11 / 31
トラヴェエ王太子の責務と恋
□ヒューゴの私室にて
しおりを挟む途中、思わぬアルベールとの邂逅があり、すっかり遅くなってしまい、少々焦りながら歩を進めた。
自分なりに急いで来きたのだが、ヒュー兄様の私室前に到着した時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
こんなに遅くなるとは思っていなかったので、ついここまで来てしまったが、よく考えたらヒュー兄様だってお疲れだろうこれは挨拶そこそこに帰宅しようと決めた。
こんなに遅くに訪ねるのは失礼に値するかなと思いながら、衛兵にはその旨を伝えて訪問を伝える。
「アイリーン様、お気になさらなくても殿下なら大丈夫ですよ。」
何が大丈夫なのかよく分からないけれど、衛兵はそう言って私を私室の前の控えの間に通してくれた。
通されてすぐ、侍女がティーセットを用意してくれた。
私室の前室である控えの間は、広々として応接セットもありここでプライベートな来客をもてなしたり出来るようになっていて、私も幼い頃はよくここで読書などをしていたなぁと懐かしい気持ちになった。
「では、我々はここで失礼いたします。どうぞ、殿下とごゆっくりとお過ごしください。」
私がカウチに腰掛けると、衛兵はにっこりと笑顔でそう言い恭しく礼をして退室していった。
「さてと。」
のんびりとお茶を飲んでいると、何か忘れているような気がしてきた。
そういえば、先程の衛兵は私室の方へ声掛けしていただろうか……
あれ?そのまま退出してた…という事は声掛けしていなかったよね?
どうやら、これは私が自分でヒュー兄様を呼び出さないといけないという事のようなので、私は持っていたカップをソーサーに置くと、私室の扉前まで行きコンコンとノックをした。
暫く待ってみたが返事はない。
アルベールもヒュー兄様は私室だといっていたし、衛兵に確認したら私室にいることは間違いないとのことなので、もしかしたらお疲れで寝てしまったのかもしれないな、と思った。
補佐官である兄ですら、あの政務の量なのだ。王太子である彼の政務の量を考えると、疲れて寝てしまっていることも納得できる。
念の為、何度かノックをしてみたが悉くなしの礫。
衛兵に状況を伝えると、相当お疲れのご様子だったようで、このまま朝まで目覚めない可能性もあるかもしれないと、申し訳無さそうに衛兵に告げられたので、私は少し考えて今日は下城することにした。
衛兵にお礼と下城の旨を伝えて控えの間を出ようとした時、私室内から人を呼ぶ声が聞こえた。
「お目覚めになられたようですね。」
衛兵はそう言うと私室の扉を開き、どうぞ、と入室を促してくれたので、私は恐る恐る扉の向こうの私室を覗き込むと、部屋の中は灯りは点いておらず真っ暗だったので、やはり寝ていたのだろう。
ヒュー兄様の私室は二間で、手前が机や書棚、テーブルセットのある生活スペースで、奥がベッドルームだ。
奥のベッドルームでゆらりと人影が揺れた。
「…えっ、リーナ?何故ここに…」
ようやく絞り出したヒュー兄様の声は震えていた。
ベッドルームからこちらに向かってくるヒュー兄様の表情は暗くてよく見えないが、声には明らかに戸惑いの色が浮かんでいた。ヒュー兄様がベッドルームから手前の部屋に出てくると同時に部屋に灯りが灯る。
それを合図に、私はヒュー兄様の前まで足早に進んだ。
「ヒュー兄様、おはようございます。ようやくお目覚めですか?」
私はいつものように下からヒュー兄様の顔を覗き込んだ。
すると、ヒュー兄様のシルバーの切れ長の瞳が一瞬大きくなり震えたように見えた。
遠目にはわからなかったが近くまでやってくると、いつもは綺麗に着こなしている服が乱れていることに気が付く。表情も硬く、顔色も蒼白で心做しか疲れているように見受けられた。
いつものヒュー兄様なら、見上げると優しく笑いかけてくれるのに今日は硬い表情のまま…もちろん目は笑っていない。
どうしたのだろうと、不安感に襲われ、もう一度ヒュー兄様の瞳を見上げるとふいと目を逸らされた。
「…あ、あぁ。少し眠っていたようだ…。リーナ、どうしてここに?」
目を逸らされたことに、少しムッとした私はヒュー兄様を睨め付ける。
「リーナ、こっちにおいで」
ヒュー兄様に手を引かれカウチに移動すると、掛けるように促される。しかし、腹の虫がおさまらない私は、不思議そうにしているヒュー兄様から視線を逸らさないまま、先程の質問に対する回答を一気に矢継ぎ早に捲し立てた。
兄のジュストに用事を頼まれたこと
ヒュー兄様の執務室に行ったけどいなかったからこちらにきたこと
何度もノックしたのに出てこなかったからそろそろ屋敷へ帰ろうと思っていたこと
一通り言い終わってひと息つくと、ヒュー兄様がぽかんとした表情をしていた。
そして、先程目を逸らされた事への仕返しのつもりで、今度は私がふいっとヒュー兄様から視線を逸らした。
すると、ヒュー兄様は困ったような苦笑を零して笑顔を浮かべると、私の機嫌をとるように頭を撫で始めた。
昔からそうだ、ヒュー兄様は私が不貞腐れると気が済むまで優しく頭を撫でてくれる。そして、今日も何度も宥めるかのように撫でている。
最初は今日こそ絆されてなるものか!と意気込んでいたものの、撫でる手の心地良さに段々と毒気が抜かれ、最後にはううっとりと目を瞑ってしまう。
心地良さに身を委ねてしばらくすると、ヒュー兄様の手つきが最初のものと違い、だんだんと熱を帯びはじめてきた。手つきが宥めるというよりも、もっと欲を含んだようなそんな触れ方に変わっていき、いつもと違う感覚に擽ったいようなそうでもないような…変な気分になってくる。
このままでは危ない、そう私の頭が告げてきて、私はとっさに制止の意味を込めてフルフルと首を振ると、その様子にヒュー兄様は、はっとした表情をした後苦しそうな笑顔を見せた。
その苦しそうな表情にちくんと胸が痛む。
いささかやりすぎてしまったかと思い、ヒュー兄様の瞳を覗き込んだが、苦しそうな色は消えていなかった。
もしかしたら、私があまり可愛くないことばかり言うから悲しませてしまったのかもしれないと、申し訳無さと共に不安感が襲ってきた。
未だ苦しそうなヒュー兄様を見て、意地を張らずに素直に気持ちを伝えればよかったと後悔し始めた私は少しばかり素直になって会えて嬉しい、と素直に気持ちを伝えて笑顔をつくった。
次の瞬間、ドンという衝撃と共に視界が何か真っ白なもので遮られていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる