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トラヴェエ王太子の責務と恋
□兄からの呼び出し3
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「お、丁度時間だね。どうぞ。」
兄はぽつりと呟くと、机の上の決裁済みの書類の束を取り扉の向こうへ声をかけると、カチャリと扉が開き、兄の部下が数名入ってくる。兄は書類を手渡しながら何やら小声で話し込んでいたが、やがて暫くすると部下は退出し扉が締まると、兄はくるりとこちらに向き直りニッコリと笑顔を作った。
「さて、そろそろお茶にしようか。」
兄に促され私が来客スペースに目を移すと、先程まではテーブルに何も無かったはずなのに、すっかりお茶の用意が出来ていた。
もしかして、先程までの大惨事は全て最初から計算済みで、めんどくさい書類の仕分けとやらをだだ私に押し付けたかっただけなのではないかと疑問が浮かぶ。
あまりのタイミングの良さに吃驚しながら、チラリと横目で兄を見るとすました笑顔をしている。
あ、確信犯だな、これ。
そう、兄はこういう強かな男なのだ。まんまと兄の策略に乗ってしまいむくれる私を、兄はニコニコしながら2人掛け用の広いソファに掛けさせた後、自分は向かいの1人掛けソファに腰を掛けると、給仕に手で合図した。
給仕は手早くカップを並べると手際良くお茶を淹れてくれた。
淹れたての紅茶のいい香りに、むくれていた気持ちも次第に落ち着いていく。
兄には腹が立ったがお茶には罪はない、そう割り切ると私はティーカップを手に取ると口に運んだ。
コクリと一口お茶を口に含むと芳醇な香りが鼻を抜け、幸せな気分になる。
ただでさえ、労働の後のお茶は格別に美味しく感じるのに、それを遥かに超えてくるのは、このお茶がとても美味しいからだろう。
うちも公爵家なのでそこそこ良い茶葉を使っているが、流石王城だけあってお茶のランクも一級品でとても美味しかった。
あまりの美味しさにほぅと一息吐くと、今度は目の前のお茶菓子を頬張る。
「んんんっ……美味しいぃ♡」
片手で気軽に食べられるように1口サイズに作られたタルトやジャムが載せられたクッキー、そしてチョコレート。
王城のパティシエの渾身の作品に舌鼓を打っている私を、目の前の兄は目を細めて眺めながらカップのお茶を口に運んでいた。
一通りお菓子を堪能しつつお茶のおかわりをついでもらうと、兄もお代わりのためなのか持っていたティーカップをソーサーに戻した。
そして、そこに給仕がお茶を注ぐと兄はまたカップを手に取り口に運ぶ。
流石は公爵家嫡男、その姿はとても様になっていて流れる所作は完璧で、兄妹でなければ見蕩れてしまう程だ。
見た目は麗しいけれど中身がな……そう思ってしまった私は悪くないと思う。
そんな私の思いとは裏腹に、兄は優雅にティーカップを置くと、ニッコリ綺麗な笑顔を向けてこう言った。
「さて、本日呼び出した本題に入ろうか。」
さて、じゃない。まだ何かあるのか、こんなのレターセット如きではどう考えても割に合わないではないか。
私はじっとりとした視線を兄に向けるが、どこ吹く風な兄は綺麗な笑顔を崩さず、一方的に話を進めた。
「実は、来月のヒューの生誕祭に合わせて、隣国ハイデリガの第一王女殿下を城に招くことになったんだけど、そこで、歳も近いリーナに王女殿下の相手を頼みたいと思ってね。」
「相手…ですか?」
「そう。あ、だけど、難しく考えなくて大丈夫だよ。滞在期間中にお茶や話の相手になってくれたらいいだけだから。」
なんだ、それくらいなら私にも務まりそうだ。引き受けるのは吝かではないのだが、例年ではハイデリガ王太子殿下が来賓として招かれていたはず。今年は変わったのだろうか、私は率直に兄に訊ねてみる事にした。
「まぁ、それでしたら私にも務まりそうですけど……王女殿下はヒュー兄様の生誕祭へ来賓として招かれるのですか?確か、昨年まではハイデリガの王太子殿下が来られていたかと思うのですが…ご一緒に来られるのですか?」
「あぁ、それなんだが……今年は王太子殿下は来られずに王女殿下が招かれることになったんだよ。なんでも少し早めの入国になるそうで、10日後には到着されるとの事だから、お前もそのつもりで準備をしておけよ?」
「10日後ですか?それは…また急なお越しですね。」
「まぁ、そうだな。急で悪いが、よろしく頼むよ。「
「そういうことでしたら、分かりました。誠心誠意お世話させていただきます。でも、何故今回は王女殿下なのですか?」
ふと疑問に思った事を兄に尋ねると、兄は眉根を寄せて少し困ったような顔をして言い淀んだ。
「う~ん……それは、まぁ、おいおいわかるとして……頼りにしてるよ、妹殿。くれぐれも、いつものお転婆は隠しておいてくれると助かる!」
「もう!ジュー兄様ったら!お転婆は余計です!」
兄の軽口に思わず手近にあったクッションを掴み、兄に向かって投げると見事に顔面にあたる。
兄は顔からクッションを外しながら、そういうところがお転婆なんだよ、といい苦笑した。
その後は他愛ないの会話をしながらお茶とお菓子を楽しんで、政務の残る兄を置いて私は兄の執務室後にした。
さっきの話だが、何だか核心をはぐらかされたような気がしたが、おいおいわかると言うことだから今は気にしないでおこう。
兄の執務室の扉を出て帰宅しようと階段の方へ向かう際に隣のヒュー兄様の執務室が目に入った。
登城したのだからご挨拶にいかないと後で兄がどやされて、ネチネチと五月蝿そうだしご挨拶に行っておくか、と階段に踵を返してヒュー兄様の執務室向かった。
兄の執務室を通り過ぎヒュー兄様の執務室の前まで行くと、扉の前の衛兵に訪問を告げ、取次をお願いしたが生憎ヒュー兄様は国王陛下へ謁見の為、昼過ぎに執務室を後にしてまだ戻っていないとのこと。
チラリと時計を見ると、そろそろ政務が終わる頃。思ったよりも長居をしてしまったようで、もう城下町に立ち寄る時間は無さそうだな、と遠い目になる。
今の時間的にもこのままヒュー兄様も執務室には戻ることは無さそうなので、衛兵にお礼を伝えると私は王宮のヒュー兄様の私室へ向かうことにした。
兄はぽつりと呟くと、机の上の決裁済みの書類の束を取り扉の向こうへ声をかけると、カチャリと扉が開き、兄の部下が数名入ってくる。兄は書類を手渡しながら何やら小声で話し込んでいたが、やがて暫くすると部下は退出し扉が締まると、兄はくるりとこちらに向き直りニッコリと笑顔を作った。
「さて、そろそろお茶にしようか。」
兄に促され私が来客スペースに目を移すと、先程まではテーブルに何も無かったはずなのに、すっかりお茶の用意が出来ていた。
もしかして、先程までの大惨事は全て最初から計算済みで、めんどくさい書類の仕分けとやらをだだ私に押し付けたかっただけなのではないかと疑問が浮かぶ。
あまりのタイミングの良さに吃驚しながら、チラリと横目で兄を見るとすました笑顔をしている。
あ、確信犯だな、これ。
そう、兄はこういう強かな男なのだ。まんまと兄の策略に乗ってしまいむくれる私を、兄はニコニコしながら2人掛け用の広いソファに掛けさせた後、自分は向かいの1人掛けソファに腰を掛けると、給仕に手で合図した。
給仕は手早くカップを並べると手際良くお茶を淹れてくれた。
淹れたての紅茶のいい香りに、むくれていた気持ちも次第に落ち着いていく。
兄には腹が立ったがお茶には罪はない、そう割り切ると私はティーカップを手に取ると口に運んだ。
コクリと一口お茶を口に含むと芳醇な香りが鼻を抜け、幸せな気分になる。
ただでさえ、労働の後のお茶は格別に美味しく感じるのに、それを遥かに超えてくるのは、このお茶がとても美味しいからだろう。
うちも公爵家なのでそこそこ良い茶葉を使っているが、流石王城だけあってお茶のランクも一級品でとても美味しかった。
あまりの美味しさにほぅと一息吐くと、今度は目の前のお茶菓子を頬張る。
「んんんっ……美味しいぃ♡」
片手で気軽に食べられるように1口サイズに作られたタルトやジャムが載せられたクッキー、そしてチョコレート。
王城のパティシエの渾身の作品に舌鼓を打っている私を、目の前の兄は目を細めて眺めながらカップのお茶を口に運んでいた。
一通りお菓子を堪能しつつお茶のおかわりをついでもらうと、兄もお代わりのためなのか持っていたティーカップをソーサーに戻した。
そして、そこに給仕がお茶を注ぐと兄はまたカップを手に取り口に運ぶ。
流石は公爵家嫡男、その姿はとても様になっていて流れる所作は完璧で、兄妹でなければ見蕩れてしまう程だ。
見た目は麗しいけれど中身がな……そう思ってしまった私は悪くないと思う。
そんな私の思いとは裏腹に、兄は優雅にティーカップを置くと、ニッコリ綺麗な笑顔を向けてこう言った。
「さて、本日呼び出した本題に入ろうか。」
さて、じゃない。まだ何かあるのか、こんなのレターセット如きではどう考えても割に合わないではないか。
私はじっとりとした視線を兄に向けるが、どこ吹く風な兄は綺麗な笑顔を崩さず、一方的に話を進めた。
「実は、来月のヒューの生誕祭に合わせて、隣国ハイデリガの第一王女殿下を城に招くことになったんだけど、そこで、歳も近いリーナに王女殿下の相手を頼みたいと思ってね。」
「相手…ですか?」
「そう。あ、だけど、難しく考えなくて大丈夫だよ。滞在期間中にお茶や話の相手になってくれたらいいだけだから。」
なんだ、それくらいなら私にも務まりそうだ。引き受けるのは吝かではないのだが、例年ではハイデリガ王太子殿下が来賓として招かれていたはず。今年は変わったのだろうか、私は率直に兄に訊ねてみる事にした。
「まぁ、それでしたら私にも務まりそうですけど……王女殿下はヒュー兄様の生誕祭へ来賓として招かれるのですか?確か、昨年まではハイデリガの王太子殿下が来られていたかと思うのですが…ご一緒に来られるのですか?」
「あぁ、それなんだが……今年は王太子殿下は来られずに王女殿下が招かれることになったんだよ。なんでも少し早めの入国になるそうで、10日後には到着されるとの事だから、お前もそのつもりで準備をしておけよ?」
「10日後ですか?それは…また急なお越しですね。」
「まぁ、そうだな。急で悪いが、よろしく頼むよ。「
「そういうことでしたら、分かりました。誠心誠意お世話させていただきます。でも、何故今回は王女殿下なのですか?」
ふと疑問に思った事を兄に尋ねると、兄は眉根を寄せて少し困ったような顔をして言い淀んだ。
「う~ん……それは、まぁ、おいおいわかるとして……頼りにしてるよ、妹殿。くれぐれも、いつものお転婆は隠しておいてくれると助かる!」
「もう!ジュー兄様ったら!お転婆は余計です!」
兄の軽口に思わず手近にあったクッションを掴み、兄に向かって投げると見事に顔面にあたる。
兄は顔からクッションを外しながら、そういうところがお転婆なんだよ、といい苦笑した。
その後は他愛ないの会話をしながらお茶とお菓子を楽しんで、政務の残る兄を置いて私は兄の執務室後にした。
さっきの話だが、何だか核心をはぐらかされたような気がしたが、おいおいわかると言うことだから今は気にしないでおこう。
兄の執務室の扉を出て帰宅しようと階段の方へ向かう際に隣のヒュー兄様の執務室が目に入った。
登城したのだからご挨拶にいかないと後で兄がどやされて、ネチネチと五月蝿そうだしご挨拶に行っておくか、と階段に踵を返してヒュー兄様の執務室向かった。
兄の執務室を通り過ぎヒュー兄様の執務室の前まで行くと、扉の前の衛兵に訪問を告げ、取次をお願いしたが生憎ヒュー兄様は国王陛下へ謁見の為、昼過ぎに執務室を後にしてまだ戻っていないとのこと。
チラリと時計を見ると、そろそろ政務が終わる頃。思ったよりも長居をしてしまったようで、もう城下町に立ち寄る時間は無さそうだな、と遠い目になる。
今の時間的にもこのままヒュー兄様も執務室には戻ることは無さそうなので、衛兵にお礼を伝えると私は王宮のヒュー兄様の私室へ向かうことにした。
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