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第三章:ン・キリ王国、モンスターの大攻勢を受けるのこと。

第十一節:赤ら顔の足取り亭の怪(後)

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「では、行ってくる」
「気を付けてください、本当にハキンボであれば最悪の場合……」
「単なる勘違いだとは思うんだがねえ……」

 近衛兵とは本来、王宮に襲撃事件があった場合の切り札として温存されるべき戦力であり、ついこの前もアイバキップ襲撃事件があったこともあって本来ならばこういった事件の調査などは一般兵に任せるべきなのだろう。だが、ハキンボという薬は前にも述べた通り、管理下においてなければ国際問題となる薬である。教団の霊薬であり、収入源でもあるその薬は原材料の入手が困難なこともあって管理下に置いて適正な扱いをしなければ、容易に悪用されうるほどの効能を持つ薬であり、ゆえに入手経路によっては国際問題となるからこそ近衛兵の出動となったのだ。

「まったく、一体どこから入手したんだか……」

 ハキンボらしきものの窃盗事件から始まったこの諸事件を後世の人間はこう語る、「悪魔の壺事件」と。
 そして、ハキンボと思わしき窃盗品は予想の外早く見つかった。問題は、それを盗み出した犯人がまだ見つからないことであるが、この際犯人よりも窃盗品が無事であれば、ひとまずは解決である。裏を返せば、それだけこの「ハキンボ」という品は重要な物品であった。

「さて、問題はこれが本物かどうかなんだが……」
「隊長、ひとまずは休みましょう。鑑識がハキンボを判定するまで、それなりに時間はかかるかと」
「そうもいくまい、犯人捜しもする必要があるし、何よりハキンボをただの物取りが狙うはずがないし、そもそもハキンボをただの行商人が持っていると思うか?」
「しかし……」
「チワカスですら、現状は高級品なんだ。ハキンボなんて国に一本もあれば覇権が取れるほど……。裏を洗うぞ、この案件はおそらくかなりの裏事情を含むだろう」
「は……ははっ!!」
 だが、ハキンボは本物であり、運んでいる人物もただの行商人だった。問題は、それを近衛兵団が捜索に駆り出されたことである。犯人は、この案件が重要視され近衛兵団が動員されることまでも読んでいたのだ。

 そして、大陸暦910年2月も終わる頃……。
「なんともやれやれ。
 ハキンボを運んでいたのはただの行商人、物取りを仕掛けた犯人もハキンボとは知らず貴重品だという理由で窃盗を行っただけ。
 中々にふざけた案件だったな」
「とはいえ、平和裏に済んでなによりでした。万一のことを考えればこの程度で済んだのはむしろ幸運ですよ」
「まあ、それはそうなんだが……ん、なんだその壺は」
「鑑識が現在判定中なんですが、なんでも件の行商人からの賞金代わりのお宝だそうです」
「……一応、俺達が受け取って収賄にならないかどうかだけは確認しておけ、当てはまらないならば、適当に売り払って捜査した人間全員で山分けにしろ」
「ははっ」
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