ボスルートがあるなんて聞いてない!

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22.危機一髪!

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 バリバリッというすごい音と共にまばゆい稲妻が魔熊の脳天に落ちた。右腕を上げた状態のまま、魔熊の体がぐらりと後ろへ傾く。

「ヴァ、ヴァルク.....?」

 倒れた魔熊の向こうに立っていた人物はヴァルクだった。

「サクヤ!?大丈夫か!?」

 襲われているのが俺だとは知らなかったらしい。前にできるだけ人助けしろ、とロベルトに言われたのを実行してくれたのか。

 た、助かった.....。

 気が抜けたのと、全身の怠さでまともに動けない。それを怪我でもしてるんじゃないかと勘違いしたヴァルクに、身体の隅々まで確認された。

「ヴァルクっ、もう大丈夫だからっ...!」

「だが背中が赤くなっている。他にもどこか怪我をしているんじゃないか?」

「してないって!背中だけだからー!」

 ズボンまで脱がされそうになったので、それは断固拒否した。

「気が抜けて立てないだけだから。ほんと大丈夫。ヴァルク、助けてくれてありがとう」

「.....そうか。無事で良かった.....」

 頬をさらりと撫でられてから、力強く抱きしめられた。ほっとして俺もヴァルクの背中に腕を回す。温かい腕に包まれて、初めて自分が震えていることに気づいた。多分ヴァルクにもバレていて、優しく背中を撫でてくれる。


 どれくらい経ったかわからないが、震えが止まった頃に身体を離し、顔を覗き込まれる。

「なぜ1人でこんなところに?」

「....ヴァルクに伝えたいことがあってダンジョンに向かってたんだけど.......。道が、わかんなくなっちゃって....」

 若干気まずいながらも起こったことを伝えようとしたとき、子狼の事を思い出した。

「あ、そうだ、子狼が....。あお、子狼の様子はどう?」

『まだ目覚めません』

「そっか.....」

 いつの間にか隣に来ていたあおの上ですやすやと寝息を立てている。目が覚めないのは少し心配だが、見つけた時よりは呼吸が安定しているようだ。

「なぜ子狼がこんなところに?」

「....わかんない。多分魔熊から逃げてたんじゃないかなって思ったんだけど....。近くに親もいないし.....」

 子狼と出会った経緯を説明して、どうにか親を探せないかとヴァルクに頼む。だが、諦めた方がいい、と諭された。

「これだけ経っているのに未だ姿を現さないんだ。もう手遅れだろう。それに、サクヤも満足に歩ける状態ではないのにどうやって探すんだ」

「う.....」

 正論すぎてぐうの音も出ない。実はさっき、もう大丈夫だろうと立ちあがろうとして転びそうになったのだ。ヴァルクが支えてくれて無事だったが、足がまるで産まれたての子鹿のようにぷるぷると震えてしまい、なんとも情けない。いや、子鹿はひとりで立てるんだ。比べるのは失礼だな。

「取り敢えず動けるようになるまで少し休んでいけ。話もあるんだろう?」

「うん。ありがと..ぅわ!」

 当然のように横抱きをされてしまった。

「ヴァルク、支えてもらえれば歩けるからっ....」

「駄目だ。大人しくしていろ」

 ......確かに支えられて歩くより格段に早く着くし、仕方ないか.....。
 ごめん、ありがとうと伝えて大人しく身を任せる。ブルーも合体してもらい、子狼を上に乗せてヴァルクの後に続く。


 ここからダンジョンまでは思ったよりも近かった。

「すまない」

 優しく地面に下ろされ、それがまるで割れ物でも扱うかのように繊細で少し気恥ずかしさを感じていると、ヴァルクが暗い顔で呟いた。

「へ?なにが?」

 なにに謝っているのか皆目見当がつかない。
 謝るようなことなんて一切してなくないか?むしろ迷惑かけたこっちが謝らなきゃいけないのに。

「俺は治癒魔法が使えないから背中を治してやることができない」

「はぁ?」

 なに言ってんのかな?そもそも怪我をしたのはヴァルクのせいじゃないし、打撲程度に治癒を使う必要もない。

「ヴァルクが謝る必要ないだろ。ただの打撲だしすぐ治るよ」

「だが!俺がもう少し早く着いていれば怪我をすることもなかっただろう」

 いや.....、それはそうかもしんないけど.....。

「それだってヴァルクのせいじゃないし。ヴァルクが来てくれなかったら怪我どころの騒ぎじゃなかったし本当に感謝してるんだから」

 そんなこと言わないで、と続けるがまだ顔は俯いたまま。

「ヴァールーク、本当にそんな痛くないから。それにポーションもあるしそんな心配しないで?」

 "ポーション"という言葉に勢いよく顔を上げる。あまりの勢いに少しびっくりしてしまった。

「今すぐ飲んでくれ」

「へ.....?」

「今すぐポーションを飲んでくれ」

 面を食らっている俺が理解できていないと思ったのか、同じような言葉を繰り返す。
 いや、なんでよ!そもそも大した怪我じゃないって言ってるのに!

 ポーションはそれなりの値段がするので、この程度の怪我で使う気はさらさらない。ただでさえさっき子狼に使ってしまったのだから節約しなくては。

「だから、そんな大した怪我じゃないんだって。大袈裟すぎ」

 なんとか説得を試みるが、あまりにも真剣な顔で頼み込まれ、俺の方が先に折れた。

 惚れた弱みってやつですな.....。

 仕方なくポーションを飲むと、ズキズキとした痛みがすーっと消えていく。

「背中を見せてくれ」

「うん」

 背中を見たヴァルクは、赤みが引いていたんだろう、ほっとした顔をして「良かった」と呟いた。
 顔が緩んだヴァルクを見てやっぱり飲んでよかったかも、と思った。
 あんな暗い顔をさせるのは本意ではないし、そんなに心配してくれたんだなと思うとちょっと嬉しい。

 ポーションは疲労には効かないのでふくらはぎをマッサージしていると、ヴァルクが果物を差し出してくれた。
 食べていいってことかな...?でも、この間泊まった時に取る大変さも知ったから俺のせいでまた取りに行かなきゃいけない、なんてことになったら嫌だ。

「嬉しいけどこれ明日の朝ご飯だよな?俺は遠慮しとくよ」

「まだ沢山あるから気にしなくていい」

 そう言ってさらに俺へと近づける。受け取るか悩んでいると、手を掴まれて強引に果物を持たされた。これで受け取らないのも気が引けて、お礼を言ってから一口齧る。

 りんごに似た果物は齧るとシャクっと小気味の良い音を立て、ほのかな甘みが広がる。瑞々しさもあり、梨のような味わいだ。渇いた喉に丁度いい。あっという間に食べきってしまった。

「ヴァルク、ありがとう。すごくおいしかった」

「そうか。それはよかった」

 あまりにも優しい顔で微笑まれてなんかちょっと照れる。きっとがっついて食べてたであろう姿もばっちり見られてたよな....。

「それで?話とはなんだ?」

「あ、そうだった」

 2日後に騎士団とS級冒険者がダンジョンに来る事や、騎士団長と話した事なども全て伝えた。
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