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第二章:ゲヘゲラーデン、責任を感じてビダーヤ村を去り旅路に着くのこと。

第五節:自警団、魔法の使い手を雇い入れることを決断するのこと。

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 翌朝。
「いてて……」
 えらく多くに傷を作って帰って来た昨日の見回り係である自警団員。たちまち皆寄ってたかって質問攻めになった。
「おい、どうした。今回の巡回で何があった」
「村の中に、ショケンネズミがいやした。しかも、群れで……」
「なんだと!?」
 村の中に、ショケンネズミが侵入していた。それは由々しき事態であった。
「詳しく」
「へいっ」
 そして、彼が語り出したのは普通では考えられない事態であった……。

「……わかった、お前はしばらく休め。対策を皆で考える」
「ありがとうございやす」


「村の中に、ショケンネズミの群れ、ですか……」
「ああ、これが頻発するようならば、根本から村の防衛を考え直す必要がある」
 ショケンネズミは、かなり強い部類の魔物であり、ジセキやジセキモドキなどであれば村人でも対処可能であったがショケンネズミでは多少戦闘慣れした村人であってもよくて苦戦、惨殺されるのが落ちともいえた。とはいえ。
「しかし、一朝一夕にはできませんぜ、ひとまずは即席で何か考えないと……」
「ああ、とはいえ結界でも使おうものなら確実に彼の方の存在がバレるから、あまり頼みたくはない」
「それは、仕方ないですな」
 ゲヘゲラーデンに頼むのならば、また隠棲場所を組みなおす必要があるので、避けるべきであった。
 そして……。

「……彼の方に頼らなければ、別に魔法を使ってもよろしいのでは?」
 ある団員が、今後の自警団史に残る発言をした。彼自身、それにより次期団長候補となるのだが、その思いつきともいえる発言は、確かに組織の硬直化を阻止するのに役立ったのだ。
「どういう意味だ」
「村にも魔法を使える人間は複数いるでしょうし、結界とまではいかなくとも鳴子ぐらいは張っておけば最低限の防備には……」
 村にも魔法を使える者が複数いる。それはこのビダーヤ村の設立にも関係していたのだが、ゲヘゲラーデンが駐在して魔法を教えていることも大きかった。だが。
「しかし、自警団は危険な現場だ。あまり民間人を入れたくはないな」
 否定する上級団員。それも無理からぬことである、自警団とはそもそも「戦える村人」が「自衛のために」私兵組織を設立した部分が大きい。彼らは傭兵的立場ではあったが、その入団対象はあくまでも村人からであった。しかし。
「それは、そうかもしれませんが……」
「そうだな、そうしよう」
 自警団に民間人を入れることを承認する団長。それは、本来この村の自警団の成り立ちを考えると異例ともいえた。
「団長!?」
「本気ですか!」
 無論、団員たちは軽く反発した。なぜならば、この自警団は村の傭兵という体裁で運営されていた。無論、その自警団が働かないとあっては、契約解除もやむなしというのが村の本音であろう。それでも、団長は再び民間人を入れる意見に頷いた。
「せっかく、村に彼の方がいらっしゃるんだ、魔法の指導を受けた者もそれなりにいるだろう。自警団からの依頼ということにしておいて、魔法を使える者を臨時で自警団に入れよう」
 それは、少々危険な賭けであった。無論、鉄火場に戦えるかどうかわからない民間人を入れることもそうであったが、先ほど述べたように自警団不要論が巻き起こる可能性もあったからだ。
「……しかし……」
「なんだ、なぜ反対する」
「一応、自警団は給金をもらっています、その給金分の働きはしないと村の者が納得しないんじゃないでしょうか」
 そして、彼は案の定その意見を出した。それは、特殊な成り立ちである「自警団」という組織特有の悩みであった。だがそれに対して団長は、
「それだ」
「は?」
「俺たちの給金を削って依頼金を作るんだ、それならば問題ない」
と、自ら痛みを伴う選択肢を提示した。それは、一時の損か長い間の不覚かを選ぶものであった。とはいえ、通常の発想力ではそのようなことを思い浮かんでも飲み込むだろうに、この団長も一廉の人物ではあった。
「げぇっ、マジですか」
「嫌か?」
「嫌、ってわけじゃありませんが……まあ確かにそれならば、村の中だけで収まりますわな」
 そして、どこから費用を捻出するかに関しては、あっさりまとまった。違約金という形になる前に示談形式で村の中で収めようということになった。
「だろう?なら、そうしよう」
「どうなっても、知りませんからな……」
 かくて、自警団は魔法の使い手を募集することにした。だが……。
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