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トラヴェエ王太子の責務と恋
□兄からの呼び出し1
しおりを挟むお母様とサロンでお茶をしながらお話をしていると、王太子補佐官をしている兄のジュストから王城の執務室へ来て欲しいと呼び出しがあり、あれよあれよという間に私は王城へ向かう馬車の中にいた。
今日はこの後刺繍とする予定だったのに…
ご丁寧に馬車まで手配してるから断れなかったじゃないの!
こういう用意周到なところが兄様らしいっちゃ兄様らしいんだけど…
正直、毎日顔を合わせているのだから王城へ呼び出さなくても、屋敷で話せばよいのでは?と疑問に思ったのだが、わざわざ呼び出すくらいなのだから、機密事項なのかまたは急を要する事なのだろうと理解をし、渋々承諾をした。
報酬は新しいレターセットか何かで手打ちにするつもりだ。それくらいねだってもバチは当たらないだろう。
またお遣いとはいえ久々の登城である。近々、城下町の散策をしたいと考えていたので、登城ついでに立ち寄れるかも、とちょっぴり楽しみなことは楽しみだったりする。
お土産はあの美味しいスイーツ店にしよう。
あぁ、新しい刺繍糸も欲しい。
賑やかな露店もみたい!
窓の外の流れる景色を見ながらあれやこれや楽しげに思考を巡らせていると、自然と気持ちも高揚していく。
そういうわけだから、兄からの用事がさっさと済むことを切に願おう。
兄といえば、私にはもうひとり兄のような方がいる。
兄と同い年で7歳上の幼馴染のヒュー兄様こと、ヒューゴ・リュカ・リトヴィエ王太子殿下だ。
我がソーニエル公爵家は代々宰相という役職を拝命していている為、学園に通うまでは父の仕事について私たち兄妹はほぼ毎日王城へ登城していた。
そこで共に学び育った王太子殿下を恐れ多く私は兄と呼んでいる。
流石にもう幼い子供ではないので、公の場では『殿下』と呼んではいるが、当の本人がそう呼ばれるのは嫌だと言うので、プライベートでは未だに『兄様』呼びのまま…
そのヒュー兄様はもうすぐ御歳25歳になる。
『漆黒の雷神』
『大陸最強王子』
そんな恐ろしい呼び名で呼ばれるヒュー兄様は、少々無愛想ではあるがとても見目麗しい美丈夫だ。
漆黒のと二つ名がつく黒い艶髪と切れ長でシルバーの瞳、クールな面立ちですらりとした長身は何を身につけても溜息が出るほど優美である。
しかし、その優美な見た目とは裏腹に身につけた服の下にはバッキバキに鍛え抜かれた体躯が隠されている…とは誰も想像がつかないのではないだろうか。
それを証拠に、戦に出れば恐ろしい程に強く、王太子殿下直属部隊のエクレール騎士団を率い次々と敵を薙ぎ払うその姿は、まさに軍神さながらの勇ましさ…『雷神』の二つ名は伊達ではない。
また、頭脳明晰で、政治…特に外交の天才といわれており、こちらもとにかく向かうところ敵無しの大陸最強王子なのだ。
この素晴らしい王太子の生誕祭は、それはそれは毎年盛大に催される。
期間中、平民街は活気に溢れ至る所でお祭りを開催して、王太子の生誕を祝うのだ。
そして生誕祭のメインイベントである夜の舞踏家は特に凄まじい。
規模も豪華さも素晴らしいのだが、どうにかして独身の王太子の目に止まりたいと願う女性貴族からのダンスのお誘いが次から次へと絶えず、大変な事になるのだ。
優雅な立ち居振る舞いはもちろん、エスコートもダンスのリードも完璧、加えて王太子という高貴なお立場。毎回ヒュー兄様と踊りたいご令嬢で長蛇の列が出来上がる。
要するに、ヒュー兄様は非常におモテになるのだ。
そりゃそうだ。ヒュー兄様は見た目も中身も完璧最強王太子なのだから、当然ご令嬢達は誰よりも美しく着飾って、お目に留まりたいと必死になるのも頷ける。
それはヒュー兄様の立場上では仕方がないとはいえ、そんな状態に少しばかり嫉妬の気持ちが燻るのはご愛嬌ということで……
もちろん、婚約者でもない唯の幼なじみの私にはそんな資格が無いのは分かっているので、身の程は弁えているつもりだ。
だけど、唯一、無愛想王太子のはにかんだ様な笑顔と優しさを知っているのは私だけということが、他のご令嬢と張り合えることで、それだけは他の方に譲るつもりはなかった。
それでも、それはヒュー兄様に恋人や婚約者が出来るまでの仮初のものだけれど……だって、私は妹みたいなものだしね。
こんなにおモテになるヒュー兄様だけど、どんなに美しい令嬢に言い寄られても不思議な事に浮いた話は聞いた事がなく、未だに独身を貫いている。
縁談話は降るように舞い込んでいるみたいだけれども、何でも、心に決めた想う方がいるとかいないとかで、全て断っているそう。
ヒュー兄様が想われる方は夜会などには出てこないどこかの深窓のご令嬢なのかしら?
それとも他国の王女様とか?
ヒュー兄様もいい年だし、私もそろそろ覚悟を決めて兄離れをする頃なのかもしれない。
あの笑顔を他の女性に向けるのか…と想像したら、ちょっぴり心が重くなってきたが、咄嗟にぶんぶんと頭を振り用事が済んだ後の楽しみを考えて無理やり切り替える。
窓の外を見遣ると遠目に王城が見えてきたので、そろそろ着く頃だろう。下車の前に軽く身支度と先程振って乱した髪を整える。
馬車の速度が緩やかになり、やがて止まると同時に馭者から到着を告げられる。
扉が開かれ踏み台に歩を進めると、既に到着していた迎えにに来ていた兄の遣いと目が合った。
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