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EXTRA ある日の見習いシスター
しおりを挟む「まいどー、渡辺酒店です。注文の品お届けにあがりましたー」
年の若い酒屋の店主がインターホンでそう告げた。
「いつもありがとう。申し訳ないけど玄関まで運んでくださるかしら?」
凜とした声が返ってきたかと思えば、ガラス扉のロックが外れる音がした。
見るからに富裕層しか住めないような高級マンションのエントランスを抜け、エレベーターで上がり、顧客の部屋まで来た。
「ありがとう。ごめんなさいね、いつもここまで運ばせて……」
妙齢の美貌溢れる女性がすまなそうに扉を開けて招き入れる。聞くところによれば貿易商の夫人らしいそうな。
「いえ! これが仕事ですから。それに神宮寺さまにはいつもご贔屓にしていただいてますから……」
酒瓶の入った箱を置き、帽子を取った店主が言う。
「そう……あら?」
夫人が酒瓶を見る。
「このお酒、注文してないはずだけど……?」
「す、すみませんっ。実はそのお酒、あなたにぜひと思って……」
しどろもどろになりながら帽子をくしゃくしゃにする。
「まぁ……」
夫人がその酒瓶を手にして立ちあがる。ふわりと香水の良い匂いがした。
「……よければ、一緒に飲みません? 主人は出張で帰ってきませんの……」
はらりと前髪が垂れる。それと同時にぱさりと帽子が落ちた。
「じ、神宮寺さん……!」
「イヤ! 今日だけは美奈子と呼んで!」
「美奈子っ!」
テレビで繰り広げられるメロドラマをフランチェスカは煎餅をぱりっと齧り、どきどきしながら見つめていた。
ごくりと唾を飲んで次の展開を心待ちにする。ふと、時計を見るともうすぐ13時半を指そうとしていた。
「やばっ! タイムセール終わっちゃうじゃん!」
テレビの電源を切り、エコバッグを肩にかけると教会を出た。
小走りにスーパーへ向かい、なんとか戦利品を手に入れてスーパーを後にする。
ホント、日本の主婦ってタフね……。
エコバッグをかけ直して教会へ戻ろうとした矢先に彼女に声をかけるものがあった。
「あ、あの……!」
「ん?」
振り向くとふたりの女子高生が立っていた。始業式の帰りだろう。
「あの、もしかしてあなたが美少女シスターさんですか?」
「え、確かにあたしはシスターだけど……」
「やっぱり! うちの学校でもそのウワサで持ちきりなんですよぉ!」
もうひとりの女子高生がぴょんぴょんと跳ねる。
聞けば、こないだの銀行強盗を退治したことで、SNS上で『#美少女シスター』のハッシュタグがついて一躍有名人となっているのだそうな。
「もし、良かったら写真撮ってSNSにアップしてもいいですか!?」
「もちろん! せっかくだから一緒に撮りましょ!」
フランチェスカを間に挟むようにして、スマホにその姿を収める。
フランチェスカは教科書でお馴染みのザビエルのポーズだ。
「ありがとうございますぅうう!」
「ぜったい一生の宝物にします!」
手を振って別れを告げると、帰路につく。
美少女シスターか……。
そう言われると悪い気はしない。にまにまと笑みをこぼしながら歩く。
ふと、掲示板が目に入った。町内での催しなどが提示されている。フランチェスカもここでミサのお知らせを貼っているのだ。
そういえば、新しくミサのお知らせを貼らないとね。
そばのA4サイズ用紙に目を移す。近々行われる成人式のお知らせと演奏やパフォーマンスの演目を募集している。締切日は明後日までのようだ。
日本にはこんなイベントがあるのね……あたしの国にはないから、ちょっとうらやましいな……。
遥かスペインに記憶を馳せながら、フランチェスカは日本での我が家でもある教会へと歩く。
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