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第14話 HEAVENS JUSTICE BOYS⑥
しおりを挟む成人式当日――。その会場となる市民ホールの舞台上で市長の挨拶から始まった。
「――成人おめでとうございます。君たちは責任ある大人となって社会に羽ばたき……」
長ったらしい挨拶が終わると、次にパフォーマーたちが二十歳になった若者たちを楽しませる。
客席ではスーツや着物といった晴れ着で着飾った新成人たちがスマホでカメラに収めたり、それをSNS上にアップしていた。
「ヤバいっす。なんか食われそうっすよ。俺たち」
舞台袖でジュリアンが弱音を吐く。
「バカね。あたしたちは別にコンクールに出てるわけじゃないのよ。いつも通りでいいんだから」
「あの、聖歌隊の皆さん? そろそろ出番ですので準備お願いします」
「あ、はい!」
スタッフが怪訝そうな顔でヘヴンズジャスティスボーイズにそう告げる。
当然だ。フランチェスカを除いて全員革ジャンにジーンズという聖歌隊とは思えない出で立ちなのだから。
フランチェスカが修道服のポケットからスマホを取り出して電話をかける。
「アンジロー? いよいよ出番よ。照明よろしくね」
受話口から「了解!」と返事が返ってきた。スマホをポケットにしまう。
そして皆の顔を見回す。
「OK。いい? みんな。これまで練習してきたことを思いだして演奏するのよ。泣いても笑ってもこれが最後だからね。後悔のないよう、全力でいくわよ!」
「「「おう!!!」」」
ゴツンと拳を合わせる。
†††
パフォーマーの演目が終了し、客席からぱらぱらとまばらな拍手。
「ありがとうございました。ステキなパフォーマンスでしたね」
女性の司会者がにこりと語りかける。
「さて、いよいよ最後の演目です。聖ミカエル教会から聖歌隊がお越しになりました」
客席からふたたびぱらぱらとまばらな拍手。
「聖歌隊だってさ。つまんないの」
「もう帰ろうぜ。そんでどっかで飲もう!」
客席から十数人の成人が帰り支度を始めようという時、照明が消された。次いでカーテンが閉められたステージ上にスポットライトが点く。
舞台袖からフランチェスカが出てきた。司会者がマイクを手渡す。
「はじめまして。フランチェスカです。成人式を迎えられた皆さま、おめでとうございます。最後に私たちの賛美歌の演奏を聴いてください」
一拍間を置いて続ける。
「曲名は『God is with you(神はあなたとともにある)』です。これからおとなとなって社会に出る皆さまへのエールです」
すぅっと息を吸う。
「ミュージックスタート!」
フランチェスカの合図とともにシンバルの音が響く。
カーテンが左右に開き、ヘヴンズジャスティスボーイズのメンバーたちが同時に前奏を奏でる。
客席からどよめきが起きた。当然だ。聖歌隊が出ると聞いたのだから。
ステージの正面に立っているフランチェスカがヴェールをかなぐり捨てて、長い金髪を振り乱し、修道服をつまんで引き剥がすと、その下から露わになったのは短めのスカートと網タイツという出で立ちだ。そしていつの間にか頬に黒い星のシールを貼っている。
「え、なにこれ!?」
「ちょっとあのシスター、カッコよくない?」
「めっちゃインスタ映えするんですけど!」
ヴォーカルのフランチェスカがくるりと向き直ると、すぐさまステージの真ん中へ走る。前奏は終わりに近づいていた。素早くスタンドマイクを掴んで振り向く。
♪迷える子羊たち、準備はいいかい?
ヴォーカルのソプラノがマイクを通してホール中に響く。聖歌隊で鍛えられただけのことはある。
♪さあ、新しい世界に飛び立とう! DIVE TO THE NEW WORLD!
安藤の操作によって彩られたステージ上で、
マンショがシンバルから流れるようにタムタムを叩き、ハイハット、スネアを素早いビートで刻む。
♪恐れないで。この世界は神の愛に満ちあふれてる。
マルティノがキーボード上で指を巧みに動かして旋律を奏でる。
♪もちろんつらいことや悲しいことだってあるでしょう。
フランチェスカがスタンドからマイクを抜いて、ジュリアンと向き直る。
♪上手くいくことだってあれば、そうじゃない日だってある。
ジュリアンがコードを押さえ、すかさずピックを走らせる。
♪なにもかも思い通りにならない時は、神にグチッたっていい。
ミゲルがリズミカルに、それでいて3人の楽器を引き立てるように力強く奏でる。
客席の観客はリズムを取りながら体を動かしていた。
フランチェスカが両手を上げて、パンパンと手拍子を取りながらステージを横切る。それにつられて客席からも手拍子の音が響く。
曲は間奏に入り、四人の楽器のみの音だけだ。
正面に戻ったフランチェスカが音に合わせてキレのある動きを見せる。
腕を顔の前で平行に伸ばして、腰にツイストをひとつ。
「スゲー! マイケル・ジャクソンみたいだ!」
それに気をよくしたのか、フランチェスカがムーンウォークでステージの端へと移動したので客席から驚きの声と拍手が巻き起こった。
ターンして素早く首を客席のほうへ向け、ふたたび歌い出す。
♪ルールでがんじがらめな世の中、理不尽なことは多いけど、そんなのぶっ壊せ!
BRAKE THE WALL!!
バスドラムの音が一段と大きくなり、ステージ上で響く音も比例して客席に響き渡った。
♪恐れないで。キミならできるよ。この世界は神の愛に満ちあふれてるから。
曲は最高潮へと達し、それに伴って観客も興奮のるつぼと化した。
♪CHANGE THE WORLD! この世界は可能性に満ちあふれてる。なぜなら、神の愛に満ちあふれてるから。
四つの楽器のペースが速くなった。
♪DON'T FORGET! 忘れないで、神は常にあなたとともにある。
恐れないで、キミならできるよ。なぜなら、この世界は神の愛に満ちあふれてるから。
フランチェスカの歌声が余韻を利かせるように長く伸ばし、ギター、ベース、キーボード、ドラムがクライマックスへと向かう。そしてフィニッシュを決める。
「AMEN!」
フランチェスカが十字を切り、手を組む。少しの間があり、割れんばかりの拍手で静寂が破られた。
客席からスタンディングオベーションで拍手が、歓声が、どよめきが巻き起こった。
「アンコール! アンコール!」
肩で息をしながら、フランチェスカがメンバーを見回す。全員こくりと頷く。彼女も頷き返した。
「OK! アンコールに応えてもう1回やるわよ!」
その日、市民ホールが歓声に包まれた。
†††
「お疲れさま! 最高の演奏だったわよ! あ、もちろんアンジローもね」
「こっちこそ良いライブが見れて良かったですよ」
市民ホールの裏口から出たフランチェスカが仲間たちを労う。正面口は聖歌隊と名乗るバンドにサイン希望者やインスタに載せたい成人たちでパニック状態になっていた。
「フランチェスカさん、本当にありがとうございました!!」
リーダーのジュリアンが代表して礼を述べ、メンバー全員が頭を深く下げた。
「これで、もう思い残すことはないっす!」
「最高のライブでしたよ!」
「あ、ありがと……」
三人がまた頭を下げる。
「……ありがとう」
最後にミゲルがフランチェスカに手を差し出す。
「ん、こちらこそ一生の思い出になったわ」
差し出された手を握り返す。
ふと腕時計を見る。
「やばっ! マザーが戻ってくる時間じゃん! ごめん、もう教会に行かないと!」
じゃあね! とくるりと踵を返す。
「シスター!」
ジュリアンが呼び止める。
「なに?」
「その、また俺たちとバンドやろうぜ!」
見習いシスターがにこりと微笑む。
「もちろん! いつかまたやりましょ! 兄弟たち!」
「おう! シスター!」
ゴツンと拳を合わせる。
数年後……。
軽快な音楽とともに番組のロゴが現れ、司会者の女性が挨拶する。
「こんばんは。みなさまミュージックアワーの時間がやってきました」
ぺこりとお辞儀をし、さらに続ける。
「さて、今日紹介するグループは彗星のごとく現れたロックバンドの『ヘヴンズジャスティスボーイズ』です」
スタジオから拍手が起こった。カメラを袖のほうへ向けると、メンバーが入場してきた。スタジオに設けられた椅子に腰かける。
「はじめまして。まずはデビューおめでとうございます」
「うす! ありがとうございまっす!」
リーダー、ジュリアンがぺこりと頭を下げる。
「先日、アルバムが発売されましたね。今回はバンドの原点ともいうべき曲、『God is with you(神はあなたとともにある)』を歌っていただきますが、もともと成人式で歌われてたんですよね?」
「はい! 初めて多くの人の前で歌ったんですが、おかげで良い経験になりました」とマルティノ。
その隣でマンショがこくこくとうなずく。
「そういえば、一度解散の危機があったんですよね?」
「はい。でも成人式のライブで再結成して、そこからまた音楽をはじめたんです」
「はい。私も一ファンとして辞めないで良かったと思っています。あ、質問なのですが、ヴォーカルはジュリアンさんがギターも兼ねてやってらっしゃるんですよね」
司会者がアルバムのCDケースを取り出す。
「このアルバム、他の曲では歌われていますが、なぜ『God is with you』だけ歌わないのでしょうか? ファンの間ではその疑問で持ちきりです」
「それは、バンドを再結成するきっかけをくれたひとのために空けてあるんです。もう一度そのひとと歌うために……」
ジュリアンがカメラのほうを向いて拳を突き出したので、他のメンバーも倣う。
「見てますか? またいつか一緒にライブやろうぜ!」
ヘヴンズジャスティスボーイズはデビューしてからCD三千万枚の売り上げを記録し、将来は武道館でのライブも夢ではないとされている。
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