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第17話 合格祈願
しおりを挟む絵馬。古くは古墳時代まで遡ることができ、当時の天皇、崇神天皇に神事の際に馬を奉納したことから始まったとされている。(常陸国風土記より)
古来より神々は馬に乗って現れると言われており、そのため馬を奉納したが、どうしても奉納できない場合は紙や木で代用したとされる。
これが絵馬の由来である。
――神代神社。歴史ある由緒正しき神社の境内にて神代舞はほうきで落ち葉を掃く。
本殿の隣は絵馬掛所と呼ばれる絵馬をかける場所だ。
この時期は受験生が多く訪れるので、合格祈願や第一志望校合格といったものがほとんどだ。
ほかには結婚祈願、安産祈願、果てはノリで書いたのか、世界征服などといった願いが書かれていた。
ふざけた願いに舞は呆れて首を振る。これでもきちんと奉納料を納めているのだから無下に取り外すことは出来ない。
「あのー……こちらって絵馬、買えますか?」
「え? あ、はい。こちらで買えますよ」
振り向くとそこに立っていたのは髪を後ろにまとめた可愛らしい女子中学生だ。その隣には同年代の男子が立っている。
舞が販売所へ案内し、そこで舞の祖父でもある神主が売り子を務めていた。
相変わらず高齢のためか、頭をぷるぷると震わせている。
女の子が奉納料を支払って絵馬を受け取る。
「ええと、ここにお願いごとを書けばいいんですよね?」
「そうですよ。こちらに筆ペンがあるので願い事を書いてくださいね」
舞が筆ペンを手渡すと、彼女はおもむろに書き始めた。すでに願い事は決まっているらしい。
「できた!」と言って絵馬掛所にそれを掛ける。絵馬には可愛らしい字でこう書かれていた。
『ふたりとも同じ高校に入れますように♡』
さき&はるま
「受験生なのね?」
「はいっ! いま彼と一緒に模試の勉強してるとこなんです」
咲が彼氏の春馬の腕を組む。
「お前ってホント好きだよな。こういうの」
「いーじゃん。お姉ちゃんだって、ここで願かけして合格したんだし。御利益は確かですよね?」
咲が舞のほうを向く。
「もちろん! ここ神代神社は霊験あらたかな名所ですから!」
ふんすっと舞が薄い胸を反らして言う。
「やっぱり!」と咲が跳ねた。
「試験勉強頑張ってね。わたしも来年は受験生だから」
「はいっ! がんばります!」
咲が可愛らしく敬礼して、手を振って別れを告げる。
数日後、舞は絵馬掛所の前で絵馬の取り外しに掛かっていた。と言ってもすべて外すわけではなく、新たに掛けるひとのためにスペースを確保するのだ。
日付が古いものから外していき、それらをまとめて本殿のなかへと納めていく。
やがて日付が新しい絵馬のみとなった掛所はすっきりと整然されていた。そこにはもちろん先日来た受験生カップルの絵馬も掛けられている。
「これでよし、と」
舞がくるりと踵を返そうとした時、目の前に女の子が立っていた。咲だ。だが、彼氏の姿はない。
「わ、ビックリした! どうかしたの?」
だが、咲はそれには答えず、絵馬掛所へ歩くと、いきなり自分の絵馬を剥がして、地面に叩きつけようとしたので、舞が止める。
「ちょっと! 気は確か!?」
「はなして! はなしてよっ!」
咲の手から絵馬を引き剥がすと、彼女はおとなしくなった。
「どうしてこんなことを? 模試の結果が悪かったからって八つ当たりは良くないわよ」
すると咲がぶんぶんと首を振る。
「……ちがうんです。模試は合格ラインに入っていたんです。でも、彼が……」
「合格ラインに入れなかったのね?」
そう言うと、彼女はこくりと頷く。そして涙が溢れ出た。
「彼が、『お前と一緒にいると自分がみじめになる』って……」
ぎゅっと奥歯を噛みしめる。
「受験なんて、もういいよ!! 学校やめる!」
ぱしっと境内に乾いた音が響く。
「……え?」
はたかれた頬を押さえながら舞のほうを見る。
「彼氏と一緒に高校行けないから受験やめる? 学校をやめる?」
すぅっと息を吸う。
「甘ったれんな! 世の中にはね、希望の学校に行けない子だっているんだよ! それをフラれたからってやめるなんて言うな!」
「だ、だって……!」
「受験は彼氏のためじゃないだろ? 自分のために頑張るものなんだ! そんな最低な彼氏なんてほっぽって行きたい学校に行くんだよ!」
そう舞が言い放つと、咲は堰切ったように泣きはじめた。
舞がふぅっと溜息をついて「ちょっと待ってな」とくるりと踵を返す。
少ししてから舞が戻ってきた。そして咲が見守るなか、絵馬を掛ける。
その絵馬は咲が叩きつけようとした絵馬とは別の絵馬だ。新しく用意されたもので、そこには新たに願い事が書かれている。
『ふたりとも希望の学校に入れますように』
さき&まい
「これでよしと。約束して。ちゃんとこの願い事をかなえるって。あたしも来年頑張るからさ……」
「…………」
「神さまはちゃんと頑張ってるひとを見ているから。あたしも、来年頑張るから……」
「…………はい」
「ん。よろしい」
ぽんっと頭に手を置く。
「ありがとうございます。頑張ってみます」
「うん。それでこそよ」
舞がにかりと笑うと、咲もつられてふふと笑った。
二ヶ月後。
その日も舞は境内にて掃き掃除をしていた。三月とはいえ、ひゅうっと寒風がぶるっと身を震わせる。
絵馬掛所を見ると、相変わらずそれぞれ願い事が書かれた絵馬がずらっと並んでいた。
お決まりの願い事もあれば、『世界一になる!』というなにが言いたいのかもわからない絵馬もある。
舞はそれを見てふぅっと溜息をつく。さっさと掃除を終わらせよう。そう思ったときだ。
「あの」
聞き覚えのある声がしたので振り向く。
髪が伸びているが、そこに立っていたのは咲だ。
驚く舞に「えへへ、お久しぶりです」とにこりと微笑む。
「あたし、志望校に合格しました! 巫女さんのおかげです!」
「……あたしはなにもしてないよ。言ったでしょ? 神さまはちゃんと見てくれてるって」
「はいっ! 約束、覚えてますよね? 巫女さんも志望校に合格するって」
咲がにっと笑う。そしてぴしっと敬礼する。
「頑張ってください! 応援してますからね!」
ひゅうっと風が吹き、春の訪れを告げる。
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