクラヴァットを引き抜き、空になった水差しと共にカウチに投げ捨てると、私はベッドへと身を投じた。
目を閉じ深い溜息をひとつつく。
少し頭がクリアになると、ようやく自分の状況を把握することが出来た。
先刻、私は父王からもたらされた縁談を受け入れた。
いや、受け入れざるを得なかったのだ。
私は国の為に政略結婚をするのだ。
この国の王太子として生を受けた以上、政略結婚をする可能性があることは頭では理解していた。
しかし、私には心に決めた相手がいる。彼女以外は欲しくなかった。
私は、愛する彼女と結婚がしたいのだ。
だから、政略結婚で他国の姫を娶るような事態にならないよう問題は出来る限り取り去ってきた。
同盟国の危機。
それはどう足掻いても回避しようの無い事態。
私の努力でどうにかなる話ではない。
私が裏から手を回した所で、ただの同盟国のままでは内政干渉で、それこそ国際問題にもなり得る為、相手国を救うためには、内政に合法的に干渉する必要があった。
その手段として縁組をし、王女を正妃に据える必要があるということは頭では理解している。
理解しているのだが……私はアイリーン以外を正妃に迎えるつもりが無かったので、正直、この事態を想定していなかった。
こうなってくると、愛する彼女を正妃に据える事ができなくなる。
理解が追いつくと、身が引き裂かれるように辛かった。
どう足掻いても無理なのであれば、いっそ側妃に迎えるのはどうだろうか。
側妃を1人迎えれば、国内の貴族達が権力欲しさに、我先にと娘達を後宮へと送り込んで来るのは間違いない。
彼女は宰相ソーニエル公爵家の令嬢である。
身分と立場から、側妃として迎えたいという願いは到底叶わないだろう。
それに、私は愛する彼女を、寵を競い伽の相手をするのみの側妃などではなく、唯一の正妃として欲している。
側妃など要らない…彼女さえいてくれれば…
状況を整理するればする程、愛する彼女を手に入れられないという事実を突きつけられる。
頭から冷水を浴びたような感覚を覚え、血の気が引いていく。
先刻までの浮ついた気持ちはすっかり抜け落ち、絶望と言っても過言ではない程の重い気持ちに支配されていた。
わかっていた…そう、わかっていたはずなのだ。
しかし、そう簡単には受け入れられるはずも無い。
幼い頃から唯ひとり…彼女以外は瞳に入らない程、彼女を一途に想い愛し続けてきた。
それ故に、降って湧く縁談話をのらりくらり交わし、彼女を手に入れるためにこの身を国に捧げてきたのは一体何の為だったのか。
全ては意味の無いことだったのだろうか。
彼女の成長を傍で見護り、他の男の目にも触れされないよう、大切にそれこそ宝物のように護ってきた。
いつの日か、彼女に求婚するために……
そのいつの日かが、まさか永遠に訪れることがないなどと思ってもいなかった。
そして同時にそれは、愛する彼女はいずれ他の男の求婚を受け、他の男に嫁いで行くことを示している。
そのことを思い知らされ、更に深い闇に落ちていく。
私は今日程、王太子であることを呪った日はない。
己の運命を嘲笑い、堕ちると頃まで堕ちていこうではないか。
目の前が真っ暗になる。
心が悲鳴を上げ、身体の自由がきかない。
もう何も考えたくない…
思考する事をやめ、全てを諦める。
そうして、私は意識を手放した。
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