年下上司の愛が重すぎる!

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13話

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「いや、やっぱいい。嫌だよな。忘れてくれ」

かなりの間を要して返ってきた返事に、嫌悪は混じってなさそうだが、戸惑いが大きい。まぁ、当然か。異性ならともかく。

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。今のってどういう意味で言ったんですか...?」

「あー.....」

そういや理由を言ってなかった。理由もなしに触ってくれって、どう考えても変態じゃねえか。

「....今朝みたく、なりたくねえんだ」

「っ!........ですが、あれは慣れるようなことでは....」

「....それでも、せめてパニックにはならないようにしたい」

そしたらもっと有益な情報を得られていただろうし、こいつにあんな醜態を晒さずに済んだ。
佐原だったら既にパニクったところを見られてるし、これから一緒に住むから色々と好都合だと思ったのだが、難しい顔をして考え込んでしまった。

「おい、だから無理ならいいって」

強要するつもりは毛頭ない。下手したらセクハラ案件だしな。

「いえっ、嫌なわけではなくて......、その、...俺が我慢できるかな...と....」

「だーから、我慢するほど嫌ならいいつってんだろ」

「いえ!だから、嫌ではなくてですね....むしろ....」

尻すぼみになっていく言葉が全く理解できない。嫌じゃないなら何を我慢するってんだ。
煮え切らない返事に首を傾げると、佐原は言いにくそうに口を開いた。

「.....姫崎さんは.....その....、ああいった行為に...トラウマが、あるんですか....?」

佐原の方が背が高いのに、顔を俯けちら、と上目遣いで俺の方を見る。
ま、そりゃわかるよな。あんだけ取り乱したら。

「.....ああ」

理由は誰にも言うつもりはないので、頷くだけにとどめる。佐原も理由まで聞くつもりはなかったのか、深く突っ込んではこなかった。

「....あのですね、もう分かってるとは思いますけど、...俺は、姫崎さんの事が好きなんです...!」

「....は?」

好意を抱かれているのは嫌でもわかるが、なんで急にそんな話になるんだ?

「えっ!?伝わってなかったですか...!?」

「あー、いや、違う。そうじゃなくて、今その話関係あるか?」

「ありますよ!.....俺は、姫崎さんが嫌がる事をしたくないんです....」

あー.....、そういや言ってたな。なるほど。我慢ってのはそういうことか。必然的に俺の嫌がる姿を見なきゃいけなくなるから、それを耐えれるかどうかってことだな。
.......んん、けどいくら憧れてるからってそこまでなるもんなのか?そういう人物がいた事がない俺にとって、その気持ちはよくわからない。

「わかった。なら他の奴に頼むから」

「!?だ、駄目です!それなら俺がやります...!」

どっちだよ。

「別に、んな無理しなくても....」

「他の人が姫崎さんに触る方が嫌です」

きっぱりと言われ、少したじろぐ。
そ、そんなに...?

「でも.....、一番嫌なのは、俺の理性がぶっ飛んで、姫崎さんが嫌がっても止められなくなる事です」

ん.....?

「ただでさえ姫崎さんが俺ん家に居るだけで浮かれてるのに...、触ったらどうなるか自分でもわからなくて....」

......ちょっと待て。

「それに、姫崎さんも無防備すぎです。トラウマを克服したいっていうのは、めちゃくちゃかっこいいです。けど、こんな二人きりの空間で、俺が好きなの知ってて触ってほしい、なんて....。襲われるかも、とは思わなかったんですか...?」

待て待て待て!こいつもしかして——

「まさか、....好きって、そういう意味なのか.....?」

「えっ!?やっぱり伝わってなかったんですか!?」

ま、まじか.....。てっきり憧れの延長のようなものだと思っていた。もしかして、一目惚れっていうのも本気で....?

「.......お前、男が好きなのか....?」

「うーん....、どうなんでしょう?姫崎さんしか好きになった事ないんでわかりません」

「なっ....!」

う、嘘だろ.....。
だが、佐原とは知り合ってまだ二日しか経ってない。所詮こいつもこの顔が好きなだけなんだろう。

........父を惑わしたこの顔が。

「悪いが、いい返事はできないぞ」

俺は、生まれてこの方、人を好きになった事がない。多分、これから先もないと思う。例え好きな人ができたとしても、セックスができないならどの道長くは続かないだろう。

あの日以来、人と深く関わる事を避けた。
あんなに優しかった父ですら惑わす顔だ。親しくなった者にまたあの顔を向けられたらと思うと、怖くてどうしても距離をとってしまうのだ。今思うと、人間不信になっていたのだろう。

今はそれほどでもないが、やはり進んで親しい人をつくろうとは思わなかった。現に、親しい人など課の人達と森元くらいだ。大抵の人は一度拒絶すればあまり関わろうとしなくなるのに、彼らは違った。そのお陰で、今のような関係が築かれている。

期待を持たせないように釘を刺すが、なぜかふわりと微笑まれた。

「それでもいいです。....でも、諦められら気がしないので、そばに居ることは、許してもらえませんか...?」

「!?」

はっ...!?え!?何言ってんの!?

「よ、酔ってんのか....?」

「俺酒強いんでこのくらいじゃ酔いませんよ」

そうだった。酒が強いならもっと飲めばいいのに、こいつは律儀に俺と同じ量にすると言って早々に飲み干していた。

酔ってないのによくそんな恥ずかしいこと言えるな!?
告白されることはよくあったが、きっぱりと断れば逆ギレされる事が多かったので返答に困る。

「.........か、勝手にすれば.....?」

テンパってそれしか言えなかった。


結局佐原が協力してくれる事になり、食事を終えた俺たちはソファへと移動した。
そして今、移動してから五分ほど経っているのにもかかわらず、まだ始まっておらず、めちゃくちゃ念を押されている。

「俺が暴走したら、殴ってでも止めてくださいね!?絶対ですよ!?」

「あー!もうわかったから早くしろって!」

何回このやり取りをしたら気が済むんだ!
いい加減げんなりしてきた時、ようやく佐原も満足したようだ。

「手から触っていきますね」

急に神妙な面持ちで見据えられ、心臓がドキリと跳ねる。

「いや...、手からって慎重すぎないか?」

さすがに手を触られるだけでパニックを起こすことはない。

「触られる事に慣らしていくわけですし、あんな目に遭ったばかりなんで慎重にいかないと」

俺の左手に、佐原の右手が重なる。
俺の顔をじっと見つめながら、重ねた手を優しく握ったり、絡ませたりと、その手は緊張からか少し湿っている。

そこまで緊張されると、こっちまで緊張してくるのでやめてほしい。顔を凝視するのも。

「.....おい、...あんま見るな」

「見てないと姫崎さんが嫌がってるかどうかわからないじゃないですか」

至極真っ当な返答に、ふい、と視線を逸らす。

「嫌でしたか?」

「え?あ、別に...」

「ならこちらを向いててください。表情が見えないと不安なんで」

くそ....、なんでこんな居心地が悪いんだ。
自分から言い出した事で、まだ手しか触られていないのに。
今のところ、嫌悪感も恐怖も感じない。あるのは気まずさだけだ。

仕方なく視線を戻すと、手のひらをつー、と指が這った。
ぞわりとした感覚に、肩が跳ね、少し肌が粟立つ。

「嫌でしたかっ?」

俺の反応に、佐原は慌てて手を離した。

「っ、いや...大丈夫だ。...ってかいちいち聞かなくていいから」

「でも姫崎さんすぐ我慢しちゃうじゃないですか」

「そりゃある程度我慢しないと意味ねーだろ」

「そうですけど.....」

「いいから続けろって」

渋々、といった感じで再び手を重ねる。握るだけだと何も感じないのに、指が這うとなぜかぞくぞくとしてしまう。恐怖とかではなく、くすぐったいような感じだ。

そういった触れ方をされた事がなかった所為だろうが、なんとかその感覚に耐えていると、佐原が動きを止めた。

「.....今日は、ここまでにしておきましょう」

「は...?おい、俺はまだ——」

唐突にそう告げられ、目を合わせようともせずにソファから立ち上がる。その横顔は、心なしか赤い。

どうやら俺よりも佐原の方が我慢できなかったようだが、俺はそんなに嫌そうな顔をしてたんだろうか。

自分の顔をぺたぺたと触ってみるがわかるわけもなく、その間に佐原はさっさと自分の部屋へと行ってしまい、その後もほとんど顔を合わせることはなかった。
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