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第9話 ヴィクトリア•フランケンシュタインの調査報告書
しおりを挟むその日、生徒会室では真壁含め生徒会役員一同が勢ぞろいしていた。
「みんな! 集まったみたいだね!」
「お主が大事な話があるから集まってほしいと言うたではないか」
ヴェルフェが仁王立ちするヴィクトリアにそうこぼす。
「まあまあ。魔鉱石についてこれまでわかったことをまとめておこうと思ってね。まずはこれを見てよ」
そう言うなりポケットから取り出したのは小粒の魔鉱石だ。
「これが最初にボクの実験室にあったやつね。で、こっちがリリアの部屋から見つけたものだよ☆」
反対側のポケットから魔鉱石を取り出してテーブルに並べる。
「最後にこれが植物園で見つかったやつね」
卓上には合わせて三つの魔鉱石が淡い光を放ちながら一列に並んでいた。
「これがどうしたというのでしょうか? なにも変わらないように見えますが……」
「これであわせて18%ネ」
リリアとテンが同時に発する。そんなふたりにヴィクトリアがちっちっちと指を振る。
「こないだたまたま発見したんだけど、まぁ百聞は一見にしかず。実際に見たほうが早いよっ」
そう言うと一番小さい魔鉱石――すなわち実験室で見つかったそれをリリアの部屋で見つかった石に近づける。
すると、淡い光がだんだん強くなったかと思うと磁石のようにくっついた。
目の前で起きた光景に一同がざわつく。
「ね? こんな感じでくっついて同化するってワケ☆」
えっへんと胸をそらす。
「スゴイのはわかったけど、それが何になるってんだ? ヴィックさんや」
「ちっちっち。まだわからないのかい? イタルくん」
ヴィクトリアにそう言われ、真壁がムッとする。
「もったいぶらずに言えよ」
「実はこの性質を利用して発明したんだな。これが」
じゃーんと言って取り出したのは黒いスティック状のものだ。先端には何かをはめ込むようになっている。
「あ、もしかしてそれって魔鉱石を探す道具ですか?」
リリアがぱんっと両手を叩きながら。
「ご明答☆ 魔鉱石の探知機だよ! ここの先端に魔鉱石を取付けて近くに石があれば反応するってワケ」
試しにと魔鉱石をはめ込んで、最後に残った石に近づけると、共鳴するかのように強い光を放ちながら音が鳴る。
「どうやらこの石には近くに石があると共鳴する性質があるみたいなんだ」
「スゲーな! これなら近くにあれば音でわかるわけか!」
「共鳴音ってやつだよっ。このスティックに内蔵されている回路と魔鉱石の共鳴を利用して電圧を上げることによって――」
いつものように解説を始めようとするとヴェルフェがもうよいと止める。
「これで真壁が元の世界に帰れる可能性が高まったというわけじゃな」
うむうむと頷く生徒会長の横でぱちぱちと珠を弾かせる音。言うまでもなくテンだ。
「ワタシの計算によれば、これで21%生還の可能性がアップしたヨ」
「よっしゃ! あとはこれを使ってそこらへんを探して」
逸る真壁にヴィクトリアが「まあまあ」と抑える。
「やみくもに探したらそれこそ時間のムダだよ。これを見てほしいんだ」
そう言うと丸めた紙を取り出し、それをテーブルの上に広げた。どうやら地図のようだ。
「これは学園の周辺地図のようじゃな」
「そう! で、ここがボクの実験室があるところね」
人差し指で学園の自分の部屋を指さす。そしてそのままつつと這わせる。
「ここがリリアの部屋ね。でもって――」
指はリリアの部屋から学園の外へと出、ある建物で止まる。
「もしかして植物園でしょうか……?」
リリアが細い指を顎にあてがいながら。
「うん! これを見てなにか感じない?」
しばらくしてから真壁が「あ」と声を上げた。
「もしかして、魔鉱石が大きければ大きいほど遠くにあるってことか?」
「ピンポーン! 大正解☆ あくまで仮説だけど、どうやら魔鉱石の持つ魔力に比例して飛距離が変わるみたいなんだ。これを魔力保存の法則って言うんだけど――」
さらに説明をしようとする彼女を会長が「もうよい」と遮る。
「ということはじゃ。魔鉱石を探すためには学園の外へ出なければならないというわけじゃな?」
「うん。それはそうなんだけど、もしかしたら飛散している途中で分解してどこかに落ちてる可能性もあるよ」
ふぅむとヴェルフェが地図に目を落としていると、テンが勢いよく挙手した。
「ワタシ、ちょっと確かめたいことあるネ」
どこからともなく三角定規とコンパスを取り出す。そして地図上にピタリと定規を押し当てる。
「実験室からリリアの部屋まで直線距離でだいたい五メートルだヨ」
「一階のヴィクトリアさんの部屋と二階にある私の部屋はそんなに離れていませんからね」
「で、リリアの部屋から植物園までがだいたい100メートルと」
テンとヴィクトリアのふたりによって距離が測られていく。
「この地図だと範囲が狭いネ。世界地図を持ってくるがヨロシ」
「わかった!」
ヴィクトリアが棚から世界地図を取り出してテーブルに広げていく。
学園の外に広がる大陸や海が描かれたものだ。
テンがコンパスを取り出し、定規で距離を測ったあとに地図上でくるりと円を描いていく。
「これがだいたいの範囲ネ」
「マジかよ……こんな広範囲を探せっていうのか……?」
その途方もない範囲に真壁がごくりと唾を飲み込む。
「まあまあ。あくまで仮説だからね。もしかしたら実際にはバラバラになってそんな遠くまで飛んでないのかもしれないし」
「うむ……」
ヴェルフェが細い指を顎にあてがいながら考える。
「今のところ、魔鉱石に関する手がかりはないし、かといってやみくもに探すのもヴィクトリアの言うとおり、時間のムダになるじゃろうし……」
ぶつぶつとひとり言をこぼしたかと思うと、意を決したように「よし!」と頷いた。
「学園内の手がかりと同時に学園外の情報も集めよう!」
「しかし……そうは言ってもこんなだだっ広い範囲で手がかりが手に入るもんなのか?」
「忘れたのか? 真壁よ」
ヴェルフェが玉座を模した椅子の上に立ち上がる。
「わしは魔王の娘であるぞ。当然わしの父は魔界を統べる魔王じゃ。大陸内外の手がかりをひとつ残さずかき集めてみせるわ」
薄い胸の前で両手を組みながらふふんと鼻を鳴らす。その周りで役員一同がぱちぱちと拍手を。
「おお……! まるで生徒会長みてーだな!」
「みたいじゃなくて実際に生徒会長じゃ! わしは!」
ぎゃあぎゃあと抗議するヴェルフェを無視して、真壁はふたたび世界地図に目を落とす。
テンが示してくれた、魔鉱石があるであろう円の中をじっと見つめる。
それは魔鉱石をすべて集めて、そして必ず元の世界に帰る決意を新たにするかのように――――。
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