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18話
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「少し休憩をしよう」
ブランエッタ様がそう言ったのは森に入ってから20分ほど経ってからのことだった。
え?早くない?
まあ20分の間に虫の魔物の大群が8回ほど襲ってきて、それを全て炭にするほどの魔力を使っていたから疲れたんだろうが。
まだなにも成果がないのに魔力切れとかやめてくださいね?
一応周りになにも居ないのを確認してから俺も腰を下ろす。
だが、そんな俺にブランエッタ様はぴしゃりと言い放った。
「お前はなにもしてないだろ。この辺りに魔物がいないか見てこい」
「......かしこまりました」
単独行動はどうかと思ったが俺1人の方がホーンラビットを見つけられるかもしれないし、全て炭変えられてしまうよりいいか。
下ろした腰をすぐに上げ、森の奥へ足を向けた。
5分ほど歩くと100mほど先に動きがあった。
念には念を入れ、向かい風を発生させ少しでも音を排除し、慎重に距離を詰める。
50mほど近づいたところで魔物の姿が見えた。
ホーンラビットだ。
これ以上近づくと逃げられてしまう可能性がある。
慎重に狙いを定めるけど....、思ったより可愛いな。
ごめんなさい、と心の中で謝ってから風の弾を撃った。
見事命中し、動かなくなったホーンラビットを布で包む。
元の場所へ戻ろうとした時、3人に動きがあった。
うん?どういうつもりだ?
引き返すわけでもなく、むしろ奥へと進んでいるようだ。
あ、俺を置いてって迷子にさせるとかそんな感じ?
魔物も狩れたし俺としてはもう戻りたいんですけどね。
まあいいか。合流するとめんどくさそうなので一定の距離を保ちながら3人の後を追った。
20分ほど歩いただろうか。さすがにそろそろ引き返したい。
1人で歩いている間も魔物がちょくちょく出てきたので成果としては十分なはず。
3人の魔力の残量も気になるし合流しようとした直後、ものすごいスピードで動いているなにかを感知した。
それも、3人に向かって。
嫌な予感がする。
急いで3人の元へ向かった。
だが、向こうの方が先に3人の元にたどり着いたようだ。
3人の悲鳴のようなものがこちらまで届いた。
あと少しっ!
....見えた!まだ少し距離はあるが尻もちをついた3人とその前に立ちはだかる巨大な熊。
ワイルドベア!?
こんなところに居るはずのない魔物だ。
体長は4mほどで鋭い爪を持った右腕を振り上げ今にも振り下ろそうとしている。
咄嗟に3人を左右に吹き飛ばした。
文字通り吹き飛ばしたので木にぶつかってうめき声が上がる。
それでも、振り下ろされたあの右腕の攻撃をくらうよりかはマシだろう。
立て続けに右足の一点に風の弾を撃った。
『ブォォォォォ!』
あまり効いているようには見えないが痛かったのだろうか。
怒って俺に狙いを定めたようで一直線に突進して来た。
でかっ!
近づくとその大きさに慄く。
竦みそうになる身体を無理矢理動かしてなんとか回避した。
代わりに攻撃を受けた木がバキバキと音を立て、容易く倒されていく。
「皆様!大丈夫ですか!?」
逃げながら声をかけるが返事がない。
速いっ。
全速力で逃げているのにすぐ追いつかれそうだ。
とにかく怯ませなくては。
「ブランエッタ様!エレンカーグ様!小さくても良いので火を起こせませんか!?」
振り下ろされる腕を必死に避けながら大声で問うが顔を見合わせるばかりでなにも答えてくれない。
もしかしてもう魔力ほとんど残ってないとか!?
いよいよ追いつかれそうで地面の土をワイルドベアの目に向けて投げつけた。
少しだけ怯んだ瞬間にバスケットボール程の大きさの火の玉がワイルドベアの足元に出現した。
よし!
その火を攪拌させるように風でワイルドベアを包む。
『ブォォ!』
火を纏った竜巻はかなりの効果があったようでワイルドベアは動きを止めた。
「皆様!今の内に!早く!」
声をかけるとようやく動きだし、学校の方へ走り出した。
火が消えたところで風も止めると少しの間睨み合いが続いた。
先にワイルドベアが視線を外し、背を向けて森の奥へと消えて行った。
完全に姿が見えなくなったところでホッと息をつく。
どっと疲れが押し寄せてきたが、自分も学校へ向け足を早めた。
森を抜ける直前、ブランエッタ様が仁王立ちで待ち構えていた。
「?」
どうしたんだろうか。
「貴様、よくも吹き飛ばしてくれたな」
「......ああ、申し訳ありませんでした。咄嗟でしたので....」
感謝されこそすれ、罵倒される謂れはないのだが。
「そのせいで腕を痛めた。これは報告させてもらうぞ」
「....ええ」
腕が無くなるより良かったと思いますけどね。
それでも反論して長くなるよりいいか。
もう早く休みたい。
「それをよこせ」
担いでいる魔物の入った布袋を指差して言った。
「.........どうぞ」
内心ため息をつきながら布袋を渡す。
手柄さえも横取りする気ですか....。
説明するの面倒だな、とか話聞いてくれる先生だといいけど、などと考えながら森を抜けると青ざめた顔をしたルカの一言で頭の中は真っ白になった。
「フィル!ベルトレッド様が....!」
ブランエッタ様がそう言ったのは森に入ってから20分ほど経ってからのことだった。
え?早くない?
まあ20分の間に虫の魔物の大群が8回ほど襲ってきて、それを全て炭にするほどの魔力を使っていたから疲れたんだろうが。
まだなにも成果がないのに魔力切れとかやめてくださいね?
一応周りになにも居ないのを確認してから俺も腰を下ろす。
だが、そんな俺にブランエッタ様はぴしゃりと言い放った。
「お前はなにもしてないだろ。この辺りに魔物がいないか見てこい」
「......かしこまりました」
単独行動はどうかと思ったが俺1人の方がホーンラビットを見つけられるかもしれないし、全て炭変えられてしまうよりいいか。
下ろした腰をすぐに上げ、森の奥へ足を向けた。
5分ほど歩くと100mほど先に動きがあった。
念には念を入れ、向かい風を発生させ少しでも音を排除し、慎重に距離を詰める。
50mほど近づいたところで魔物の姿が見えた。
ホーンラビットだ。
これ以上近づくと逃げられてしまう可能性がある。
慎重に狙いを定めるけど....、思ったより可愛いな。
ごめんなさい、と心の中で謝ってから風の弾を撃った。
見事命中し、動かなくなったホーンラビットを布で包む。
元の場所へ戻ろうとした時、3人に動きがあった。
うん?どういうつもりだ?
引き返すわけでもなく、むしろ奥へと進んでいるようだ。
あ、俺を置いてって迷子にさせるとかそんな感じ?
魔物も狩れたし俺としてはもう戻りたいんですけどね。
まあいいか。合流するとめんどくさそうなので一定の距離を保ちながら3人の後を追った。
20分ほど歩いただろうか。さすがにそろそろ引き返したい。
1人で歩いている間も魔物がちょくちょく出てきたので成果としては十分なはず。
3人の魔力の残量も気になるし合流しようとした直後、ものすごいスピードで動いているなにかを感知した。
それも、3人に向かって。
嫌な予感がする。
急いで3人の元へ向かった。
だが、向こうの方が先に3人の元にたどり着いたようだ。
3人の悲鳴のようなものがこちらまで届いた。
あと少しっ!
....見えた!まだ少し距離はあるが尻もちをついた3人とその前に立ちはだかる巨大な熊。
ワイルドベア!?
こんなところに居るはずのない魔物だ。
体長は4mほどで鋭い爪を持った右腕を振り上げ今にも振り下ろそうとしている。
咄嗟に3人を左右に吹き飛ばした。
文字通り吹き飛ばしたので木にぶつかってうめき声が上がる。
それでも、振り下ろされたあの右腕の攻撃をくらうよりかはマシだろう。
立て続けに右足の一点に風の弾を撃った。
『ブォォォォォ!』
あまり効いているようには見えないが痛かったのだろうか。
怒って俺に狙いを定めたようで一直線に突進して来た。
でかっ!
近づくとその大きさに慄く。
竦みそうになる身体を無理矢理動かしてなんとか回避した。
代わりに攻撃を受けた木がバキバキと音を立て、容易く倒されていく。
「皆様!大丈夫ですか!?」
逃げながら声をかけるが返事がない。
速いっ。
全速力で逃げているのにすぐ追いつかれそうだ。
とにかく怯ませなくては。
「ブランエッタ様!エレンカーグ様!小さくても良いので火を起こせませんか!?」
振り下ろされる腕を必死に避けながら大声で問うが顔を見合わせるばかりでなにも答えてくれない。
もしかしてもう魔力ほとんど残ってないとか!?
いよいよ追いつかれそうで地面の土をワイルドベアの目に向けて投げつけた。
少しだけ怯んだ瞬間にバスケットボール程の大きさの火の玉がワイルドベアの足元に出現した。
よし!
その火を攪拌させるように風でワイルドベアを包む。
『ブォォ!』
火を纏った竜巻はかなりの効果があったようでワイルドベアは動きを止めた。
「皆様!今の内に!早く!」
声をかけるとようやく動きだし、学校の方へ走り出した。
火が消えたところで風も止めると少しの間睨み合いが続いた。
先にワイルドベアが視線を外し、背を向けて森の奥へと消えて行った。
完全に姿が見えなくなったところでホッと息をつく。
どっと疲れが押し寄せてきたが、自分も学校へ向け足を早めた。
森を抜ける直前、ブランエッタ様が仁王立ちで待ち構えていた。
「?」
どうしたんだろうか。
「貴様、よくも吹き飛ばしてくれたな」
「......ああ、申し訳ありませんでした。咄嗟でしたので....」
感謝されこそすれ、罵倒される謂れはないのだが。
「そのせいで腕を痛めた。これは報告させてもらうぞ」
「....ええ」
腕が無くなるより良かったと思いますけどね。
それでも反論して長くなるよりいいか。
もう早く休みたい。
「それをよこせ」
担いでいる魔物の入った布袋を指差して言った。
「.........どうぞ」
内心ため息をつきながら布袋を渡す。
手柄さえも横取りする気ですか....。
説明するの面倒だな、とか話聞いてくれる先生だといいけど、などと考えながら森を抜けると青ざめた顔をしたルカの一言で頭の中は真っ白になった。
「フィル!ベルトレッド様が....!」
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