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第二章:ゲヘゲラーデン、責任を感じてビダーヤ村を去り旅路に着くのこと。

第三節:ゼス、師匠の許可をもらい自警団に入団するのこと。(後)

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「はっ、ちっ、ふんっ!」
 次々に繰り出されるボーフゥの槍。それは、刃のないたんぽ槍であったが、一撃一撃がゼスにとっては重かった。
「どうした!その程度の腕でゼンゴウの腕前を名乗ったか!」
 ゼスを挑発するボーフゥ。それは少なからぬ本音でもあった。
「なんのっ!せいっ!」
「まだまだっ!」
 一方で、ゼスの木刀は精々何度かボーフゥの槍先をそらす程度で終わっており、一度も命中せずに入団試合は終わるかに見えた。が、その時である。
「りゃあっ!」
 大振りの木刀が、一度だけボーフゥの体にめり込んだ!
「やった!」
「阿呆、これは試合だ!」
 直後、体勢を崩すことなく横殴りにボーフゥの槍がゼスの頭を薙ぎ払う!
「がっ……」
 思わず意識が揺らぎ、よろめき倒れそうになるゼス。だが、かろうじて立っていた。
「ほほう、この一撃を受けて立っていられるか。大したもんだ」
 ゼスの意識が戻るのを待っている余裕があるのか、槍を立てて鼻を鳴らすボーフゥ。と、その時である。
「りゃあっ!」
「ぬ!」
 ゼスの二度目の木刀がボーフゥに当たった瞬間である。
「くくく、そうでなくてはな。それでは、こいつで終わりだ!」
 と、ボーフゥが槍を振り回しながら叫んだ。
「なんのっ!」
 慌てて木刀で防ぐゼス。だが。
「ぐわっ!?」
 木刀を叩き折ってボーフゥの槍がゼスの脳天を直撃した!
 ……そして、ゼスが片膝をついたことにより、試合は終了した。
「そこまでっ!勝者、ボーフゥ!」
「「ありがとうございましたっ!」」
 試合は、終了した。刃のないたんぽ槍であったが、ほぼ一方的な試合運びであり、ゼスは暗い顔をしていた。
「……さて、ゼス」
「はい」
「入団、許すぞ」
「えっ、いいんですかっ!?」
 驚くゼス。無理もない、負けたのだから入団不可だと思っていたようだ。
「負けたからダメだと思っていただろうが、その年でボーフゥ相手にこれだけの時間粘れたら上等よ、まあひとまずは下級団員からだがな」
「あ、ありがとうございますっ!」


「いいんですか、団長。あんな子供入団させちゃって……」
「下級団員ならまあ、実戦に加わることもあるまい、大丈夫だ」
 下級団員。基本的に戦わない、補給や調査、管理などを担当する団員である。
「そりゃ、そうかもしれませんが……」
「とはいえ、うかうかしているとあの腕前ならすぐ上級団員になるかもな」
 一方で、上級団員は戦闘員ともいわれ、自警団の中でも戦うために所属する団員である。
「そうでしょうかね……」
「団長、次の案件ですが……」
「おう」
 そして、団長は基本的に、上級団員と下級団員双方を管理する都合上、智勇兼備の人間が候補として幹部にプールされる仕組みである。自警団の団長と言えば、村の規模にもよるが王宮にものを言える立場でもあった。
「……厄介だな……」
 詰所の方からある程度遠い位置にある村長の家の方を見やる自警団長。数日前から客人が出入りするその家は、不穏な空気が漂っていた。
「団長?」
「あの客人、しばらく監視しておけ。どうやら、「味方ではない」」
「へいっ!」
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