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第1話 BOY MEETS SISTER
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それは8月らしい蒸し暑い日だった。太陽により、じりじりと照らされるアスファルトで舗装された道路から外れた路地にて、都内の高校に通う高校2年生の安藤次郎は三人の不良組に絡まれていた。
「ですからぁ、ホントにお金持ってないんですよ……」と今にも泣きそうな顔で安藤が言う。
不良組のひとり、スキンヘッドの男が勢いよく壁に手を付ける。暴力的な壁ドンだ。
「だからよぉ! それを確かめるためにサイフ出せってんだろーが!」
「ちょっとジャンプしてみろよ。小銭くらいあんだろ? このヤロー」とモヒカン頭がけしかける。
「さっさと金目のもの出したほうが身のためでげす」と腰巾着と思しき小柄な男がけけけと笑う。
安藤はぎゅっと歯噛みし、胸に抱えている通学カバンにぎゅっと力を込める。
次の瞬間には安藤は全速力でその場から逃げ出していた。後ろから不良組の「待ちやがれ!」の怒鳴り声が後を追う。
――――どのくらい逃げただろう? まいたのか、不良組は後を追ってきていない。
安藤ははぁはぁと肩で息をする。
ここまで来ればひと安心だ……。
だが遠くから聞こえる足音と罵声でひとたび現実に戻る。どこか隠れるところはないかとあたりを見回す。だがコンクリートの壁や空き地のみで隠れられそうなところはなかった。あるとすれば目の前の木造の扉のみ……。
ままよ! と安藤は扉を開けてすばやく中へと飛び込む。扉の後ろで足音が遠ざかるのが聞こえた。
やり過ごせたことに安藤はふたたびほっと胸をなで下ろす。そして顔をあげてふぅっとひと息つく。
「ここは……」
あたりを見回すと左右に縦一列に並んだ長椅子、その真ん中は長い絨毯が敷かれ、その先には祭壇が、見上げると壁に金色に輝く十字架が掛けられていた。その左右の窓から暖かい光が差し込んでいる。
教会に入るのって、初めてだ……。
興味津々な安藤は奥へと進む。がらんとして誰もいない教会は不思議と心を落ち着かせてくれる。
ふと、長椅子のひとつに目をやる。そこには黒の修道服に身を包んだ、すらりとした体の少女が横たわっていた。
誰もいないと思っていたので安藤はぎょっとする。
よく見るとその少女は腰まで長く伸びた金髪をしており、頭には黒のヴェール、目にはアイマスクが、耳には音楽を聴いているのかイヤホンを装着している。
……シスター? でもなんでここに……。
気配を感じたのか、少女がアイマスクを取ってこちらを見る。
「んー……なによぉ、お昼寝してたのに……」
ふわぁっとあくびをひとつしてむくりと起きる。
「……めずらしいわね。こんな時間に参拝者なんて……」耳からイヤホンを抜いてふたたびふわぁっとあくび。
「で? なんの用なの?」
「へ? あ、いやその……」
なんて言おう? 不良に追いかけられてここに隠れてましたと言おうとした時、安藤はあらためて少女の顔を見る。年は自分と同じか近いほうだろう。
金髪で目が青くて、まるで人形みたいだ……。
少女の手がぽんと安藤の肩に置かれたのではっと我に返る。
「迷える子羊よ。よくいらっしゃいました」
「……は?」
「なにかお悩みのご様子。私でよければ聞きましょう」
流暢な日本語で少女がそう言う。
「あ、や、実は不良にからまれて、それで無我夢中で逃げてここに……」
ふむふむと少女がうなずく。
「なるほど、お話はよくわかりました」
そう言うと少女は両手を組んで目を閉じる。
「祈りなさい。神は信ずる者に救いの手を差し伸べます。それと」
閉じた目を開いて安藤の顔を見る。
「少しばかりの寄付を……」
「あ、すみません。いま手持ちがなくて……」
「………………はぁ?」
少女の清廉な顔つきが一気に険しくなった。そしてそのまま長椅子にどさりと倒れたかと思えば足をばたばたさせる。
「は? 今どき手持ちがないなんてマジありえないんですけど!? ひさしぶりに寄付金ふんだくれると思ったのによぉおお!」
少女の絶叫が礼拝堂に木霊する。
いや寄付金ふんだくるって不良と変わらないだろ!
そう突っ込みたくなるのを堪え、安藤は目の前で相変わらず駄々っ子のようにごねる少女のシスターをきっと見据える。
「いい加減にしてください! だいいちあなたシスターでしょう? 困っているひとを助けるのが役目でしょう!?」
今度は少女が安藤をきっと見据える番だ。
「そう言ったってあたし、まだ見習いだもん!」
「見習いでもシスターはシスターでしょう!」
「あたしシスターになんかなりたくないし! 先祖代々から受け継がれてるからってだけで無理やり神学校に通わされてだけだし!」
「先祖代々……?」
「お? 興味もった?」
少女が半身を起こして安藤の顔をまじまじと見、そして「んふふ」と笑うとすっくと立ちあがって祭壇の前へと進む。
「そこまで興味津々ならしょーがないな」
「や、別にそこまででは」
だが、少女は無視して続ける。
「いい? あたしの名はねぇ、フランチェスカよ。フランチェスカ・ザビエル!」
ふんすっと胸をそらして言う。
「え、ザビエル? ザビエルって……まさか、
あのフランシスコ・ザビエル!? てことはポルトガル人?」
「そう! そのまさかよ! で、あたしがそのザビエル家の末裔ってワケ。あと、ポルトガル人じゃなくてスペイン人ね」
そう言うとフランチェスカは歴史の教科書でお馴染みのあの胸に両手を添えるポーズを取ってみせた。
「はぁ……そうですか」
「リアクション薄いわね。ま、いいわ。寄付金ないんだったら帰った帰った」
しっしっと追い払いながらアイマスクを着けると自称ザビエル家の末裔の少女はどさりと長椅子に寝そべると、たちまちくかーと寝息を立て始めた。
なんて破天荒なシスターなんだ……いや見習いシスターだったか。
寄付金ふんだくるなんて聖職者にあるまじき言葉を口にするフランチェスカを見下ろしながら安藤ははぁっと溜息をつく。
ふと礼拝堂を見回す。あらためて見ると年季が経っているように見える。十字架はところどころ錆が出ているし、壁もくすんだ色をしている。
素人目に見ても改装が必要なのは一目で見て取れた。察するにこの少女は修繕代が欲しいのだろう。
だが、ない袖は振れない。長居しては悪いと思い、その場を去ることにした。
「……お邪魔しました。失礼します」
ぺこりと頭を下げると、フランチェスカが「はいはい」とでも言うように手をひらひらと振る。
出入り口へ向かおうとしたとき、扉が勢いよく開かれた。
「みぃ~つけた♡」
スキンヘッドが口の端を歪めながら礼拝堂へのしのしと入ってくる。
「さんざん探したぜぇ」
「隠れるならここしかないでげすからねぇ」
あとのふたりも遠慮なく入ってきたので安藤は思わずたじろぐ。
「うっさいわねぇ……まったく次から次へと……」
フランチェスカがむくりと起きる。目の前では安藤がスキンヘッドに襟元を掴まれていた。
「なめたマネしやがってよぉ。覚悟は出来てんだろーな?」
安藤の通学カバンが手からぽろりと落ち、中身がこぼれる。
「ん?」
モヒカンがなにかを拾いあげる。どうやらゲームソフトらしい。
「お、おい! こりゃ限定品の『ドラゴンハンター』じゃねぇか!」
「しかもレアアイテム入手コード特典付きのやつでげす!」
不良たちがわいわいと盛り上がる。スキンヘッドが安藤を掴んでいた手を離すとゲームソフトをひったくる。
「金はいらねぇ。そのかわりこれで見逃してやる」
「そ、それは……」
ずっとお小遣いをためて、やっと買えたのに……!
「お待ちなさい」凜とした声が響く。
「ああ?」不良たちがぐるりと首をめぐらす。
フランチェスカが胸の前で両手を組みながら立っていた。
「神の御前で盗みを働いてはいけません。天罰がくだりますよ」
不良たちが互いを見る。そして下卑た笑い声をあげる。
「神さまなんているわけねぇーだろが」そう言ったスキンヘッドがフランチェスカのところまで歩くと屈んでへっと笑う。
「よく見りゃカワイイじゃねぇか。俺たちと遊ぼうぜ。こんなチンケなところじゃなくてもっと良いところでな」ぺちぺちと見習いシスターの左の頬を叩く。後ろでまた下卑た笑い声があがる。
「……神はおっしゃいました。左の頬をぶたれたら、右の頬を……」
「あん? セッキョーか?」
次の瞬間、スキンヘッドが床にくずれた。フランチェスカの鋭い右フックがスキンヘッドの左頬を的確に捉えたのだ。
「左フックで殴り返せと! あれ、右の頬をぶたれたらだっけ? ま、どっちでもいいや」
モヒカンと小柄な巾着持ちがたじろぐ。当然だ。体の細い少女が一発で大男を倒したのだから。
だがこのままおめおめと引き下がっては不良としての沽券に関わる。ましてや相手は少女なのだ。
「てめぇ!」
モヒカンが拳を振り上げながら襲いかかったのでフランチェスカがスペイン語で毒づく。
そして見習いシスターの革靴の爪先がモヒカンの顎下にめり込んだ。これもまた床にどうっと倒れる。
最後に残った巾着持ちが「ひぃい」と情けない声を出しながらへたり込む。
フランチェスカがスカートをぱんぱんと埃をはたく。
「さっそく天罰がくだりましたね」とにこりと微笑む。
「いや、あなたが直接手をくだしたんでしょ!」
安藤のツッコミが礼拝堂に響いた。
「「「すんませんっしたぁあああ!!」」」
不良一同が手本となるような最敬礼のお辞儀をするとそのまま教会から逃げ出した。
「神よ。どうかあの罪人たちに慈悲を……」アーメンと胸に十字を切る。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございました!」
安藤がぺこりと頭を下げる。
「よいのです。それよりも」
フランチェスカがゲームソフトを拾いあげる。
「これ貸して」
「は?」
「だってこのゲームやりたかったし、あとちょっとで寄付金がたまるからそれで買おうと思ってたから、ちょうどいいタイミングね」
「人の善意をなんだと思ってるんすか!? アナタは!」
「ぶー」とフランチェスカがふて腐れたかと思えば、いきなり「あー!」と声をあげる。
「さっきの不良たちから寄付金巻き上げるの忘れてた!」
「アンタそれでも聖職者か!」
安藤に突っ込まれたフランチェスカがふふんと笑うとばっと両手を広げる。
「この教会では見習いと言えどもシスターは私のみ! よってここでは私が正義!」
そしてすぅっと息を吸う。
「我は道なり!(ヨハネ伝第14章)」
これが安藤と破天荒で型破りな見習いシスター、フランチェスカとの出会いであった。
「ですからぁ、ホントにお金持ってないんですよ……」と今にも泣きそうな顔で安藤が言う。
不良組のひとり、スキンヘッドの男が勢いよく壁に手を付ける。暴力的な壁ドンだ。
「だからよぉ! それを確かめるためにサイフ出せってんだろーが!」
「ちょっとジャンプしてみろよ。小銭くらいあんだろ? このヤロー」とモヒカン頭がけしかける。
「さっさと金目のもの出したほうが身のためでげす」と腰巾着と思しき小柄な男がけけけと笑う。
安藤はぎゅっと歯噛みし、胸に抱えている通学カバンにぎゅっと力を込める。
次の瞬間には安藤は全速力でその場から逃げ出していた。後ろから不良組の「待ちやがれ!」の怒鳴り声が後を追う。
――――どのくらい逃げただろう? まいたのか、不良組は後を追ってきていない。
安藤ははぁはぁと肩で息をする。
ここまで来ればひと安心だ……。
だが遠くから聞こえる足音と罵声でひとたび現実に戻る。どこか隠れるところはないかとあたりを見回す。だがコンクリートの壁や空き地のみで隠れられそうなところはなかった。あるとすれば目の前の木造の扉のみ……。
ままよ! と安藤は扉を開けてすばやく中へと飛び込む。扉の後ろで足音が遠ざかるのが聞こえた。
やり過ごせたことに安藤はふたたびほっと胸をなで下ろす。そして顔をあげてふぅっとひと息つく。
「ここは……」
あたりを見回すと左右に縦一列に並んだ長椅子、その真ん中は長い絨毯が敷かれ、その先には祭壇が、見上げると壁に金色に輝く十字架が掛けられていた。その左右の窓から暖かい光が差し込んでいる。
教会に入るのって、初めてだ……。
興味津々な安藤は奥へと進む。がらんとして誰もいない教会は不思議と心を落ち着かせてくれる。
ふと、長椅子のひとつに目をやる。そこには黒の修道服に身を包んだ、すらりとした体の少女が横たわっていた。
誰もいないと思っていたので安藤はぎょっとする。
よく見るとその少女は腰まで長く伸びた金髪をしており、頭には黒のヴェール、目にはアイマスクが、耳には音楽を聴いているのかイヤホンを装着している。
……シスター? でもなんでここに……。
気配を感じたのか、少女がアイマスクを取ってこちらを見る。
「んー……なによぉ、お昼寝してたのに……」
ふわぁっとあくびをひとつしてむくりと起きる。
「……めずらしいわね。こんな時間に参拝者なんて……」耳からイヤホンを抜いてふたたびふわぁっとあくび。
「で? なんの用なの?」
「へ? あ、いやその……」
なんて言おう? 不良に追いかけられてここに隠れてましたと言おうとした時、安藤はあらためて少女の顔を見る。年は自分と同じか近いほうだろう。
金髪で目が青くて、まるで人形みたいだ……。
少女の手がぽんと安藤の肩に置かれたのではっと我に返る。
「迷える子羊よ。よくいらっしゃいました」
「……は?」
「なにかお悩みのご様子。私でよければ聞きましょう」
流暢な日本語で少女がそう言う。
「あ、や、実は不良にからまれて、それで無我夢中で逃げてここに……」
ふむふむと少女がうなずく。
「なるほど、お話はよくわかりました」
そう言うと少女は両手を組んで目を閉じる。
「祈りなさい。神は信ずる者に救いの手を差し伸べます。それと」
閉じた目を開いて安藤の顔を見る。
「少しばかりの寄付を……」
「あ、すみません。いま手持ちがなくて……」
「………………はぁ?」
少女の清廉な顔つきが一気に険しくなった。そしてそのまま長椅子にどさりと倒れたかと思えば足をばたばたさせる。
「は? 今どき手持ちがないなんてマジありえないんですけど!? ひさしぶりに寄付金ふんだくれると思ったのによぉおお!」
少女の絶叫が礼拝堂に木霊する。
いや寄付金ふんだくるって不良と変わらないだろ!
そう突っ込みたくなるのを堪え、安藤は目の前で相変わらず駄々っ子のようにごねる少女のシスターをきっと見据える。
「いい加減にしてください! だいいちあなたシスターでしょう? 困っているひとを助けるのが役目でしょう!?」
今度は少女が安藤をきっと見据える番だ。
「そう言ったってあたし、まだ見習いだもん!」
「見習いでもシスターはシスターでしょう!」
「あたしシスターになんかなりたくないし! 先祖代々から受け継がれてるからってだけで無理やり神学校に通わされてだけだし!」
「先祖代々……?」
「お? 興味もった?」
少女が半身を起こして安藤の顔をまじまじと見、そして「んふふ」と笑うとすっくと立ちあがって祭壇の前へと進む。
「そこまで興味津々ならしょーがないな」
「や、別にそこまででは」
だが、少女は無視して続ける。
「いい? あたしの名はねぇ、フランチェスカよ。フランチェスカ・ザビエル!」
ふんすっと胸をそらして言う。
「え、ザビエル? ザビエルって……まさか、
あのフランシスコ・ザビエル!? てことはポルトガル人?」
「そう! そのまさかよ! で、あたしがそのザビエル家の末裔ってワケ。あと、ポルトガル人じゃなくてスペイン人ね」
そう言うとフランチェスカは歴史の教科書でお馴染みのあの胸に両手を添えるポーズを取ってみせた。
「はぁ……そうですか」
「リアクション薄いわね。ま、いいわ。寄付金ないんだったら帰った帰った」
しっしっと追い払いながらアイマスクを着けると自称ザビエル家の末裔の少女はどさりと長椅子に寝そべると、たちまちくかーと寝息を立て始めた。
なんて破天荒なシスターなんだ……いや見習いシスターだったか。
寄付金ふんだくるなんて聖職者にあるまじき言葉を口にするフランチェスカを見下ろしながら安藤ははぁっと溜息をつく。
ふと礼拝堂を見回す。あらためて見ると年季が経っているように見える。十字架はところどころ錆が出ているし、壁もくすんだ色をしている。
素人目に見ても改装が必要なのは一目で見て取れた。察するにこの少女は修繕代が欲しいのだろう。
だが、ない袖は振れない。長居しては悪いと思い、その場を去ることにした。
「……お邪魔しました。失礼します」
ぺこりと頭を下げると、フランチェスカが「はいはい」とでも言うように手をひらひらと振る。
出入り口へ向かおうとしたとき、扉が勢いよく開かれた。
「みぃ~つけた♡」
スキンヘッドが口の端を歪めながら礼拝堂へのしのしと入ってくる。
「さんざん探したぜぇ」
「隠れるならここしかないでげすからねぇ」
あとのふたりも遠慮なく入ってきたので安藤は思わずたじろぐ。
「うっさいわねぇ……まったく次から次へと……」
フランチェスカがむくりと起きる。目の前では安藤がスキンヘッドに襟元を掴まれていた。
「なめたマネしやがってよぉ。覚悟は出来てんだろーな?」
安藤の通学カバンが手からぽろりと落ち、中身がこぼれる。
「ん?」
モヒカンがなにかを拾いあげる。どうやらゲームソフトらしい。
「お、おい! こりゃ限定品の『ドラゴンハンター』じゃねぇか!」
「しかもレアアイテム入手コード特典付きのやつでげす!」
不良たちがわいわいと盛り上がる。スキンヘッドが安藤を掴んでいた手を離すとゲームソフトをひったくる。
「金はいらねぇ。そのかわりこれで見逃してやる」
「そ、それは……」
ずっとお小遣いをためて、やっと買えたのに……!
「お待ちなさい」凜とした声が響く。
「ああ?」不良たちがぐるりと首をめぐらす。
フランチェスカが胸の前で両手を組みながら立っていた。
「神の御前で盗みを働いてはいけません。天罰がくだりますよ」
不良たちが互いを見る。そして下卑た笑い声をあげる。
「神さまなんているわけねぇーだろが」そう言ったスキンヘッドがフランチェスカのところまで歩くと屈んでへっと笑う。
「よく見りゃカワイイじゃねぇか。俺たちと遊ぼうぜ。こんなチンケなところじゃなくてもっと良いところでな」ぺちぺちと見習いシスターの左の頬を叩く。後ろでまた下卑た笑い声があがる。
「……神はおっしゃいました。左の頬をぶたれたら、右の頬を……」
「あん? セッキョーか?」
次の瞬間、スキンヘッドが床にくずれた。フランチェスカの鋭い右フックがスキンヘッドの左頬を的確に捉えたのだ。
「左フックで殴り返せと! あれ、右の頬をぶたれたらだっけ? ま、どっちでもいいや」
モヒカンと小柄な巾着持ちがたじろぐ。当然だ。体の細い少女が一発で大男を倒したのだから。
だがこのままおめおめと引き下がっては不良としての沽券に関わる。ましてや相手は少女なのだ。
「てめぇ!」
モヒカンが拳を振り上げながら襲いかかったのでフランチェスカがスペイン語で毒づく。
そして見習いシスターの革靴の爪先がモヒカンの顎下にめり込んだ。これもまた床にどうっと倒れる。
最後に残った巾着持ちが「ひぃい」と情けない声を出しながらへたり込む。
フランチェスカがスカートをぱんぱんと埃をはたく。
「さっそく天罰がくだりましたね」とにこりと微笑む。
「いや、あなたが直接手をくだしたんでしょ!」
安藤のツッコミが礼拝堂に響いた。
「「「すんませんっしたぁあああ!!」」」
不良一同が手本となるような最敬礼のお辞儀をするとそのまま教会から逃げ出した。
「神よ。どうかあの罪人たちに慈悲を……」アーメンと胸に十字を切る。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございました!」
安藤がぺこりと頭を下げる。
「よいのです。それよりも」
フランチェスカがゲームソフトを拾いあげる。
「これ貸して」
「は?」
「だってこのゲームやりたかったし、あとちょっとで寄付金がたまるからそれで買おうと思ってたから、ちょうどいいタイミングね」
「人の善意をなんだと思ってるんすか!? アナタは!」
「ぶー」とフランチェスカがふて腐れたかと思えば、いきなり「あー!」と声をあげる。
「さっきの不良たちから寄付金巻き上げるの忘れてた!」
「アンタそれでも聖職者か!」
安藤に突っ込まれたフランチェスカがふふんと笑うとばっと両手を広げる。
「この教会では見習いと言えどもシスターは私のみ! よってここでは私が正義!」
そしてすぅっと息を吸う。
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