勇者失格

墨汁らぼ

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25… 予兆

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若き騎士クラウスはちょうど17歳になったばかり。

地方ではあるが権力と財力と、中央の王からの信頼を程よく持ち合わせている豊かな領主の三男だ。

2人の兄は共に優秀であり、由緒ある家系は安泰に見えた。

クラウス自身も文武ともに優秀で、多少の親のコネもあるが、若くして憧れの中央の騎士団に入ることが出来た。

そしてあの、奇跡の青い騎士と称されるジェイドの騎士団に配属されたのだ。

それはこの上なく栄誉なことで、親や兄達からも一族の誉れだと喜ばれた。

ジェイドのような立派な騎士になることだけを夢見ていた17歳だったが、

彼は今困惑している。


目の前にいる美しい少女の微笑みを見た瞬間から、世界が変わってしまったようなのだ。


優しい心を表したような栗色の髪と瞳の、小さな少女。
しかし不釣り合いな豊かな乳房、白い肌、濡れたような長い睫毛は男の欲望を駆り立てるには十分だった。

そばにいるだけでみぞおちの奥が苦しくなり、下半身が熱くなるのを感じてしまう。

それでも今までは何とか、訓練された心身によって邪な感情を抑えてきた。

(ジェイド様が溺愛している…)

ジェイドは時としてアスカを乱暴に扱うが、恐ろしいほど愛しているであろうことは、見ていればよく分かった。

テントで、馬車の中で、宿屋で、何度もアスカの耐えられなくなってもれる喘ぎ声を聞いている。

目の前で、可愛らしい声で話すあどけない顔の少女が、毎夜娼婦のように抱かれている姿は想像出来なかったが、それがまたかえって興奮した。


「クラウスさん、もし良ければなんですが、ロウソクを一本いただけませんか?」

「ろ、ロウソクですか?」

不意を突かれお願いされて、クラウスは少しどもってしまった。
若々しい肌が桃色に染まる。

「はい。窓のない馬車の中はとても暗いので…。ミツロウほど上等でなくても良いので…」

「あ、ああ、そうですね。今日はこれから夜の強行軍になりますし、寒くもなってまいりましょう。

もちろんミツロウをご用意致します。それと、何か暖かい毛布を持ってまいります。」

ありがとう、と言ってアスカはまた微笑んだ。

(全てが魅力的だ…)

クラウスはその場を離れるのも惜しく感じる。

アスカの吐き出す息を感じていたい、と思う。

物資を乗せた馬車に行き、ロウソクと毛布を素早く探した。

ロウソクのそばに小さな甘い砂糖菓子があったので、それもコッソリ持ち出した。

急いでアスカの所に戻ると、ジェイドがピタリと張り付くように横に立っている。

もう気安く話しかけるわけにはいかないと感じ、一礼してロウソクと砂糖菓子を忍ばせた毛布を渡した。

「これはなんだ」
ジェイドはアスカに聞いた。

「暗く、寒くなりそうなのでロウソクと毛布をお願いしました。」

「そうか」

ジェイドは自分が着ていた青いマントを脱いでアスカのに掛けた。

「えっ…」

「寒ければそれも着ておけ。」

ズシリと重い青い衣がアスカを包む。ジェイドの香りがした。


その姿を見て、クラウスは濃紺のマントの上に裸にされたアスカを想像していた…


*****

しばしの休憩と準備の後、騎士団は虹の谷を進む。

「雨は降らぬと思うが、ここは何が起こるかわからない!皆気をつけるように!」

第二隊長が馬を走らせて騎士達に伝える。

馬車の中で、アスカは嫌な予感がしていた。

「雨…降るんじゃないかな…」

外は見たところ星が出ていて良い天気に見えるが、風が騒いでいる。

天気に左右される漁師町で育ったアスカは天気に敏感だった。

〝大雨が降る前、動物たちは静かになって、風が騒ぎ出す。
生暖かい風が足下から吹いてきて
冷たい風が心臓を騒がせ、
嵐が頭を掻き乱す〝

「嵐…」

アスカの心臓の高さにあるロウソクが大きく揺れ始める。

窓のない馬車にも隙間を見つけて入ってくるのだ。

アスカの馬車の横に護衛として付いているクラウスの柔らかい金髪がバサバサと風になびいた。

「ジェイドさんに言わなきゃ…。きっと嵐がくるって」

アスカが馬車の扉を開けようとした時、まったく突然に、大量の大粒の雨が谷の地面を叩きつけてきた。


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