勇者失格

墨汁らぼ

文字の大きさ
29 / 34

29… コウモリの町

しおりを挟む

その頃、レオン、アンナ、ロンドの3人は馬車で〝コウモリの町〝に向かっていた。

「崖に囲まれたコウモリの町は、その名の通りコウモリや鳥たちが沢山いるの。
右の大陸と左の大陸とが連絡に使う、紫オオコウモリが有名なのよ。」

〝名前のない怪物〝を倒して以来、レオンにべったりのアンナが言った。

「人魚の村に帰ることも考えたが、アスカの事が心配なんだ…。
今はアスカを探したい。しかし村の様子も知りたいし、危険も知らせたい。
コウモリの町から、人魚の村に連絡してもらえるだろうか?」

レオンの返事が気に入らないアンナ。
「ちょっとレオン!そのちょいちょい出てくるアスカって誰よ!
えらく大事そうにしてるじゃない⁈」
レオンは困った顔をした。
「アスカは親友なんだ。
今、とても困った状況にある…ボクが助けてやりたい。」

「その…アスカって男⁈」
アンナのその問いにはなんて答えていいのか分からないレオン。

ただ、アンナが望む答えは分かっていたので、
「そうだよ」
と微笑んで言った。嘘ではない。

アンナは満足そうだったが、馬車の手綱を握る銀髪のロンドは「んなわけねーぞ」と呟いた。

男があんなに必死になるのは愛しい女のためだけだと決まっている。


上り坂が多くなり、あたりの風景に茶色のゴツゴツした岩が増え始めてから半日、

レオンたちは

コウモリの町

に到着した。

周りの岩と同様の、茶色の煉瓦造りの建物が谷の川沿いに点在している。
綺麗に区画された畑や田んぼも豊富だ。

「いい町だな…」
人魚の村で村長の息子として生きてきたレオンは一目でそう思った。

水があり、風が吹き、緑が豊かで崖に守られている。

「でしょう。高地の辺鄙な町に見えるかもだけど、ここから中央の国まで実はそう遠くない便利な場所なのよ。
さあ、行きましょう!」
アンナは馬車から飛び降り、楽しそうに下りに入った町への道を走っていく。

レオンは馬車を下りず、ただ手を振って見送った。

「あいつの大好物のお菓子がこの町の特産なんだ。
あんな奴だけど中身はガキさ。」
ロンドは珍しくレオンに話しかける。

「キミたちは、この町に何の用出来たの?」
レオンも聞き返す。

「・・・オレたちは旅してるだけだ。各村や町を、依頼をこなしながら食いつないでいるのさ。
今、この右の大陸の南半分は化け物が出るようになっちまったからな。
なるべく安全な北に逃げて来たってわけだ。

目的というものがあるとすれば、生きることぐらいだ。」

レオンはただ頷いた。

生きることが目的…

何故か心に響いた。
結局生き物の目的はそれだけだというのに、どうして生き方を迷ってしまうのだろう。

アスカ…男でも、女でも、ただ生きていてくれればいいと思える唯一の人…

生きて、触れたい。

レオンはあの日、白いテントでの出来事を思い出していた。

ジェイドに激しく乱されるアスカは、まさに〝生〝そのものだった。

蠢く裸体に、汗、涙、血

憎悪、嫉妬、快楽…

生きる意味のの全てがあの場にあった。

「レオン!」
アンナが呼ぶ声で我に帰るレオン。

「宿は確保できたわよ!お腹ぺこぺこだから、食事にしましょう!」
一足先に町に着いたアンナが色々手配したらしい。

町は程よく賑やかで、短いが大通りには店がいくつも並んでいた。
「茶色のレンガ…ボクが育った人魚の村にはなかったから珍しいな」
レオンが辺りを見回しながら言う。

春の始めのような風も心地いい。

「ね、レオン、世界にはここより珍しい町や村がいっぱいあるわよ!旅は面白いでしょ?」
アンナが小走りで振り向きながら言った。

旅…アスカと、一緒に行こうと心を躍らせながら約束したのはいつだっただろうか。

3人は宿屋の馬車置き場を借りて馬たちを世話した後、食堂に向かった。

「楽しみにしてたのよね~~!!」
ニコニコのアンナがテーブルの上に並べられた料理を嬉しそうに眺めた。

コウモリの町は中央の国に集まる特産品が輸送のついでに流れてくる場所にあるので、食材が豊富だ。

この町だけでもブドウやリンゴ、川の魚などが豊富で、なかなか手に入らないのは海の生魚くらいだった。

中でも、ブドウを使ったお酒やお菓子が絶品で、アンナだけではなく、この町に立ち寄る人間ならば必ず食べていくし、お土産に購入したがるので、買える数に制限があるほどだった。

3人はまずブドウのお酒を飲む。

「これは…凄い」
驚くほど美味しいとレオンは思った。

ブドウのお酒は何度か飲んだことがあるが、これは確実に何かが違う。

アンナはレオンの反応に満足そうだった。
「でしょう、でしょう!!
お金があって制限がなければぜーんぶ買い占めたいぐらいよ!」

ロンドが二杯目を飲みながら言った。
「せいぜい味わって飲み食いした方が良さそうだぞ。
さっき店のオヤジに聞いたんだが、ここ最近、紫オオコウモリが飛ばなくたって、材料の調達ができなくなっているそうだ。」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...