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第四章:ゼス一行、教会の支援の下サム病撲滅のため旅立つのこと。

第六節:ルーチェ、ネブラの発言に想いを断たれ、レイス、ルーチェを励ます名目で船旅を楽しむのこと。(仮題)

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「それって、どういう意味なんですか?」
 ネブラの先ほどの発言に対して、真剣な目で尋ねるルーチェ。それに対してネブラは、
「……いつも言っているはずだよ、自分で考えて、判らなければさらに調べる、と」
と、いつものひょうひょうとした態度で返答した。
「ですがっ……!!」
 さらに、二の句を告げようとするルーチェに対して、
「……じゃあ聞くけどね、神って何だと思う?」
ネブラは、神学の根幹を問うてみた。
「……この世を作った方、……では、ないのですね、ネブラ神官」
「まあ、以前の君ならばそれを疑いなく信じられたのかもしれないけど、やっぱりわかっちゃうか。
 うん、君は歳に似合わず敏い方だ。だからこそ、僕が何が言いたいかわかってしまう。
 じゃあさらに聞くけど、神じゃなければ何がこの世を作ったと思う?」
「そ、それは……」
 思わず、言葉に詰まるルーチェ。それに対してネブラは、
「まあ、そういうことだ。協調は美徳だけど迎合は悪徳だよ。
 で、僕らが南の大陸に行く理由は、そういうことさ」
と、さらにルーチェに過酷な事実を告げた。
「……南の大陸には、一体何があるんですか?」
「さてね、僕も行ったことがあるわけじゃない。とはいえ、教会勤めだと情報は入ってくるからね。
 ……君も、見ると驚くと思うよ」
「…………」

「あ、ルーチェおかえりー」
 クヴィェチナがルーチェを出迎える。その表情は、最初にこやかなものであったが、ルーチェの顔色を見て明らかにトーンを下げた。
「ただいま、もどりました」
 ルーチェの表情は、誰がどう見ても昏いものであった。否、ただ昏いのならばまだよかったが、その目の色には明らかに絶望の色が映っていた。
「……何か、あったの?」
「……はい」
 いつものルーチェならば取り繕うのだろうが、そのような余裕すらないのか、憔悴しきったまま多少の震えと共に横になる。
「まあ、その辺にしておきなさいな」
 なおもルーチェに質問をしようとするクヴィェチナを制したのは、レイスだった。
「レイス……」
「人には、知られたくない傷痕とか、見たくなかった事実とか、いろいろあるのよ。村長の娘だったら、それくらいわかるでしょ」
 レイスは、ルーチェに対して「なにもしなかった」。それが、ルーチェとの長い付き合いの中で彼女が得た解決方法だった。ルーチェは、よく無理をしがちで苦を口に出さないことは、付き合って数ヶ月の彼女でも知っていた。だが、そのルーチェが苦を口に出したということは、よほどのことと言えた。無論それは、ネブラのこの前の発言が原因であることは、彼女もまた見当がついていたということもあったのだが。
「……そういうことなら聞かないけど」
 クヴィェチナも納得したのか、ルーチェとの問答をあきらめることにした。そして、レイスが次に放った言葉は、誰もが唖然とするようなものであった。
「そういうこと。……で、これからどうするの」
「えっ?」
「せっかく旅費まで持ってくれる船旅よ? 楽しまなきゃ損じゃない」
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