年下上司の愛が重すぎる!

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39話

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目が覚めて最初に感じたのは、温もりだった。

背中が温かく、心地いい。
その心地よさに身を委ねながらぼんやりとした視界で辺りを見ると、どうやらここは自分の部屋のようだ。

昨日....、何があったんだっけ.....?

寝ぼけた頭で昨日の事を思い出し....、勢いよく上体を起こした。
当然のように隣で寝ている佐原は、まだ覚醒しきってない様子で「さむ...」と呟き、布団をかぶりなおしている。

「おいっ!なんでお前までここにいるんだよ!」

二度寝しようとしている佐原をげしげしと蹴って布団から出す。
ベッドではなく、床に布団を敷いている状態なので落ちないのが残念だ。

「ちょっ、姫崎さん痛いですって...!」

「自業自得だ」

「でも今シーツ洗濯しちゃってるので自分のベッドで寝れなくて....」

「っ、それも自業自得だろっ!ソファで寝ろよっ!」

急にシーツを洗濯する理由が、昨日の出来事であることは明確だろう。
それをまざまざと思い出してしまい、思わず枕を投げつけながら怒鳴った。



◇◇◇



人の噂も七十五日、というが、当事者からしてみれば結構長い。
通りすがりに口笛を吹かれたり、じろじろと見られる分にはまだいい。だが、あまりにも低俗な質問をされたり、言われたりもするのだ。
中には体に触れてくる者までいたりと、いろいろ勘弁してほしい。

そういった奴は、大抵俺が一人になった時に接触を図ってくるので、必然的に課の誰かしらと行動を共にする事が増えた。
せっかく一人で行動できると思った矢先に酷い仕打ちだ。

これをあと二ヶ月近くも我慢しなければいけないのか、と想像するだけて嫌になる。


「......姫崎さん、そのフェロモンなんとかなりません?」

珍しく課で二人きりになった時、影山がそんなことを言った。
元々突拍子もない事を言う奴ではあったが、これは意味不明すぎないか?フェロモン?何の話だ。

「はぁ?」

「え、もしかして無自覚でしたか?勘弁してくださいよぉ」

「だから何の話だ、何の」

「姫崎さんがフェロモン振り撒いて誰彼構わず誘惑してるって話です」

「.......頼むから日本語を喋ってくれ」

何一つ理解できず、頭が痛くなってきた。

「だーかーらー、そのだだ漏れてる色気をしまってくださいって言ってるんです!噂加速してますよ?」

「いっ...!?んなもん出してねえよ!」

「あぁ、無自覚でしたね...。たまにいるよなぁ、大人の階段登ったと思ったら急に雰囲気変わる人...。バレバレすぎてむしろこっちが恥ずかしいやつ」

「おい、なにぶつぶつ言ってんだ。なんも出してねえのに噂加速してるってどういうことだよ」

影山はうなだれながら小声で何か呟いていたが、所々しか聞き取れなかった。
それよりも噂だ。色気がどうのこうのもよくわからんが、なんだって噂が加速してんだ。
もしかして最近やたら話しかけられるのはその所為か?

「出てるんですよ、色気が。前から近寄りがたい雰囲気は緩和してましたけど、今はそれプラス色っぽいというかエロいというか...。とにかく、今ならワンチャン俺も、って奴が増えてるんですよ」

佐原の言葉に思わず頭をかかえた。
色気!?エロい!?意味がわからん!身に覚えがないから余計だ。
しかもなんだ?ワンチャンだと?舐めてんのかクソ野郎。


「付き合いたてで幸せなのはわかりますけど、その内襲われますよ?...まぁ、姫崎さんなら返り討ちでしょうけど」

「付き合いたて....?」

「でもそんなあからさまにされるとこっちもムラムラしちゃうんで困るんですけど」

「ちょ、ちょっと待て....」

また意味がわからなくなってきた。

「誰と誰が付き合ってるって....?」

なんか前にもこんな話をしなかったか...?

「姫崎さんと警部に決まってるでしょ?」

「はぁ....、だから付き合ってねえって言っただろ....」

「それは噂直後の時ですよね?......まさか、付き合ってないんですか....?」

「まだってなんだよ」

「うっそ!信じられない!警部かわいそー!」

「はぁ?なんであいつが」

影山は目を見開かせがら驚いていたが、その後に続いた言葉に今度は俺が驚愕した。

「だーって何度もヤってんのに付き合ってないとかセフレじゃないですか」

「セ....!?いやっ、二か———」

テンパリすぎて二回しかやってない、と口走りそうになり、慌てて口を閉じたが遅かったようだ。

「えっ、二回しかヤってないんですか?まだ同棲してるんですよね?どんだけ我慢させるつもりですか」

勢いとはいえ、性事情を自ら暴露してしまった。それも後輩に。

「.....だから、そういうのじゃないんだって....」

気まずさのあまり"同居"だと訂正する気力もなく、がっくりと項垂れる。
なんだってこいつとこんな話をしなきゃならないんだ。

「でも二回したんですよね?一回目は媚薬の所為だとしても、二回目は合意でしょう?」

...........まて、なんでこんなに筒抜けなんだ。
媚薬の件は、御堂先生にも口止めをしてある。報告書にも書かれていなかったので知らないはずだ。
俺が喋るはずないし、他に知っているのは佐原だけだがあいつが話したとも思えない。

「おま...、それどこで.....」

「媚薬の事ですか?そんなのちょっと考えればわかりますよ」

う、嘘だろ....。他にも気づいた奴いるのか....?

「そんなことより、そういうのじゃないってどういう事ですか?」

悶々としている最中、いつの間に近づいてきていたのか影山の顔が目の前にあった。
俺にとってはではないのだが。.....というより、なんで俺は若干気圧されてんだ。腹が立つ。

「お、お前には関係ないだろ....」

「ええ、ここまできてそれ言います?じゃあ俺も姫崎さんの初めてが媚薬プレイとか口滑っちゃいそうだなぁ~」

「なっ!お前脅す気か!?」

「人聞きの悪い。俺はただ、酒で軽くなった口が何言うかわかりませんよって言っただけです」

「脅してんじゃねえか!」

姫崎さんがそう思うならそうかもしれませんね、としれっと言い放つ。
一番知られてはいけない奴に知られてしまったのかもしれない。

「はぁ.....、.......確かめただけだよ」

仕方なくざっと説明した。
本当にざっとだ。嫌悪感があるかどうか確かめたくて、とだけ。理由は言っていない。

「........やっぱり、変わりましたね。姫崎さん」

「は?」

「だったら、俺も確かめさせてくださいよ」

そう言って腕を取った影山の雰囲気が、ガラッと変わった。
いつものおちゃらけたような顔ではなく、真剣な顔つきをしている。

確かめるって、何を。
声に出す前に、反対側の手が頬を撫でた。
途端にぞわりとした嫌悪感が背中に走る。
気づいたらその手を払いのけていた。
ぱしん、という乾いた音と、手の痛みで払った事に気づいたくらいだ。

「........ほら、この程度で嫌悪感抱いてたらセックスどころじゃないでしょう。それに、前までの姫崎さんならもっと早い段階で"表に出ろ"って言ってるはずです。そこまで変えられといて何迷ってるんですか」

「っ、」

静かに放たれた言葉に息を詰まらせた。
変えられたつもりなどなかったのに、影山の言っている事を否定する言葉が見つからない。

いつから?いつの間に?

そんな言葉がぐるぐると頭の中で回っている間に、いつもの雰囲気に戻った影山は掴んでいた手を離して「じゃ、俺帰りまーす」とあっさり帰ってしまった。
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