ゲイツラント大陸興国記~元ヤクザが転生し、底辺の身から成り上がって建国をする!

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第四部 北方皇太子 編

第三話 作戦会議

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山裾にある帝国軍の砦《とりで》に、シメオンたちは帝都より引きつれた一万の兵と共に入城した。
 それだけの人数は無論、入れないから、外にいくつもの幕舎《ばくしゃ》が張られた。

 皇太子はもちろん、ゲルツェンという軍の大物までこんな辺境の基地までやってくることなど滅多になく、基地は慌ただしかった。

 基地の司令官をはじめ、仕官たちが平伏し、シメオンたちを出迎えた。
「殿下!
歓迎をいたしますっ!」

「出迎えご苦労。みな、立ってくれ。
これから我々は共にエルフやドワーフを退治しようというのだ。
私は軍事に疎《うと》い。
お前たちの力を是非、借りたい」

「光栄に御座います!」

「では早速、作戦会議と行こう」

「はっ」

 司令部の一室に招き入れられる。
 そこにはドビュッシー山脈やカチオンの森などが書き込まれている。

 司令官が説明する。
「蛮族どもはこの山脈を根城としており、おそらくカチオンの森を本拠においておると考えられております」

 シメオンの側近、ゲルツェンが聞く。
「考えられているとは?
直接、確かめたという訳ではないのか?」

「は……っ。
情けないことですが、峻険《しゅんけん》な環境であるが故に、地形を利用した蛮族共の抵抗は厳しく、奥地まで行けないのが現状でございます。
しかしながら、この辺りで自給自足ができうる場所は、カチオンの森しかございません。
そう考えますと……」

 ゲルツェンも厳しい眼差しを、地図へ注ぎこみ、腕を組んだ。

 シメオンは地図を見つめる。
「登り口は少なくとも五カ所。
だが、どの道も一本道。
環境の過酷さもさることながら、エルフやドワーフたちは地形を利用し、多くの妨害をしてくるだろう」

 司令官は「左様に御座います」と驚く。
 なぜ、シメオンがそんなことを知っているのかと思っているのだろう。

 シメオンは薄く笑う。
「これまで送られた討伐部隊の報告書を読んだだけだよ。
どの部隊もカチオンまでたどりついた者はいない。
強行軍で司令官が戦死するということはあっても……」

「左様にございます」

 シメオンは腹心に話を振る。
「ゲルツェン。
これはとんでもない仕事だとは思わないか?
どれだけの兵士を動員したところで数の理は活《い》かせず、各個撃破されてしまう。
馬も役には立たない」

「だがやらねばなりません。
皇帝陛下の大命《たいめい》が下《くだ》され、殿下をその名代として使わされておられるのですから」

 シメオンは司令官に目を向ける。
「ここのエルフやドワーフたちと交流は?
王国の方では、個人同士の交流は公然の秘密ということで行われているようだが」

「あいつらに限って、それはありえません。
我々を蛇蝎《だかつ》の如く憎んでおります。
連中の歴史はそれこそ、人間との戦いに尽きます。
そしてそれは今も終わってはいませんから。
憎悪の対象以外の何物でも無いかと」

 シメオンは組んだ手の上に顎《あご》をのせた。
「そう……。
もし可能であれば、和解が出来ればと思ったのだけれど」

 ゲルツェンが眉をひそめる。
「殿下。
相手は蛮族。
そのようなことを軽々に口に出されてはなりませんぞ」

「だが彼らが山奥に住んでいるからこそ、厄介なのだ。
これまでの恨みつらみを忘れ、新たに土地を与える――そういうことも、これより大陸を統《す》べる我々には必要な度量ではないだろうか」

「それは……」
 司令官が困惑して、ゲルツェンを見る。

 ゲルツェンは小さく溜息を漏らした。
「帝都よりの長旅で殿下はお疲れでございましょう。
どうぞ、お休み下さいませ」

 司令官は背筋を伸ばす。
「は、はい!
配慮が到らず申し訳ございません。
すぐにお部屋へご案内いたします」

 シメオンは苦笑しつつ、「分かった」と言い、レカペイスと共に、部屋に案内された。

 従者と二人きりになると、シメオンはレカペイスを振り返る。
「困らせてしまったかな?」

「殿下はお戯《たわむ》れで御座いましたか?」

「まさか。大真面目だったさ。
血など流さぬにこしたことはない。王国との戦いも控えてる。
こんな秘境を攻めおとしても、得るものは少ない」

「殿下」

「分かっている。
別に困らせたい為じゃないよ。
私には皇太子という立場がある。
――お前はどうだ?」

「私は殿下がそう望むのであれば、従います」

「それは嬉しいが、そっちじゃない。
今度の作戦のことだ。
さっきは何も言わなかっただろう」

「私はは軍人ではなく、陛下の側近の一人、親衛隊の隊長という役目でございます。
作戦に口を挟む立場にはございません」

「ならば、命じる。何か考えは?」

「私の考えも強行軍しかありません。
そもそも我々がまずしなければならないのは、戦うことではなく、戦える場所まで行く、ということなのです……。
空を飛べるのならば、犠牲を前提にしたことなど、口にしたくはありませんでしたが」

「安全に迎える策は?
かなりの高い確率でカチオンの森に行ける策は?」

「敵の数が分からないので、通用するかは分かりませんが」

「数はおよそ百から二百の間」

 レカペイスは虚を突かれた顔をした。
「それも報告書に?」

「いいや、類推だ。
カチオンの森の動植物に関する書物は読んでいたからね。
あそこで、他の生き物と共存して、数を維持できる人数は最大で五百くらい。
そのうち、成人で戦える人間を動員した場合、兵の質や非戦闘民を抜けば、それくらいだろうと簡単にだが、考えた。
少人数だからこそ、根こそぎ動員してもかえって動きが悪くなる……と思ったが……どうだろう」

「必ずしもどんな状況にもあてはまるとは思えませんが、確かに彼らが迎撃することを考えれば、精鋭を募るでしょう」

 シメオンは微笑む。
「お前は蛮族とは言わないのか」

「殿下がそう仰せになりませんので」

「続けてくれ」

「もし殿下の計算通りであれば、可能な作戦ではあります」

「教えてくれ」

 レカペイスが自らの考えを告げた。
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