上 下
1 / 69
第一章:ゼス、ゲヘゲラーデンの論文を王宮に届けに行くのこと。

第一節:ゼス、ゲヘゲラーデンに魔法を習い、自身の欠点を指摘されるのこと。

しおりを挟む
 それは、大陸暦10世紀初頭のある日のことであった。ビダーヤ村ではいつものようにゼスが村にいる魔導士であるゲヘゲラーデンより魔法を習っていた。
「うーむ、ゼスよ。お前さんは中々魔法を覚えられんのう……」
「申し訳ありません、もう一度お願いします!」
「ふむ、よかろ。……ほれっ!」
 と、ゲヘゲラーデンが念ずるとたちまち湧き出る炎。
「はい、それでは……えいっ!!」
 ゼスも同じように念ずる。……だが……。
「……なんだ、これ」
 出てきたものは、どう形容していいかわからない、謎の物体ばかり。
「……ゼスよ、魔法の基本概念を説明できるか?」
「は、はい!
 まずは、魔法を「想念」して……」
 ゼスの周りに、妙な空気が集まって来る。
「次に、魔法の概念を「考えて」……」
 ゼスの周りの空気が固まっていく。
「こう!」
 ……ゼスの周りの凝った空気が、きれいさっぱり消え去った。
「……なるほどな。ゼスよ、おぬしどうやら精霊から魔力を取り込もうとしておるじゃろ」
「は、はい!」
「逆じゃよ、逆。精霊に魔法を分け与えて、初めて精霊魔法は発動するんじゃ。……まさかそんな初歩的なことすら知らんかったとは……。教え方が悪かったのかのう……まあよい、本日の前枠実演ここまで!」
「ありがとうございました!」
 魔法の授業において最初の練習が終わったのようで、挨拶を行うゼス。これからは、座学を行った後に、後枠実演となる。この世界の説明の一部となるので、読者の皆様にもゲヘゲラーデン氏の魔法を扱う授業を見ていただこう。面倒な方は、読み飛ばして第二節に飛んでもらって構わない。

「さて、ゼス。魔法の属性についてはさすがに今から説明できるな?」
「はい。まず魔法の大属性として大きく分けて光と闇があり、今習っているのは光魔法。そして、自然界の四大要素である火、土、水、風をはじめとしたそれだけで魔法を発動できる基礎要素から始まり、それに時間空間、生死、そして召喚や召還などといったもの、どのような範囲を持つかといったものに個別、追跡、全体など、そしてどのような方向の力であるかという意味で力や守り、速さ、そして逆要素などといった諸要素を組み合わせることにより、魔法の存在が定義されます。魔法使いにとっての成長とは、この要素を同時に扱う枠が増えたり、新しい要素を覚えたりしたことであり、大属性は生涯変わらないものとなります。
 代表的な魔法で、敵に炎をぶつけるものは、火に追跡、力で発動します。これの力が欠けると火の粉のみが敵に付着し、追跡が欠けると火が眼前にできるだけ、追跡と力が欠けると火種が出るだけになります」
「ふむ。それでは、今日前枠で発動を試みた魔法はなんじゃ?」
「はい。光魔法で、要素は火のみなので、火種に火をともす魔法になります」
「そうじゃな。では、「火」の想念と概念を説明してみよ」
「はい。火の想念は代表的なもので「怒り」、あるいは「勇気」。すなわち「行動」の想念となり、概念としては「熱」、つまりは何らかの形で物質が急激に消耗しているものとなります」
「ふむ、ということは初心者が陥りがちな「熱素」の概念に陥っておるの。なれば、話は早い」
「熱素?」
「ああ、確かに炎とは一見物質を消耗しているように見えるが、実際は物質の反応が目に見える形で行われているだけで、土や水と違い、風同様に炎という物質はないのじゃ。「熱素」とはその炎が物質によるものであると勘違いする概念のことじゃな」
「は、はい?」
「まあよい、原因は分かった。「熱素」概念を捨ててしまえば、恐らく使えるようになるじゃろ。よろしい、本日は原因が分かっている以上後枠実演省略、少し儂の方でも教え方について考え直しておく」
「は、はいっ!」
しおりを挟む

処理中です...