ケーキなボクの冒険

墨汁らぼ

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夕暮れの魔

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「う、うん、一緒に逃げよう!」「ついでだし!」

思わず快諾するリーフ。
ララには何も逆らえないほどの魅力があった。

ララはニコッとして立ち上がる。「うれしい、ありがとう」
全く体重を感じさせない動き。軽やかな蝶のようだ。

歩くたびに長い銀髪がゆらゆら、なぜか花の香りもする。
リーフはドキドキしながらララが差しだしてきた手を取った。
しっとりしていて柔らかい。

手をつなぎ、小川に沿って歩きながら話をする二人。
「ボクはリーフって言います・・・。マーリン王子に連れてきてもらったんだけど、えーっと、
やっぱり自分の家に帰らなきゃならなくて、城から逃げようと思ったんだ。」

「リーフさんのことは、私のお世話をしてくれているソフィアから聞いたの。
マーリンのお嫁さんじゃないの?どうして逃げようとしてるの?
マーリンが嫌い・・なの?」

返事に困るリーフ。
実は自分が男で・・・とか言ってもいいものかどうか分からない。
説明しても信じてもらえる自信がなかったし。

愛らしいヒスイの瞳がリーフを覗き込む。
どぎまぎしながらごまかすリーフ。
「あ、うーん、その、ボクはマーリン王子にふさわしくないというか、色々勘違いもされてるし、
とにかく結婚は無理かな~なんて。
あ、ところでララはどうして逃げようとしてるの?
ここはララのおうちでしょう?」

ララは舌を出していたずらっぽく笑った。
「へへ。お城の中が退屈だったから。ずっとずっ~とお部屋の中ばかりでつまらなかったの」

(かっ・・・可愛いっっっ~~~~~~~~~~!)
おどけるララはまさに神級の可愛さ、1000年に一人のレベルの天使の様だった。
思わずつないだ手が汗ばむリーフ。

はたから見ると可愛い女の子同士が仲良く手をつないでいるように見えるだろうが、片方の中身はさえないったらありゃしない高校生男子である。

リーフは思った。
(ララのあまりの可愛さに、王様も王子も外に出さずにいたんだな~。で、きっと、ボクに助けてほしいと言ったのは、ララの話し相手にでもなって欲しかったとかに違いない!まったく勝手だなぁ)

ララは外が珍しいのか、小さな虫でも花でも草でも喜んで見ている。
たまに話しかけたり、微笑んだり髪をかき上げたり、目が離せないほど愛らしいしぐさで。

(この世界に来て初めてイイコトあったー!)
思わず神(小さいおじさんに)にも感謝するのであった。

「あ・・・、でもごめんね・・・。ボク迷子になってるんだ。お城からどうやって、どこから出ればいいんだろう?」
「うふふ、わたしもわかんなーい」

笑うララ。デレデレのリーフ。
とりあえず小川が流れる方向に歩くことにした。

二人の小さな旅はすごく楽しいものになった。
ララは見るものすべてが新しくて楽しく、リーフははしゃぐララを見るのが嬉しかった。
川べりで休憩しながらお弁当にしたホットケーキを二人で分け合って食べる。

ララは涙ぐむほど美味しい、美味しいと言いながら食べてくれた。
「こんなおいしいもの食べたの初めて!リーフってすごいね!大好き!」
ララがリーフを見て微笑む。

(あーーーー!今日まで生きててよかった!)
今までに経験したことのない気持ちが生まれてくるリーフ。

(キ…キスしたいな・・・)
ララの紅い唇を見る。白い肌につややかな唇。
きゅって抱きしめて、キスしたい。

この世界に来てアーサーやらマーリンやらにはキスされてしまったが、自分からしたいと思ったのは初めてだった。
男が女の子にキスしてしまう気持ちが分かった気がする。許されるなら、今すぐしたい。

しかししかし。悲しいかな、水面に映る自分は巨乳の小さな黒髪の女の子である。
男の戻りたいと、このとき切実に思った。
(でも、ララは男のボクなんて友達にもしてくれないかも・・・)
お得意のネガティブなリーフ。

休憩しているうちに日が暮れてきた。
あたりがオレンジ色に染まり始める。

「暗くなる前に町まで出ないとね・・・」
リーフがララのほうを見ると、ララは無言で立ち上がった。

夕日が逆光になってララの顔が見えない。
ただ、ララは座っているリーフをじっと見降ろしている。
「ララ?」

返事はない。

「ララ、どうしたの?」

夕日は異様な速度で沈み、急に景色が変わる。
蒼いベールに包まれたような空間。

ほんのわずかに残ったララの影は、どんどん長く延びている。


「ララ・・・・?」


ララは、ララではなくなっていた。
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